2025年4月8日
熱帯林行動ネットワーク
マイティー・アース
「第6版 世界チョコレート成績表(2025)」発表
EUDRで飛躍する世界、取り残される日本企業
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)とマイティー・アースは、4月8日、協力団体として参加した『第6版世界チョコレート成績表(2025)(チョコレート・スコアカード)』(以下、『世界チョコ成績表』)を発表した。オーストラリアの人権団体であるビー・スレイバー・フリーが率いるプロジェクト『世界チョコ成績表』は、世界の大学、市民団体、コンサルタント会社など33団体が協力して実施し、今年で6回目を数える。
世界チョコ成績表では、世界のチョコレート業界の商社、加工業者、製造業者、小売業者など、チョコレートの関連企業81社を調査対象(回答60社、無回答21社)として、各社の調達方針と取り組みを評価している。今回、日本企業では、中・大規模企業が7社、小売業者が2社の合計9社が調査対象となった(うち1社が無回答)。
【日本企業の総合評価】
• 日本企業の中では、総合評価において、伊藤忠商事が最も高い評価(オレンジ)を得た。しかし、EUDR(欧州森林破壊防止規則)への対策が進む欧米企業には大きく水をあけられている。
• ここ数年日本企業をけん引してきた不二製油グループ本社(ブロマー)は、今回大幅に評価を落とした(昨年26位(オレンジ)から36位(赤))。
• 日本企業は児童労働の問題に積極的に取り組み、一定の評価を得ているが、その他の課題への取り組みについてはあまり進んでいない。
• 中・大規模企業39社のうち、森林破壊ゼロのコミットメントをしていないのは5社で、そのうちの4社が日本企業。
• 日本企業のうち2社はSBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の方針を持つが、他の企業も欧米並みにEUDRを遵守する形で調達先に森林破壊がないか確認し公表すべきである。
世界チョコ成績表では、対象企業を①中・大規模企業、②小売業者、③小規模企業(カカオ取扱量1,000トン以下)のカテゴリーに分け、それぞれ異なるアンケートを行った。6つの分野(トレーサビリティと透明性、生計維持所得、児童労働、森林破壊・気候、アグロフォレストリー、農薬)で企業を「緑」(方針と実行で業界をリードする)から「黒」(透明性に欠け、無回答) まで5段階に評価している。
第6版 世界チョコレート成績表(英語)へのリンクはこちら
日本企業の成績
【成績表全体の概要】
• 世界的なカカオの不作による供給不足のためにカカオ価格が高騰し、長年リスクを負ってきた農家だけでなく、今や企業までもが圧力を感じている。まとまりのない取り組みでは不十分であり、各ステークホルダーの協力体制の下、一貫性のある戦略が必要である。
• 多くの企業が「世界チョコレート成績表」をきっかけに取り組みを開始し、データを共有し、信頼を築いている。児童労働に関するデータを完全に開示した大手企業は、第4版では45%、第5版では58%だったが、第6版では82%に増加している。「透明性と共に説明責任が高まりつつある」というトレンドが明確に示され、チョコレート業界は風通しの良い業界になりつつある。
• 小売業者の総合評価「緑」獲得は1社、「黄」獲得は4社、「オレンジ」以下は27社だった、小売企業のプライベートブランド商品は、商品棚で大手ブランドのすぐ隣に置かれ、価格、パッケージ、調達の面で競い合っているが、サプライチェーンの説明責任に関しては大半の小売業者が後塵を拝している。
• 農薬使用量は依然として危険水準にあり、農業に携わる人々、特に子どもや妊婦の健康を害し、環境を破壊しているが、業界の対応に変化は見られない。被害は実際に起こっているが、100%オーガニック商品を取り扱う「緑」獲得企業が示すように、解決策もまた存在している。
• 全てのカカオ農家が生計を立てるために収入を得る権利を有しているが、「生活に十分な収入を得ている」と企業が把握している農家はわずか16%しかない。一方のサプライチェーンの端では、消費者がシュリンクフレーション(商品量の減少)と価格高騰に直面している。企業ばかりが得をするシステムは破綻しており、今こそ修正するべきである。
• EUDR(欧州森林破壊防止規則)の実施により、半分以上(56%)のカカオがトレーサブル(追跡可能)かつ森林破壊を伴わない過程を経て供給されるようになった。サプライチェーン全体で森林破壊を阻止するには、世界的な取り組みと、より強力な規制が必要である。約束だけでは不十分であり、強制力、説明責任、実際の取り組みが必要とされている。
• データが示すように、カカオ産業で児童労働が蔓延していることは周知の事実であり、「児童労働をなくす」という最初の約束から25年が経った今も児童労働はなくなっていない。企業は児童労働の減少を報告したが、NGOは「カカオ・ウォッシング(表面的な改善)」と批難する。業界は自画自賛をやめ、革新と根本的原因の解決に取り組み、真の体系的変化を大きく推進させる必要がある。
• 6大チョコレートブランドの収益は、合計で2,150億ドル超、一方の2大カカオ生産国であるガーナとコートジボワールのGDPは、合計で約1,550億ドルである。これらの大企業は、真の変革を推進できるだけの力と収益を得ている。あまりにも多くの農家が貧困から抜け出せずにいる現状に、業界の最大手企業は、今こそ立ち上がるべきである。
ビー・スレイバリー・フリーの共同代表ファズ・キット(Fuzz Kitto)氏は次のようにコメントしている:
「消費者は、記録的なチョコレートの価格高騰や製品の小型化を受け入れざるを得ない状況にある。最低限、奴隷労働のないチョコレートを期待している。世界チョコレート成績表は、消費者がこのイースターに賢い購入を選択する手助けとなるだろう。チョコレート企業は、自社のポリシーや取り組みを語るのを好むが、サプライチェーンから児童労働を排除すると約束してから25年が経過した今、企業が『カカオ・ウォッシング』をやめ、より効果的な行動を取るべき時が来た」
【受賞企業】
◼ グッド・エッグ(優良)賞 Tony’s Chocolonely(中・大規模企業)
◼ グッド・エッグ(優良)賞 Coop(小売業者)
◼ グッド・エッグ(優良)賞 Beyond Good(小規模企業)
◼ ジェンダー賞 Mars Wrigley
*児童労働を削減する女性支援活動で評価
◼ バッド・エッグ賞 Mondelēz
*調査に不参加で、公的説明責任が欠如しているため
グッド・エッグ(優良)賞を受賞したTony’s Chocolonelyの「オープンチェーン拡大部門」の責任者ジョーク・アーツ氏は次のようにコメントしている:
「Tony’s Chocolonelyでは、透明性は単なる価値観ではなく、カカオ業界に真の変革をもたらすために不可欠なものである。世界チョコレート成績表は、企業が同じ基準で報告を行うことを保証し、業界に説明責任を負わせる上で重要な役割を果たし、有意義な進展を促すための公平な競争の場を作り出す」
ジェンダー賞を受賞したMars Wrigleyのグローバル・カカオ・サステナビリティ担当副社長のハーパー・マコネル(Harper McConnell)氏は次のようにコメントしている:
「Marsでは、ジェンダー平等の推進がカカオ業界の改善にとって重要であると認識している。女性農家を支援することで、カカオ生産コミュニティーを強化し、家庭の収入増加や森林保護にも貢献している。私たちは、CAREと長年にわたり協力して行ってきた『女性のための変革(Women for Change)』プログラムなどの取り組みを誇りに思っている。このプログラムは、2024年にはメンバーが101,000人に達し、そのうち75%が女性で、合計2,000万ドルの貯蓄とクレジット、1,300万ドルの貸付金が集まった」
【日本企業の取り組みについて】
■ トレーサビリティと透明性
企業が、自社のサプライチェーンでカカオがどこで生産されたものか確認するというトレーサビリティを完璧にすることは、その背後に潜む児童労働・強制労働や森林破壊などの問題に対処する上での第一歩である。 日本企業は、成績表での評価アップに見られるように少しずつ向上しているが、生産組合まで追跡可能なカカオは47%(日本以外は67%)、農家まで追跡可能な30%(日本以外は58%)であり、世界と大きく水をあけられている。
■ 森林破壊
日本に輸入されるカカオ豆の約7割(2022年)はガーナ産のもので、日本とガーナのつながりはとても深いと言える。一方で、過去30年間でガーナ国内の森林は65%を失った。過去4年間(2019年~2022年)を見ても、森林の約4.7%が失われている。カカオのカカオの生産地域はガーナ南西部の熱帯雨林が広がる地域と重なっていて、森林破壊と深い関係がある。また、マイティー・アースによると、RADDアラートでは、2024年1月以降、ガーナのカカオ生産地域で16,000ヘクタール以上の森林攪乱が検出されており、依然としてガーナの森林破壊が止まっていない。森林破壊は生物多様性に影響を与え、ゴリラ、チンパンジー、ピグミーチンパンジー等の大型類人猿の生息地の多くを破壊している。
中・大規模企業39社のうち、森林破壊ゼロのコミットメントをしていないのは5社で、そのうちの4社が日本企業。
EUDR(欧州森林破壊防止規則)は1年間実施を延長したが、日本企業の評価も9社中6社がオレンジの評価(内2社が赤からオレンジに評価を上げた)であり、森林破壊への取り組みを後押しした。しかし、世界との差は未だ大きい。
日本企業のうち2社はSBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の方針を持つが、他の企業も欧米並みにEUDRを遵守する形で調達先に森林破壊がないか確認し公表すべきである。
【参考URL】
・世界チョコレート成績表(第5版・2024年)(JATAN作成)
・世界チョコレート成績表(第4版・2023年)(JATAN作成)
・世界チョコレート成績表(2022年)(PDF)
・世界チョコレート成績表(2021年)(PDF)
・世界チョコレート成績表(2020年)(英語版)(PDF)
・『チョコレートの舞台裏~カカオと森林のつながりをたどって』(JATAN作成)
・チョコレートについての基本情報(JATAN作成)
・マイティー・アースによるカカオ・アカウンタビリティ・マップ(ガーナ)(日本語版)
お問い合わせ先:榎本肇 cocoa[@]jatan.org(日本語対応)
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)について
熱帯林をはじめとした世界の森林の保全のために、森林破壊を招いている日本の木材貿易と木材の浪費社会を改善するための政府、企業、市民の役割を提言し、世界各地の森林について、生物多様性や地域の住民の生活が守られるなど、環境面、社会面において健全な状態にすることを目指しています。
マイティー・アースについて
マイティー・アースは、命ある地球の保護活動を行うグローバルなアドボカシー組織です。自然のために地球の半分を守り、命が繁栄できる気候を確保することを目標としています。 当組織のチームは、世界に張り巡らされたパーム油、ゴム、カカオ、飼料などのサプライチェーンにおいて森林破壊と気候変動をもたらす汚染を大幅に削減するよう大手企業を説得し、熱帯地方の先住民族や地域住民の生活向上を図ることにより、変革を実現してきました。
ビー・スレイバリー・フリー(Be Slavery Free)について
ビー・スレイバリー・フリー(BSF)は、市民団体、コミュニティー、およびその他の組織からなる連盟で、オーストラリア、オランダ、そして世界各地で現代版の奴隷労働の防止、廃止、撤廃に向け活動を行っています。現代版の奴隷労働の防止、撤廃、対策を現地で行ってきた経験があり、特に、サプライチェーンにおける奴隷労働問題に注力し、豪州での現代奴隷法の可決に寄与しました。2007年以降はチョコレート業界との取り組みを行い、カカオ生産における児童労働と奴隷労働の問題への対応を求めてきました。