本ページの情報は、米国に拠点を置く環境NGO マイティ・アース(Mighty Earth)が2017年に発表した、チョコレートの原材料であるカカオの二大生産国であるコートジボワールとガーナにおける森林破壊や人権侵害といったカカオ生産の裏側をまとめたレポート「CHOCOLATE’S DARK SECRET」の内容を基に、カカオ生産の問題と課題をまとめたものです。レポートの原文(英語)は以下リンク先よりお読みいただけます。
https://www.mightyearth.org/wp-content/uploads/2017/09/chocolates_dark_secret_english_web.pdf
日本とチョコレート
バレンタイン商戦
日本では2月14日のバレンタインデーが近づくと巷には所狭しとチョコレートの箱が並べられます。
チョコレートは世界的に巨大なビジネスであり、世界市場は年間10兆円規模で、2025年には15兆円を超えると言われています。日本での一人当たりのチョコレート年間消費量は、2009年に約1.74kgであったものが2019年には2.19kgと、この10年間で500gほど増えています。
ガーナからの輸入が約7割
さて、チョコレートの原料は、カカオですが、これは緯度20度以内の赤道に近く、熱帯植物であるカカオの木の種子であるカカオ豆から取れます。日本でカカオ豆の生産国を挙げてくださいと質問すると、皆さんガーナと答えるかもしれません。有名なお菓子メーカーの商品名にも使われているように、日本に輸入されるカカオ豆の約7割は西アフリカのガーナからのものです。ガーナは世界のカカオ豆の生産で第2位(約15%)であり、第1位のコートジボワールと合わせて世界の生産量の半数以上を占めます。
ガーナからのカカオ豆とカカオ調整品の輸出先を見たときも、日本はオランダに次いで2位であり、カカオに関してガーナと深い関係にあると言えます。
4大菓子メーカーが6割のシェアを占める
日本国内の2020年のチョコレート製品の生産額は、3,870億円(注1)になりました。菓子メーカーの売上額を比較すると、第1位が明治、以下ロッテ、江崎グリコ、森永製菓と並び、4社のチョコレートの売上高は全体の6割を超えています。
注1)全日本菓子協会・2020(令和2年)年お菓子データ
また、Candy Industryによる世界のチョコレート会社の売上高のランキングを見ても、トップ10に日本から2社(明治、江崎グリコ)の会社が入っており、その規模からみても日本の会社の影響力は決して小さくないと言えます。
チョコレートに潜む暗い秘密〜カカオ栽培が引き起こす悪影響
森林破壊
2018年には、ガーナは世界で最も森林破壊が進んでいる国の第一位となりました。既存の森林を伐採し、カカオの単一栽培を行ってきたことが一因とされています。ガーナでは2014年の段階で、行動を起こさなければ、次の10年で国立公園の外に残る全ての森林が姿を失うことになると言われています。また、2018年には3つの保護林でカカオを要因とする森林破壊が7倍に増加しました。
生物多様性の喪失
森林破壊が進むにつれ、チンパンジー(絶滅危惧種(EN))やマルミミゾウ(Loxodonta cyclotis.)(近絶滅種(CR))、その他の野生生物たちが行き場を失い、個体数が激減しています。
気候変動への影響
カカオ生産のための森林破壊は、気候に大きな影響を及ぼします。カカオのために伐採される熱帯雨林は、地球上の生態系の中で最も高い炭素貯留量を持っています。それらが消失すれば、大量の炭素が大気中に放出されます。
小規模農家とカカオ生産
カカオの生産は、500万人から600万人と言われる、多くの小規模農家の厳しい労働によって支えられています。ガーナではカカオ農家は1日約84セントを得ていますが、それは世界銀行による一般世帯の貧困定義(1日1.90ドル)をはるかに下回っています。
板チョコの小売価格のうち、35%はチョコレート会社に、44%は小売業者に分配されますが、生産者にはわずか6.6%しか届きません。
児童労働
西アフリカのカカオ農場では、156万人の子供たちがカカオ農場で働いています。そのうちの多くが、国際機関が「最悪の形態の児童労働」と定める、ナタを使った収穫、重い果実の運搬、農薬の散布など危険な仕事に従事しています。ほとんどの子供は両親の営む農場で働いていますが、少なくとも1万6000人の子供たちは、故郷から遠く離れたカカオ農場で働かされています。
カカオ栽培による児童労働について詳しくはACE(エース)のウェブサイトをご覧ください。
問題を解決するためには?
カカオと森林イニシアチブ(CFI)
2017年、イギリスのチャールズ皇太子の呼びかけで、世界の主要なチョコレート企業35社(日本からは株式会社明治が参加)と世界カカオ基金、コートジボワール、ガーナ両政府などが参加し、カカオ生産による森林破壊を抑止するために「カカオと森林イニシアチブ(The Cocoa and Forests Initiative, CFI)」の設立を発表しました。
CFIは、2018年に国家実施計画(コートジボワール、ガーナ)、さらに2019年には企業向け行動計画(コートジボワール、ガーナ)を発表しました。
開発途上国におけるサスティナブル・カカオ・プラットフォーム
持続可能なカカオ栽培を続けていくために複数のステークフォルダー(関係者)から構成されるプラットフォームが欧州5カ国で設立されています。日本でもJICAの呼びかけで2020年1月に「開発途上国におけるサスティナブル・カカオ・プラットフォーム」が設立されました。
カカオサプライチェーンのトレーサビリティ(追跡可能性)
トレーサビリティとは、カカオの供給網において、どの農場でどのようにして栽培され、どのような経路でカカオを調達したか追跡できるようにすることです。
そのことで、カカオ生産において、森林破壊や児童労働が行われていないか確認ができ、企業もそれに従って持続可能な調達ができるようになります。CFIでは、森林破壊の進行状況を測定・監視する、共同利用が可能なシステムの構築を掲げていますが、現在までに実現には至っていません。
アグロフォレストリー
アグロフォレストリー(Agro-forestry)は、「農業(Agriculture)」と「林業(Forestry)」を組み合わせた造語で、木を育てながらその間で作物を栽培する複合農業形態を指します。これまでのカカオ栽培は、短期的な生産性を高めるため、森林を伐採し、カカオのみを植え付け、農薬や化学物質漬けの単一栽培を行っていました。しかし、アグロフォレストリーを採用し、カカオを樹冠の日陰の下で育てることで、物質循環、浸食防止、水分調整、窒素固定、作物受粉、雑草の生育抑制などの恩恵を受け、カカオの生産性を向上させることが分かってきました。
多くの企業は、アグロフォレストリーを導入したカカオの栽培に移行しつつありますが、アグロフォレストリー自体の定義が曖昧で、科学的な見地に基づいた改善の余地がまだあります。
生活賃金
カカオ生産を行う小規模農家の収入は極めて低く、多くの収入を得ようと、不法な農地取得のための森林伐採や児童労働を行う悪循環が起こっています。
衣食住に限らず、子供に教育を与えたり、適切な医療や社会的支援が得られたり、基本的な生活の選択肢を与えることのできる「生活賃金」を、企業がカカオの価格に上乗せして支払うことを約束しています。
わたしたちにできること
私たち日本の消費者も普段からチョコレートを消費しており、このような問題にまったく無関係ではありません。それでは、私たち一人ひとりには何ができるのでしょうか?
チョコレートの暗い現実を知ってしまうと、後ろめたい気持ちを抱えてしまい、食べるのをためらってしまうかもしれません。しかし、持続可能なチョコレートを選んで購入するという選択肢もあります。
2022年4月には、新しい「チョコレート成績表2022年」が発表されました。これは欧米のNGOが中心となって、世界のチョコレート企業によるカカオセクターの社会・環境問題への取り組みを評価したものです。日本のチョコレート会社も世界の波に遅れないようにさまざまな取り組みをしています。チョコレートを選ぼうとするあなたも、この成績表を参考にしてみてはいかがですか?
ちなみに、2021年の成績表はこちらです。