【プレスリリース】「第5版 世界チョコレート成績表(2024)」発表 日本企業は足踏み状態、世界との差が開く

2024年3月21日
熱帯林行動ネットワーク
マイティー・アース

「第5版 世界チョコレート成績表(2024)」発表
日本企業は足踏み状態、世界との差が開く

熱帯林行動ネットワーク(JATAN)と国際NGOマイティー・アースが協力団体として参加し、3月20日に『第5版 世界チョコレート成績表(2024)』(以下、『世界チョコ成績表』)を発表した。豪州の人権NGO ビー・スレーバリー・フリーが率いるプロジェクト「世界チョコレート成績表」は、世界の市民団体、大学、コンサルタント会社等が協力して実施しており、今年で5回目となる。

世界チョコ成績表では、世界のチョコレート業界の商社、加工業者、製造業者、小売業者など、チョコレートの関連企業 85社を調査対象(回答63社、無回答22社)とし、各社の調達方針とその取組を評価している。今回、日本企業では、中・大規模企業で7社、小規模企業で1社、小売業者で3社の合計11社が調査対象となった(うち4社が無回答)。

【日本企業の総合評価】

  • 日本企業の中では、総合評価において、不二製油グループ本社が最も高い評価(オレンジ)を得ているが、それでも海外の企業には後れを取っている。
  • 前回の成績表で「トレーサビリティ・透明性」で一部の企業が改善したが、今回は評価が後退するなど、さまざまな分野で一進一退の評価を受けており、足踏み状態が続いている。
  • 日本企業は児童労働の問題に積極的に取り組み、一定の評価を得ているが、その他の課題への取り組みについては依然として評価が低い。
  • 森林破壊や気候変動の問題に対処していくには、「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)といった調達方針やSBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)のような方針を採用していく必要がある。

世界チョコ成績表では、今回、対象企業を、①中・大規模企業、②小規模企業(カカオ取扱量1,000トン以下)、③小売業者の3つのカテゴリーに分け、それぞれ異なるアンケートを行った。6 つの分野(トレーサビリティと透明性、生計維持所得、児童労働、森林破壊・気候、アグロフォレストリー、農薬)で企業を「緑」(方針と実行で業界をリードする)から「黒」(透明性に欠け、無回答) まで5段階に評価している。

第5版世界チョコレート成績表(英語版)はこちら
*後日、日本語でも閲覧可能の予定。

日本企業の評価

【全体的な評価の概要】

  • EU森林破壊防止規制(EUDR)に対応したトレーサビリティの向上は明らかであるが、EUDRへの完全な準拠を達成するにはまだ課題がある。企業がサプライチェーンに焦点を当てる中、農家が必要とする支援を受けられないリスクがある。
  • 政府、NGO、企業、消費者は協力して、農家がEUDR遵守のために必要な要件を満たすよう支援し、その努力に対して公正な補償が受けられるようにする必要がある。
  • 企業は、農家がカカオ栽培において適正な収入を得られるようにする責任をますます認識するようになっているが、依然として、あまりにも多くの農家が貧困にあえいでいる。追加の財政支援がなければ、この状況は続くだろう。
  • 児童労働への対応は効果を増しているが、主にプログラムの規模の不足が要因となり、撲滅への道のりはまだ険しいものがある。
  • 児童労働への介入を拡大し、すべてのサプライチェーンで児童労働を根絶するためには、トレーサビリティを確保し、児童労働の蔓延につながる貧困などの根本原因への対処に焦点を当てる必要がある。
  • 企業は農薬の使用を減らし、農民、特に子どもたちと環境を守り、カカオの長期的な存続可能性を確保するため、より持続可能な農業慣行を実施するよう努める必要がある。
  • 多くの企業が農薬管理に関する方針を定めているものの、現場での十分な行動につながっているとは言えない。全体として、農薬使用の大幅な削減は確認されていない。

【トレーサビリティと透明性】

  • トレーサビリティーは上昇しているが、依然としてサプライチェーンの50%は間接的なもので農家まで追跡されていない

EUDR(欧州連合森林破壊規制)の完全な遵守を達成し、トレーサビリティを向上させるのに要する費用は依然として不確実である。規制を遵守していない企業は、要件を満たすためにシステムとプロセスのアップグレードに投資する必要が生じるだろう。また、完全に規制を遵守した追跡可能なサプライチェーンから来た高価なチョコレート製品を通じて、消費者がそれらの費用の一部を負担する可能性もある。

サプライチェーンにおけるEUDRの完全遵守と持続可能性の達成に向けた解決策を見出し、経済的負担を分かち合うためには、すべての利害関係者の協力が不可欠となる。この負担を農家に負わせてはならない。

前回(第4版)の成績表で、日本企業の何社かは「トレーサビリティー・透明性」の評価が上がったが、今回は評価を落としている。その理由には、成績表が、毎年、評価のハードルを上げていること、EUDRへの準備で欧州の企業がトレーサビリティーのレベルを大幅に上げていること、トレーサビリティーを高めるツールであるGPSやポリゴンマッピング等を採用する企業が少ないことが挙げられる。

また、世界チョコ成績表の担当ディレクターであるルーベン・ベルクスマ氏は、「今年は透明性と検証により重点を置いた。日本企業は、透明性に関する主張について、あまり検証されていない独自の証拠しか提供していない可能性も理由のひとつだ」と述べている。

【森林破壊】

  • 回答した大手チョコレート企業の42%は森林破壊の規制(EUDR)に準拠していなかった。
  • 企業に森林破壊をしないための方針を有しているか、あるいは貢献をしているかを尋ねたところ、63社中58社が方針があると答え、方針が無いとの答えや無回答は5社のみだった。

大多数の企業が森林破壊をしないという方針を持っているか、そのための取り組みをしていると回答しているにもかかわらず、多くの大手チョコレート企業が未だ森林破壊の規制に準拠していないことは気がかりである。森林破壊は環境、気候変動、生物多様性、地域社会に大きな影響を与えるので、大企業はサプライチェーンから森林破壊を切り離すために具体的な措置を講じなければならない。
方針を実行している企業は、それを効率的に運用し監視することで、サプライチェーン全体における規制への準拠を実現しなければならない。カカオ生産が環境に責任を持ち、より持続可能で倫理的な産業として貢献していくには、透明性、説明責任を確保し、継続的に改善していくことが鍵となる。

日本に輸入されるカカオ豆の約8割はガーナ産のもので、日本とガーナのつながりはとても深いと言える。一方で、過去30年間でガーナ国内の森林は65%を失なった。 過去4年間(2019年~2022)を見ても、森林の約4.7%が失われている。カカオの生産地域はガーナ南西部の熱帯雨林が広がる地域と重なっていて、森林破壊と深い関係があることが分かる。森林破壊は生物多様性に影響を与え、ゴリラ、チンパンジー、ピグミーチンパンジー等の大型類人猿の生息地の多くを破壊している。

【改善のためには】

問題への対処を進めるためにも、まず、農家レベルまでのトレーサビリティを確保していくことが先決である。生計維持所得については、生計維持所得参照価格を計算し、支払うことで農家の収入を改善していくことである。アグロフォレストリーについては、方針やプログラム有する企業が少ない現状から、アグロフォレストリー環境下でのカカオ栽培を、財政的・技術的に支援する必要性が大いにある。

【参考URL】

  • 世界チョコレート成績表(第4版・2023年)(JATAN作成)
  • 世界チョコレート成績表(2022年
  • 世界チョコレート成績表(2021年

世界チョコ成績表は、業界内の透明性、説明責任、責任ある慣行を促進することを目的としている。社会的・環境的基準により企業を評価することで、成績表は消費者には倫理的な買い物をするための貴重な情報を提供し、企業にはこれらの分野でのパフォーマンスを向上させるインセンティブを与える。「より良い」チョコレートを求める消費者の意識と需要は、チョコレート業界に前向きな変化をもたらしている。

ガーナでの森林破壊の状況を示した地図は以下を参照。
マイティー・アースによるカカオ・アカウンタビリティ・マップ(英語)(ガーナ・日本語版)
お問い合わせ先:

・榎本肇 cocoa@jatan.org(日本語対応)
・ロジャー・スミス roger@mightyearth.org (英語・日本語対応)

熱帯林行動ネットワーク(JATAN)について
熱帯林をはじめとした世界の森林の保全のために、森林破壊を招いている日本の木材貿易と木材の浪費社会を改善するための政府、企業、市民の役割を提言し、世界各地の森林について、生物多様性や地域の住民の生活が守られるなど、環境面、社会面において健全な状態にすることを目指しています。

マイティー・アース(Mighty Earth)について
マイティー・アース (カカオのサイト)は、命ある地球の保護活動を行うグローバルなアドボカシー組織です。自然のために地球の半分を守り、命が繁栄できる気候を確保することを目標としています。  当組織のチームは、世界に張り巡らされたパーム油、ゴム、カカオ、飼料などのサプライチェーンにおいて森林破壊と気候変動をもたらす汚染を大幅に削減するよう大手企業を説得し、熱帯地方の先住民族や地域住民の生活向上を図ることにより、変革を実現してきました。
ご連絡先:サミュエル・マウター、ロジャー・スミス press(@)mightyearth.org (日本語対応可)

ビー・スレイバリー・フリー(Be Slavery Free)について
ビー・スレイバリー・フリー(BSF)は、市民団体、コミュニティー、およびその他の組織からなる連盟で、オーストラリア、オランダ、そして世界各地で現代版の奴隷労働の防止、廃止、撤廃に向け活動を行っています。現代版の奴隷労働の防止、撤廃、対策を現地で行ってきた経験があり、特に、サプライチェーンにおける奴隷労働問題に注力し、豪州での現代奴隷法の可決に寄与しました。2007年以降はチョコレート業界との取り組みを行い、カカオ生産における児童労働と奴隷労働の問題への対応を求めてきました。
ご連絡先:ビー・スレイバリー・フリー(オーストラリア)ファズ・キット+61(0)407-931-115(オーストラリア東部標準時)fuzz.kitto(@)beslaveryfree.com