【プレスリリース】チョコレートに関する百貨店アンケート調査を発表〜カカオの人権・環境問題への対処は確認できず〜

熱帯林行動ネットワーク(以下、JATAN)は、バレンタイン・デイを前に、本日9日、チョコレートに関する百貨店アンケート調査を発表しました。本調査は、2022年にバレンタイン・フェアを実施していた主要な20の百貨店に対して、2023年10月にチョコレートに関するアンケート調査を行いました。回答は、5つの百貨店から回答を得て、内1 つはアンケートには無回答、他の15百貨店は回答がなかった。また、以下のように、チョコレート提供業者に対するカカオ生産に関する人権・環境問題についての対処は確認できませんでした。

・回答した百貨店では、カカオ生産に関する人権・環境問題は把握しており、一般的な人権・環境に対する方針はあるものの、カカオに特化した方針は持っていない。
・チョコレートの提供者への対応も、カカオに特化したものでなく、一般的なデューディリジェンス(DD)(注1)に留まっている。
・チョコレート提供業者に調達先に対する是正措置を求めたり、救済措置を取ることも限定的でした。

JATANのカカオ担当の榎本は「欧州連合(EU)では、森林破壊防止法(EUDR)(注2)により、2025年以降カカオなど森林リスク産品をEU域内に輸入できなくなるため、規制の緩い日本市場に入ってくることが懸念されている。日本企業も調達先に森林破壊がないか確認し公表することが求められている」と述べている。

【調査結果】 百貨店へのアンケート調査結果へのリンクは特設サイト「チョコレートの舞台裏」

全国の主要な20 の百貨店のうち5 つの百貨店から回答がありました(うち1 店はアンケートには無回答、)。残りの15の百貨店からは回答がありませんでした。
各百貨店は、カカオ生産に関する人権・環境問題は把握しており、一般的な人権・環境に対する方針はあるものの、カカオに特化した方針は持っていませんでした。チョコレートの提供者への対応も、カカオに特化したものでなく、一般的なデューディリジェンス(DD)に留まっていました。またサプライヤーの調達先に対する是正措置を求めたり、救済措置を取ることも限定的でした。

・本調査の詳しい調査方法・結果はこちらでご覧ください。

【調査方法】
2023年10月に20の百貨店に対してアンケートを送付し、カカオに関するデューディリジェンスの調査を行いました。
質問は以下の通りです。

1. チョコレートに関する環境破壊・人権侵害リスクを知っているか?
2. リスクに対し、どのような方針を持ち、どのように対処しているか?
3. サプライヤーに対してのカカオ原料に関する人権・環境方針はあるか?
4. チョコレート提供者に対して、人権デューディリジェンスは実施しているか?
5. チョコレート提供者に対して、森林減少に関するリスク評価の確認をしているか?
6. リスクがあると評価した場合、調達先に対する是正措置の要請・救済措置の実施をチョコレート提供者に対して求めているか?
7. 上記の取り組みを行っていない場合、上記の取り組みを、今後、チョコレート提供者に求めていくか?

【評価基準】
各質問に対する評価の基準は以下の通りです。

また本調査結果公開に合わせて、カカオ栽培と森林破壊に関するウェブサイト「チョコレートの舞台裏~カカオと森のつながりをたどる」も新たに公開しました。カカオ栽培と森林破壊の問題や、世界のチョコレート企業の調達方針と取り組みを評価した「世界チョコレート成績表第4版(2023年)」に関しても紹介しておりますので、合わせてご覧いただければ幸いです。

特設サイト「チョコレートの舞台裏~カカオと森のつながりをたどる」こちら

■ カカオと森林破壊と改善に向けた動き
マイティー・アースの告発レポート「Chocolate’s Dark Secret」を受けて、世界の2大カカオ生産地は、コートジボワールとガーナの森林破壊へ対処するため、両国政府と大手チョコレート企業12社が、「カカオと森林イニシアティブ(CFI)」を2017年に設立しまし、2019年には行動計画も発表して、西アフリカのカカオ農園拡大による森林破壊を終わらせ、劣化した生態系の再生に取り組むことを期待されていますが、両国の森林破壊は未だに続いており、その取り組みは進んでいるとは言えません。
ガーナでは、過去30年間で、森林の65%を失いました。2022年には、1万2千ha(山手線の内側の2倍の面積)以上の森林攪乱が確認され、過去4年間(2019年〜2022年)では森林の約4.7%が失われており、カカオ生産地域はガーナ南西部の熱帯雨林が広がる地域と重なっていて、森林破壊と深い関係が指摘されています。

■ 世界チョコレート成績表(チョコレート・スコアカード)について
オーストラリアの人権団体であるビー・スレイバー・フリーが率い、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)を初めとする世界の大学、市民団体、コンサルタント会社が参加するプロジェクト。2020年に第1版が公表されてから毎年公表され、最新版(第5版)は2024年3月に公開予定。
昨年に公開された第4版では、チョコレート業界の商社、加工業者、製造業者、小売業者を含む世界大手のチョコレート企業 53 社の調達方針と取り組みを評価し、世界のチョコレート製品の 95%をカバーしています。また、6 つの分野(トレーサビリティと透明性、生計維持所得、児童労働・強制労働、森林破壊・気候、アグロフォレストリー、農薬管理)で「緑」(方針と実行で業界をリードする)から「黒」(透明性に欠け、無回答) まで5段階に評価しています。

世界チョコレート成績表 第4版(2023年)についてはこちら
第4版のプレスリリースはこちら

注1)日本ではデューディリジェンスという言葉は、M&A(合併や買収)の際に行う、投資対象についての事前調査をあらわす用語として広く使われてきました。近年では、企業のサプライチェーン(原料の調達から商品の製造、販売までの流れ)において、人権や環境などのリスクを特定し防止していくことに使われています。チョコレートの原料となるカカオの生産に関連して、児童労働や強制労働、森林破壊、貧困などの問題があると言われています。自社の調達先でこうした問題が起こっていないかを確認して公表することが求められています。

注2)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化されます。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られます。