内容紹介
この本では、熱帯産プランテーション商品の「責任ある生産と消費」のためのガバナンス(熱帯林ガバナンス)の仕組みが整備された後のインドネシアを対象として、今日の熱帯林ガバナンスの問題を、現場に生きる人びと(地域住民、移民、アブラヤシ小農、労働者、違法伐採者、不法居住者)の視点から掘り起こすことを試みました。
具体的には、熱帯林ガバナンスは現場に生きる人びとにどのような影響を与えているのか(あるいは、与え得るのか)、そうした人たちは日々の暮らしの中でどのような問題に直面し、何を求めているのか、また、熱帯林ガバナンスが用意する「問題解決」はそうした人たちにとってどのような意味を持っているのか―こうした問いの答えを探り、これからの熱帯林ガバナンスのあるべき姿について論じました。
熱帯林保全をめぐる問題については多くの本が出ていますが、この本の特徴としては、ガバナンスの制度的整備が進んだ後の問題に焦点を当てていること、ガバナンスの進展の恩恵を被っていない人びとの視点から問題を掘り起こしていること(違法伐採者、不法居住者にとっての問題にも目を向けています)、そして、研究者と実務家の協働の成果であること、などを挙げることができます。
また本書を作る際、以下の点を「目指すべき基本的な方向性」として掲げました。
・ガバナンスの逆機能に焦点を当てること
・制度設計のあり方だけに目を向けるのではなく、現実のアクター間の相互作用や権力関係に着目すること
・ガバナンスの目指す理念と現場のリアリティとの間に乖離があるということを単に描くだけではなく、なぜそれが生まれるのか、その要因やメカニズムについて検討すること
掲げた目標がどこまで達成できているかはわかりませんが、よろしければご一読いただければ幸いに存じます。また、ご意見やご批判を賜れれば幸いに存じます。
目次
・序章 現場から考える「熱帯林ガバナンス」のあり方:周縁化された「草の根のアクター」の視点から(笹岡正俊)
I 誰のための「熱帯林ガバナンス」か
・第一章 力を持つアクターたちがつくり出す「現実」とかき消される声:APP社「森林保護方針」に基づく自主規制型ガバナンスの事例(笹岡正俊)
・第二章 持続可能な森林経営をめぐるポリティクス:複雑化する現代社会で「人と人の信頼」は再構築できるか(藤原敬大)
・コラムA 「森林保護方針」の裏側:AP通信の記事より(中司喬之)
・コラムB スマトラ島の森林消失「問題」のフレーミングを問う(笹岡正俊)
II 認証制度が現場にもたらしたもの
・第三章 パーム油認証ラベルの裏側:文脈なき「正しさ」が現場にもたらす悪い化学反応(寺内大左)
・第四章 大規模アブラヤシ農園のRSPO認証取得と取り残された労働者たち(中司喬之)
・コラムC 「認証制度」が再現する植民地の統治形態(藤原敬大)
III 「住民の同意」とは何か
・第五章 インドネシア最大手の製紙会社による「紛争解決」と「住民の同意」(相楽美穂)
・第六章 「住民との同意」は本来の目的を果たせるのか(浦野真理子)
・コラムD 環境・社会リスクの高い熱帯木材の利用をなくすために(三柴淳一)
IV 土地支配の強化のなかで:生きる営みが「違法」とされていく人びと
・第七章 人びとはなぜ「不法占拠者」になったのか:強制排除された人びとの生活再建に対する社会的責任(笹岡正俊)
・第八章 カンパール半島における土地支配の強化と再生産される「違法伐採」(原田公)
・編者あとがき(藤原敬大)
価格・仕様
出版社:新泉社
出版日:2021年3月15日
価格:2,500円+税
仕様:四六判上製280頁
購入方法
・新泉社:https://www.shinsensha.com/books/3908/
・Amazon:https://www.amazon.co.jp/gp/product/4787721038