名実ともに業界のトップ企業として国際的なグリーン証明を手中にし、環境規制の高い欧米市場への参入を果たしたいインドネシアの紙・パルプ企業グループのAPRIL社。同社は現在、FSCへの復帰に向けた進捗を自社ホームページでアピールしている。
FSCとAPRIL社の関係修復プロセスとは
2025年3月現在、アジアパシフィック・リソーシズ・インターナショナル・ホールディングス(Asia Pacific Resources International Holdings Ltd: APRIL)は、2013年の関係断絶後、森林管理協議会(FSC)との関係修復に向けた積極的な活動を展開している。2015年6月、APRIL社は「持続可能な森林管理方針」を発表。以来、「森林破壊ゼロと持続可能な森林管理への継続的コミットメント」を誓約している。その後、2023年11月にAPRILとFSCは覚書に調印し、「FSC補償の枠組み」で規定されている救済プロセスを正式に開始した。
プロセスにいたるまでの背景を簡単にふりかえる。FSCは2022年8月の理事会で「林地転換に関する指針」を承認した。1994年以降2020年以前に自然林を伐採した企業も以前は認められていなかったFSCの認証を取得できるようになった。インドネシアのシナル・マス・グループに属する紙パルプ大手のアジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)と、シンガポールを拠点とするロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループの子会社であるAPRILも新しい指針によってかつて認証を受けていたFSCに復帰できる道筋を与えられたことになる。ただ、この期間にFSCの規則に違反する破壊的な森林施業をおこなってきたAPPやAPRILをふくむ企業は、過去の土地転換によって引き起こされた社会的・環境的被害を救済することが求められる。救済の枠組みを規定する「FSC補償の枠組み(FSC Remedy Framework)」をFSCは同年12月の理事会で承認した。「FSC補償の枠組み」は、「『組織とFSCとの関係に関する指針』に定められている許容できない活動によってもたらされた過去の環境および社会的な損害を補償するための一連の要求事項」とされている。
以下、APRIL社が描いている救済プロセスを同社のウェブサイトの情報をもとに概説する。
- ベースライン評価: FSCによって任命された独立評価者が、社会と環境のベースライン・アセスメントを実施し、過去の被害を特定する。
- 救済計画の策定: ベースライン評価に基づき、影響を受ける権利者や利害関係者と協議の上、包括的な救済計画を策定する。
- 実施とモニタリング: FSCが任命した第三者検証員による承認後、APRIL社は救済計画を実施する。合意された措置が遵守されていることを確認するため、進捗状況を監視・検証する。
- 関係修復の検討: APRIL社が改善計画で規定された基準値を満たした時点で、FSC理事会は関係断絶の解除を決定することを検討する。
APRIL社は現在ベースライン評価を実施中であり、救済プロセスの初期段階にある。是正プロセスを完了し、FSCとの関係修復の可能性を達成するまでのスケジュールは、評価の結果、是正計画の策定と実施、およびFSCによるその後の評価に負うところがあり、依然として不透明である。
APRIL 社おける救済プロセスにおいて、FSC は PT Hatfield IndonesiaとRe-Mark Asiaを独立評価機関に選定承認した。過去の環境的・社会的被害への対応要求は、APRIL社、サプライヤー(APRILにパルプの原料となる木材を提供する会社)、トバ・パルプ・レスタリ社(PT Toba Pulp Lestari: TPL)に適用される。救済計画でカバーされる影響領域(impact areas)は以下の通り。
- リアウ(対象面積1,043,727ha):PT Riau Andalan Pulp & Paper (RAPP)およびPT Sumatera Riang Lestari(SRL)ふくむサプライヤー
- 北スマトラ(対象面積167,912 ha):PT Toba Pulp Lestari (TPL)
- カリマンタン(対象面積306,317 ha):PT Itci Hutan Manunggal(IHM)およびPT Adindo Hutan Lestari(AHL)
Hatfieldはリアウ州、北カリマンタン州、東カリマンタン州で、Re-Mark Asiaは北スマトラ州でアセスメントを実施した。両独立評価機関は2023年11月に作業を開始し、2024年6月に終了した(2024年7月31日付のAURIGA Nusantara他によるFSC理事会宛の書簡[非公表])。
「シャドー・カンパニー」RGEグループとの資本関係が指摘されるサプライヤー企業による森林破壊
西カリマンタン州で操業するマヤワナ・ペルサダ(PT Mayawana Persada)社はパルプ材を生産する植林企業である。SIMONTINIのデータベースでは、マヤワナ社社2023年からインドネシアの大規模森林破壊企業のランキングで筆頭格に位置づけられている。マヤワナ社はグリーンピースをはじめとするいくつかのNGOから、APRILを傘下に持つロイヤル・ゴールデン・イーグル(Royal Golden Eagle: RGE)との複雑な企業構造を隠れ蓑にした影の繋がりが指摘されている*。
*RGEグループと「シャドウ・カンパニー」との繋がりについてはつぎのレポートで詳述されている。 森林保護方針の裏側でいまなお続く森林破壊 ~グリーンウォッシュに加担する三菱UFJ
FSCの「林地転換に関する指針」で示された変更点には、1994年12月1日から2020年12月31日という新たな期限までの間に転換された土地であっても、転換によって引き起こされた社会的・環境的被害に対する救済措置がほどこされるのであればその土地を認証する可能性がふくまれている。ただ、マヤワナがRGEグループと関係しているという証拠を踏まえれば、FSCはAPRIL社との「関係修復プロセス」を一時停止し、独立した徹底的な調査を実施しなければならない。さらに、マヤワナがRGEグループ内の企業体の一部であると結論づけられた場合、「林地転換に関する指針」に違反している以上、FSCはAPRIL社との2023年11月の「関係修復枠組み合意」を解除する必要がある(Greenpeace et al. (2024) “Deforestation Anonymous: Rainforest destruction and social conflict driven by PT Mayawana Persada in Indonesian Borneo”)。
なお、APRIL社はいまのところ、マヤワナ社との関係を否定している-「RGEと原料サプライヤーであるマヤワナ・ペルサダ社…との関係について信憑性を欠く主張が繰り返されています」。
RGEグループ傘下および関連企業でも森林破壊・人権侵害がつづいている
APRIL傘下のRAPPやAPRILが自他ともに認めているサプライヤー会社の事業地周辺でも森林破壊がつづいている。RAPPはリアウ州シアック(Siak)県で2023年から重機を使った伐採を事業地の内外でおこなっている。AHL社やSRL社とともにAPRIL社の長期パートナーとされるPT Selaras Abadi Utama(SAU)社が、リアウ州ペララワン(Pelalawan)県で「自然林を伐採し、新しいカナルを掘削して…泥炭生態系を破壊し、許可なくコンセッションの外にアカシアを植えた」ことをリアウ州のNGOコンソーシアム、ジカラハリ(Jikalahari)が告発している。なお、SAU社はベースライン評価の対象外となっている。
ベースライン評価の対象とされているAHL社の事業地では2024年に、深刻な人権問題が発生している。北カリマンタン州タナ・ティドゥン(Tana Tidung)県に住むダヤック人男性が祖父から受け継いだという土地で耕作をしていたところ、AHL社は事業活動を侵害しているとして地元の警察に告発。結局、土地は男性の所有地であることが証明され、同年10月の裁判は男性に無罪の判決をくだした。ただ、こうしたcriminalzation(犯罪化)の動きは依然としてこの地区の農民を脅かしているという。AHL社は植林事業のライセンスの発効に際して、地域住民とのコンサルテーションを一切おこなっていなかった。
「独立評価者」によるベースライン調査の不備
FSCが任命した独立評価機関がおこなったとされる調査プロセス、調査後のフィードバックの仕方に関してNGO側からFSC理事会に対して批判や疑義が提出されている。
たとえば、先住民族を代表するアドボカシーグループやWALHI(インドネシア環境フィーラム)などは2024年2月発出の公開書簡で、Re-Mark Asiaは、TPL社の事業が影響を与える先住民コミュニティに対してFPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)に基づく社会評価プロセスを実施するために、わずか2週間しか割り当てていない。しかし 森林転換によって何十ものコミュニティが被害を受けたことを考えるとこの時間枠は不十分であり、FPICの基準から逸脱しているなどと批判している。
また、独立評価機関のコンサル会社がAPRIL社と過去に雇用関係があった経緯から、独立評価機関の利益相反に関する懸念もしめされている。グリーンピースはFSCに対し、Remak AsiaとHatfieldを評価機関として承認した理由を開示するよう求めた。
さらに、今回のベースライン評価の対象となっているサプライヤー会社が過去に引き起こした森林破壊や土地紛争で被害住民とともに破壊停止に向けたアドボカシー活動をおこなってきたNGOは、評価機関2社がいずれも、APRIL 企業グループによる環境的・社会的損失を被った当事者、影響領域、ベースライン評価を特定する際に利害関係者との協議プロセスを実施しなかったなどとFSCを批判している(2024年7月31日付のAURIGA Nusantara他によるFSC理事会宛の書簡[非公表])。