【プレスリリース】「百貨店へのバレンタイン・イベントでのチョコレート提供に関するアンケート調査結果」発表~未だ百貨店のカカオに関する問題への対処の全容は見えず~

熱帯林行動ネットワーク(以下、JATAN)は、バレンタイン・デーを前に、本日7日、チョコレートに関する百貨店アンケート調査を発表しました。本調査は、バレンタイン・イベントを実施している主要な21の百貨店に対して、2024年10月にチョコレートに関するアンケート調査を行いました。回答については、5つの百貨店から回答(うち1 つはアンケートには無回答)を得て、他の16百貨店からは回答がありませんでした。また、以下のように、チョコレート提供者にしてカカオ生産に関する人権・環境問題についての対処は十分と言えるものではありませんでした。

  • 調査に協力してくれた各百貨店は、カカオ生産に関する人権・環境問題は把握しており、児童労働に配慮した方針は一部の百貨店にはあるものの、森林破壊などへの配慮を明示した方針はない。
  • 一部の百貨店では、チョコレート提供者への対応も、リスク管理は行っており、サプライヤーの調達先に対する是正措置を求めたり、救済措置を取ることも行っている。
  • カカオの問題に取り組む提供者との取引に関しては積極的に行う姿勢が見られるが、消費者向けには、限定的な取り組みに留まっている。

JATANのカカオ担当の榎本は、「百貨店はチョコレートの製造を行っているわけではないが、バレンタインデーのイベントなどで多くのチョコレートを取り扱う以上、その裏に隠された人権・環境の問題と無関係ではありません。1年延期されたEUの森林デューディリジェンス規則(EUDR)が実施に移されれば、カカオなどの森林リスク産品はEU域内に輸出することができなくなるため、規制の緩い日本市場に流入することが懸念されます。日本企業もEUDRを遵守する形で調達先に森林破壊がないか確認し公表することが求められます。」と述べています。

【調査結果】百貨店へのアンケート調査結果の詳細は特設サイト「チョコレートの舞台裏」

日本国内の主要な21 の百貨店のうち5 つの百貨店から回答がありました(内1 つはアンケートには無回答)。残りの16の百貨店からは回答がありませんでした。
回答をした各百貨店は、カカオ生産に関する人権・環境問題は把握しており、一部の百貨店では児童労働に配慮した人権方針は存在するものの、森林破壊に配慮を明示するような環
境方針は存在しませんでした。またそれらは特にカカオに特化した方針とは見受けられませんでした。 
チョコレートの提供者への対応も、人権・環境リスクに対する管理は行われており、一部の百貨店では、サプライヤーの調達先に対する是正措置を求めたり、救済措置を取ることも行われていました。
カカオの問題に取り組む提供者との取引については積極的に行う姿勢が見られましたがが、カカオに関する人権・環境の問題を周知させるような、消費者への向けたイベント等の開催についてはまだ限定的な取り組みに留まっています。

表1 百貨店のチョコレートに関するアンケート調査結果

*京王百貨店は調査要請への回答はあったが、アンケートには無回答
― は全て無回答

【調査方法】
2024年10 月に21の百貨店に対してアンケートを送付し、カカオに関するデューディリジェンスの調査を行いました。質問は以下の通りです。

1. カカオ原料に関する森林減少などの環境破壊リスクや児童労働などの人権侵害リスクについてご存知ですか?
2. 設問1のようなカカオ原料に関してリスクに対する方針を持っていますか?
3. 常設のチョコレート提供者に対して、環境・人権のリスク評価を行っているか確認していますか?
4. イベント時(バレンタインデーなど)のチョコレート提供者に対して、環境・人権のリスク評価を行っているか確認していますか?
5. 設問3,4の評価プロセスにおいて、リスクがあると評価した場合、調達先に対して是正措置の要請や救済措置が実施されることをチョコレート提供者に対して求めていますか?
6. 設問1のようなリスクに対処しているチョコレート提供者と取引をしていますか?
7. 設問1のようなリスクについて消費者向けのイベントを開催していますか?

【評価基準】
 各質問に対する評価の基準は以下の通りです。

表2 各質問に対する評価基準

■カカオと森林破壊と改善に向けた動き
 マイティー・アースの告発レポート「Chocolate’s Dark Secret」を受けて、世界の2大カカオ生産地は、コートジボワールとガーナの森林破壊へ対処するため、両国政府と大手チョコレート企業12社が、「カカオと森林イニシアティ
ブ(CFI)」を2017年に設立しました。2019以降、行動計画も発表して、西アフリカのカカオ農園拡大による森林破壊を終わらせ、劣化した生態系の再生に取り組むことを期待されていたが、両国の森林破壊は未だに続いており、その取り組みは進んでいるとは言えません。
 ガーナでは、過去30年間で、森林の65%が失われました。2022年には、1万2千ha(山手線の内側の2倍の面積)以上の森林攪乱が確認され、過去4年間(2019年〜2022年)では森林の約4.7%が失われており、カカオ生産地域はガーナ南西部の熱帯雨林が広がる地域と重なっていて、森林破壊と深い関係が指摘されています。
■世界チョコレート成績表(チョコレート・スコアカード)
オーストラリアの人権団体であるビー・スレイバー・フリーが率い、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)を初めとする世界の大学、市民団体、コンサルタント会社が参加するプロジェクト。2020年に第1版が公表されてから毎年公表され、最新版(第6版)は2025年4月に公開予定。
昨年に公開された第5版では、チョコレート業界の商社、加工業者、製造業者、小売業者を含む世界大手のチョコレート企業53社を調査対象とし、各社の調達方針とその取組を評価しています。日本企業、中・大規模企業で7社、小規模企業で1社、小売業者 で3社の合計11社が調査対象(うち4社が無回答)となっています。
この調査では6 つの分野(トレーサビリティと透明性、生計維持所得、児童労働・強制労働、森林破壊・気候、アグロフォレストリー、農薬管理)で「緑」(方針と実行で業界をリードする)から「黒」(透明性に欠け、無回答) まで5段階に評価しています。

世界チョコレート成績表 第5版(2024年)についてはこちら
第5版のプレスリリースはこちら

注1)日本ではデューディリジェンスという言葉は、M&A(合併や買収)の際に行う、投資対象についての事前調査をあらわす用語として広く使われてきました。近年では、企業のサプライチェーン(原料の調達から商品の製造、販売までの流れ)において、人権や環境などのリスクを特定し防止していくことに使われています。チョコレートの原料となるカカオの生産に関連して、児童労働や強制労働、森林破壊、貧困などの問題があると言われています。自社の調達先でこうした問題が起こっていないかを確認して公表することが求められています。
注2)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化されます。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られます。2024年12月に実施される予定でしたが、1年間延期されました。