パプアニューギニアの森林伐採地を訪ねて

フォトジャーナリスト 内田道雄

残された木材を加工している ©内田道雄

日本からほぼ南、5,000kmの彼方に、世界で2番目に大きいニューギニア島がある。日本の約2倍の面積があり、西側はインドネシア領。東側はパプアニューギニア国(以下PNGと表記)となっている。

PNGの国土面積は4,631万ha。(日本の約1.2倍)ニューギニア島の東側と周辺の島々からなる。 気候は全体に熱帯雨林気候だが、内陸は高山気候である。人口は約995万人。(2021年、世界銀行調べによる)

森林消失

昔はこの地域全域が、森林地帯であったと考えられる。戦後商業伐採により森林消失が始まった。紙の原料用に原生林を伐採したこともあった。

森林林業統計要覧によると、2020年の森林率は79.2%。2015年は72.5%だったので若干増えている。これは植林によると思われる。ただ、年変化は32,300haの減少となっている。数字が矛盾しているが、森林地帯の状況は明確にはわからないのだろう。

1990年代の丸太輸出は約200万㎥でそのうち7割近くが日本向けだった。丸太の生産量は、2008年に857万㎥で‘10年に1,000万㎥となった。その後‘15年まで毎年900万㎥以上を生産している。最近のデータでは2017年から‘21年まで960万5000㎥で変化がない。おそらくきちんとした統計が得られないと考えられる。

2019年のPNGの全丸太輸出は375万㎥。そのうち87%が中国向けだ。日本の輸入量は10万㎥ほどだ。だが‘18年のPNGからの丸太輸入は7万6394㎥前年より増えている。

パプアニューギニアの森林消失の原因は商業伐採やプランテーション開発が48.2%。焼き畑耕作で45.2%。人口増加により焼き畑も持続可能にできない、という研究もある。

私はこれまで数回PNGを訪れた。こ年の2月に新型コロナウイルスの影響で4年ぶりに訪問することができた。森林破壊が現地の人々にどのような影響を与えているのか、それを見るために現地を訪れた。

森林伐採の脅威にさらされる村

ニューギニア島北部にPNGで2番目に長いセピック川が流れている。1,000㎞以上の広大な流域を持つ。この川の上流で森林伐採が行われていることを聞き、現地に向かった。

しかしPNGでの船の移動は大変だ。奥地では燃料が手に入らないという。町からガソリンを運ばなくてはいけない。

ガソリンを入れたドラム缶2本を運ぶことになってしまった。そして途中の村からボートで川を遡行した。さすがに1,000㎞以上の大河だ。河口から500km遡っても川幅が数百メートルはある。

村を早朝に出発して、正午ごろやっと木材の貯木場についた。しかし護岸にほとんど丸太はなかった。巨大な艀はからっぽだ。私はやっとここまで来たのに、木材が大量に伐採されている証拠を見ることができなくてがっかりした。だが、ガイドをしてくれた人によると丸太は陸路で運ばれることも多いという。私は4年前にPNG西部で木材を運ぶ林道に行ったことがあった。そこでは大きなトレーラーで丸太を運んでいた。セピック川は長大で蛇行も激しい。川を使って搬出するより陸路のほうが効率はいいのかもしれない。

川沿いの貯木場。この時はあまり木材が見られなかった ©内田道雄

伐採の影響

森林伐採の影響を受けている村に行き話を聞いた。村の人によれば伐採が始まったのは12年ほど前で、事前に村人たちに話はなかったという。

PNGでは国土の97%がいわゆる慣習地である。この土地は住民に所有権があるが、氏族や地域コミュニティーなどの集団所有となっている。個人で所有権は持てない。伝統的に使われてきた土地なので、境界などがはっきりしていないことが多いという。

伐採などで土地を使うためには地主の同意がいる。しかし、地主のなかの一部からのみ同意を取っているだけなのに、全体が同意しているような同意書の偽造が横行しているという。有力者の地主に賄賂を渡して、全体の合意を取ってしまうことなどもある。

この地域の伐採も、書類が偽造されたのではないかと考えられる。本当の村のリーダーでない人の署名で書類が偽造されたということだ。

そういったことを企業に言っても伐採は止まらないという。企業はマレーシア系の外資系だ。私はマレーシアのサラワク州で大量の木材伐採を見てきた。その企業は同じことを遠く離れたニューギニアで行っている。

森林伐採の影響は様々なところに現れているという。巨大な艀が川を行き来するとき、大きな波を引き起こすので、川岸が崩れてしまう。村では川沿いに家を建てるので、住居が流されるのはとても困る。河川の汚染から漁獲量も減っている。漁業は村人の大切な生業なので死活問題となる。森での狩りもできなくなった。食糧不足も心配だ。

木材を運ぶ艀 ©内田道雄
木材を運ぶ艀 ©内田道雄
巨大な艀によって川岸が削られる ©内田道雄

奥地の生活は森林資源に依存するものなので、森林が無くなるのは本当に困るという。この地域は丸木舟を使っているが、船腹が1m以上の船を作るにはそれ以上の大木が必要だ。奥地で暮らす人にとって森は命である。だが、自然から得られるものだけでは食糧が不足するので、新たに農業を始めようとしているという。だが、食糧生産を始めても軌道に乗るまでには何年も掛かってしまうだろう。

伐採跡地の農業

沿岸部の町に戻った後、森林伐採を行っていたところがあるというのでその後地に向かった。PNG北部のウエワクという町から内陸に入ると広大な草原が広がっている。ここは何度か訪れたが、この草原がいつできたのか分からないという。かなり昔に森林がなくなってしまったとおもわれる。

このあたりの森林伐採はもう終わったという。伐採跡地には焼き畑が開かれていた。ところどころに大きな切り株が残っていて、ここが豊かな森だったことが伺われる。別の場所では伐採道路跡でチェーンソーを使い木材を挽いている人たちがいた。数人の男性が伐採企業が残した木材を加工している。もともと地元の人の木材なので違法という認識はないだろう。その周りは農場になっていた。農場小屋もあり住民が作物を栽培している。

作物はイモや野菜などだ。ニューギニアでは陸稲は少ない。伐採によって森が破壊されたため農業もやらなければならない。だが、伝統的ではない焼き畑は新たな森林消失にもなる。森林を保護しながら地元の人たちが暮らしていける方法を考えなければならないだろう。

伐採跡地に開かれた農場
伐採跡地に開かれた農場 ©内田道雄

(了)

※この記事はJATAN News No.120からの転載です。

【参考】

内田道雄「破壊が続くパプアニューギニアの森林」(JATAN News No.114)

内田道雄「パプアニューギニアのアブラヤシ農園を訪ねる」(JATAN News No.115)