パプアニューギニアのアブラヤシ農園を訪ねる

フォトジャーナリスト 内田道雄


広大な土地にアブラヤシは植えられる ©内田道雄

🔲土地所有制度について

パプアニューギニアでは国土の97パーセントがいわゆる慣習地である。この土地は住民に所有権があるが、氏族や地域コミュニティーなどの集団所有となっている。個人で所有権は持てない。伝統的に使われてきた土地なので、境界などははっきりしていないことが多いという。
1979年の土地法で「特別農業、事業リース」:SABL(Special Agricultural and Business Lease)というシステムが導入された。これは土地所有者がいったん国に土地をリースして、それを国が利用者にまた貸しする。最長で99年間設定できる。このシステムはリースといっても賃借料などははっきりしていない。地主の取り分がいくらなのかなど、きちんとした約束がないこともある。
また、土地をリースするには地主の同意がいる。しかし、地主のなかの一部からのみ同意を取っているだけなのに、全体が同意しているような同意書の偽造が横行していた。有力者の地主に賄賂を渡して、全体の合意を取ってしまうことなどもある。
2003年から’10年に国土の10%に当たる、420万haにSABLが設定された。この方式に関しては様々な問題が指摘されている。

🔲アブラヤシ開発

アブラヤシからはパーム油が採れる。現在世界で最も生産されている植物油だ。食品が主だが、様々な製品に加工され私たちの身の回りに存在している。
アブラヤシは熱帯でしか栽培できない。生産のほとんどはインドネシアとマレーシアだがニューギニア島でも生産されている。
パプアニューギニアのアブラヤシ開発は50年ほど前から行われている。歴史は古いが、現在でもパーム油の生産量は50万トンほどしかない。プランテーションでのパーム油生産量は、1ヘクタールあたり4トンほどである。したがって栽培面積は10数万haと推定される。だがパーム油の需要は増えているので、今後は生産量が増加して行くことが予想される。
アブラヤシプランテーションを作る場合、企業はSABLシステムにより土地を確保する。しかし企業の中には森林を開発する許可を取ったとしても、木材の伐採のみ行い油ヤシ栽培をしないこともある。これはアブラヤシ農園開発の利益ではなく、材木の販売のみを狙ったものだと考えられる。


アブラヤシ農園の造成地 ©内田道雄

🔲西セピック州の農園

アブラヤシ農園の状況を見るために2019年と’20年に北西部の西セピック州を訪れた。
バニモの南のブワニ地区に広大なアブラヤシ農園が広がっている。ここはSABLによって村の土地が使われている。
ここではブワニオイルパーム社が2万6千ヘクタールものアブラヤシ農園を拓く計画がある。開発地域に行ってみると、すでにアブラヤシは成長していて収穫は始まっている。アブラヤシの間には直径1メートル以上の切株が見られる。ここは豊かな森を伐採して開発されたようだ。造成されたばかりの場所では、見渡す限り、樹木がはぎ取られ更地になっている。私は今まで何十回もアブラヤシ農園の造成地を見てきた。そこで熱帯の豊かな森がはぎ取られ、生命のかけらも感じられない土地を見るたびに暗澹たる気持ちになった。この世界の辺境ともいえるニューギニアの森までが、人間の活動によって消えていくのを見ると何ともやるせない気持ちになる。
農園開発の影響を受けている村に行き話を聞いた。氏族のリーダーのロバートさん(42才)によると、2008年にSABLによる開発が始まった。村の慣習地が約1万4千ヘクタールも開発地に取られたという。始めは森林の伐採をしていたが、’10年頃からアブラヤシ開発が始まった。企業は村人を雇用している。収穫労働では実を一つ採って20トヤ(約6円)の収入になる。一週間に1,000個以上の実を収穫するノルマがある。これだと6,000円になる。
しかし農園に土地を取られて自給的農業ができなくなり、現金が必要になったので生活は苦しくなったという。パプアニューギニアの物価は高く、外貨換算すると日本の1.5倍くらいになる。低賃金では生活できない。
住民はアブラヤシ開発に反対はしていない。収入が少ないのが問題なので、農園の土地を返してもらい自分たちで経営したいと考えているという。
他の村に行くと、一輪車などの資材が置いてある小屋を見つけた。そこにいた村人に話を聞くと、この道具はアブラヤシ農園で使うものだという。だが、実を運ぶための一輪車は作りが悪くすぐ壊れてしまう。そうなると担いで運ぶしかない。資材をよく見ると壊れたものがたくさんあった。収入は実を一つ採って20トヤだ。収穫以外の労働では2週間で20~30キナ(1キナ約30円)だ。
この村の人たちはアブラヤシには反対だという。とにかく収入が低すぎるのだ。なんとか土地を返してもらいたいと考えているという。
農園の中を車で走っていたら、新築の家が整然と立ち並んでいた。これはアブラヤシ農園の労働者のために企業が建てたものだという。そこにいたジョブさん(20才)に話を聞くと。この家に住んで農園で働いているという。収穫労働をしていて、収入は実を一つ収穫して15トヤだ。家の賃借料などは払っていない。だが、この家には水道も電気も来ていない。水は屋根に降った雨水をタンクにためるだけだ。このような住宅はあちこちに建てられている。他の村で聞いたところでは土地を99年にわたって貸したのに、こんな家が99年持つわけもないと不満を漏らしていた。これ以外にも企業は学校を作るとか、道路や橋を作ってやるなどと良いことを言って、地元の人の同意を得た。しかしそのほとんどは行われていないという。
私はこのような話を、この国以外でも様々な地域で聞いていた。大規模農園を開発するためには地元の人たちの同意が必要だ。そのため企業は地域に良いことをするといって人々の賛同を得る。だが、その約束は果たされないことが多い。そこではじめて人々は農園に対して反対する。しかしその時はもう遅い。いったん開発された農園は半永久的に居座ってしまう。


農園労働者のために建てられた家 ©内田道雄

🔲東セピック州の農園

別の地域のアブラヤシ農園開発を見るために、西セピック州に隣接する東セピック州のウエワクを訪ねた。町から車で1時間ほどの地域にトゥルブ オイルパーム社が2万ヘクタールほどのアブラヤシ農園を拓いている。この地域にはセピックプレーンと呼ばれる広大な草原が数十キロにわたって広がっている。地元の人に聞いてもなぜ森が無くなったのか分からないという。太平洋戦争の戦記にもこの草原のことは書かれていた。かなり昔から草原地帯だったようだ。
農園を訪れると油やしだけが延々と続く。プランテーションではおなじみの風景だが、よく見るとアブラヤシの木に蔓草が絡まり枯れているものがある。ひどいところでは木々がすべて草で覆われお化けのようだ。まったく管理がされていない。


東セピック州の広大な草原。アブラヤシの開発計画がある ©内田道雄


経営が破たんして放置されている農園 ©内田道雄

この農園は2015年に2万ヘクタールが開墾された。しかしその後の経営が思わしくなく、本格的な生産は行われていなという。地元の人は開墾のときに伐採する木材目当てだったと推測している。農園の中を車で廻っていると、一部では生産されているところがあった。若い男性の労働者がいたので話を聞いてみた。トゥルブ オイルパーム社の仕事で収穫労働を1年5カ月やっている。実を1日200個ほど採る。2週間で300キナの収入になるが、彼らは2人で組んでやっているので、一人当たりは2週間で150キナほど(約4,500円)にしかならない。彼らは企業の用意してくれた家に住んでいて家賃などは無料だ。だが、すべてを現金に頼るため生活は苦しいという。しかし他に仕事もないので今後も続けて行くしかないという。


収穫が始まっている農園 ©内田道雄

私はパプアニューギニアでは、アブラヤシ農園開発の可能性は大きくないと思っていた。為替レートで見るとかなり物価が高いので、安価なことが重要な1次産品では他国との競争に勝てないと思うからだ。私の感じではパプアニューギニアの物価はインドネシアの5倍以上だ。当然、人件費も高くなるので製品の価格競争に勝てないと考えていた。しかし今の開発の勢いからすると、今後も生産量は増えて行くことが考えられる。つまりそれだけ熱帯林が破壊されていくのだ。
ニューギニア島はオセアニア地域の熱帯で、最大の陸地である。世界的にも貴重な生態系を持つこの熱帯林を破壊することは地元の人たちだけでなく、世界的な損失になるだろう。この森が未来にも続くことを願いたい。

(了)

※この記事はJATAN News No.115からの転載です。

【参考】内田道雄「破壊が続くパプアニューギニアの森林」(JATAN News No.114)