2023年度版アンケート評価の追加項目(2022年度版との比較)
※追加した理由については下記、「分析・評価」を参照されたい。
【調達方針の策定】
・合法性の定義・根拠
・転換材の合法性
【調達方針の実施】
・サラワク/インドネシア材を排除したか
・排除しない理由
・森林認証の優先順位
・調達方針・ガイドラインの実効度をDDによって検証しているか
【PDF版】2023年度アンケート対象企業
【PDF版】2023年度評価基準
【PDF版】2023年度企業ランキング
分析・評価
アンケート対象企業の変更
今回、フローリング施工・販売の中小規模企業を除外する一方で、これまでの鹿島に加えゼネコン13社を加えるなどして、大規模なユーザー企業を多くふくめた。さらに、NGOによるレポートやJATANが入手したインドネシアの公式データなどからサラワク/インドネシア材を利用していることがあらたに判明した企業を追加した。
今年2月に計74社に対してアンケートを実施し、このうち25社から回答を得た。日本製紙木材からは、会社の内情に関するアンケートには方針により回答を控える旨の連絡があった。したがってこれを除く24社の回答内容をもとに分析・評価をおこなった。
アンケートに回答した24社については、これらの企業がリーダーシップを示されていると評価している。今回はじめて回答いただいた五洋建設、ユアサ木材はあらたに調達方針(ガイドライン)の策定に向けて意欲を示されている。歓迎したい。調達方針を外部レビューのために開示することは、森林問題への取り組みに関して他の先進国に遅れをとっている日本において大きなステップであるが、責任ある倫理基準を達成し、消費者や金融機関の信頼を得るために透明性の確保は必要不可欠であると考える。
サラワク/インドネシア材について
ミサワホームは2019年のアンケートでサラワク材を排除したと回答した。今回のアンケートでは、あらたに三菱地所がサラワク/インドネシア材を排除したことがわかった。また、大和ハウスとフジタはいずれもサラワク材について、合法性・持続可能性の観点からリスク評価をおこない、サプライヤーに対して「順次排除するよう指導」をおこなっていく、さらにインドネシア材についても独自のリスク評価の上、「順次排除するよう指導」するとの回答だった。積水化学はサラワク原産の木材について、原産地の「森林持続性」に問題が認められるケースに対して排除を計画しているとし、2024年度以降に「全量排除」を達成する予定であると回答した。こうしたリスク評価の上での排除が、木材を扱う業界の大きな潮流になっていくことが期待される一方で、「排除していない」理由として、自社の調達方針に照らして容認できる限り調達をつづけるとする企業も多い。
合法性の定義・根拠
JATANでは「合法性」がたんに産出国と受入国の法令の遵守を意味しているもの(狭義の合法性)とは認識していない。国際法の視点に立って企業に人権を尊重する責任を課す「ビジネスと人権に関する指導原則」では、ビジネス活動において人権への負の影響を防止または軽減すること、負の影響があった場合の対処を求めている(原則13)。2023年7月から8月にかけて国連ビジネスと人権の作業部会は訪日調査をおこなった。そのミッション終了ステートメントでは、ビジネスと人権の政策に関するギャップ分析を取り入れ、優先課題を洗い出し、関係者の責任を明確におこなう必要のあることが強調されている。さらに、「人権を尊重する企業の責任」の項目では「バリューチェーンの上流と下流で人権リスクを監視、削減する能力を含め、さまざまな問題で大きなギャップが残っていること」を作業部会が確認したとある。こうした指摘の前提にあるのは、企業がすべてのステークホルダーにたいして与える負の影響を精査・分析して問題を特定するという課題の存在である。企業は、そのビジネス活動において人権侵害事例を洗い出し、被害者にたいして「国連ビジネスと人権指導原則(UNGPs)」を確実に実行することが急務であると考える。
じっさいアンケートの回答でも、三井不動産など国際行動規範(国際的に通用している規範)まで視野に入れている(広義の合法性)ところや「特にマレーシア等の高リスク地域においては、同国の法律に適合していたとしても、実際には違法行為や森林持続性に問題がある場合が存在するものと認識」(積水化学)している企業がある。この一方で、「インドネシア政府・サラワク州政府発行の書類のみで合法性」と述べている企業も存在する(ノダ、ウッドワン)。
転換材
「転換材の取扱いを把握していない」と答えている企業が複数ある。ただ、サプライヤーに問い合わせるだけでは転換材かどうかわからないのではないだろうか。インドネシアのカリマンタンでは森林の農業用転換が急速に進んでいる(おもにアブラヤシ農園)。しかも伐採されたまま植栽されていないケースもあとを絶たない。インドネシアの国内法では土地の地位の変更について慣習的な利用者と協議する義務はないという。木材採取から利益を得ることが目的とされるからである。確実な把握をしようと思えば、現場レベルでの検証が必要なのではないか。
デューデリジェンスによる検証
ウェブサイトに掲げられている調達方針やガイドラインが本当に実効性を担保できるものであるか否か見極めるには、スコープを調達の最上流までふくめたデューデリジェンスによる検証が欠かせない。
JATANの認識ではサラワク/インドネシア材製品はその原木生産において、先住慣習地の収奪をはじめとするさまざまな問題が引き起こされている。JATANではこれまでの「提言」で、各企業にデューデリジェンスの意味のある実行とその検証結果の公表をお願いしてきた。サラワク産の木材製品を購入されている企業においては、まず、原料の生産現場においてみずから人権デューデリジェンスを実施し、その結果をもとに第三者をふくむ評価をおこなうようあらためて要望する。
森林認証の優先度
森林認証プログラム(PEFC)の承認プログラムであるマレーシア木材認証制度(MTCS)によって認証された伐採事業には苦情処理システムをはじめ多くの問題があることが昨年に公表されたレポート「遺漏の認証制度(LOST IN CERTIFICATION)」で克明に描かれている。
FSCには、たとえば或るグループ企業が森林破壊など深刻な方針違反を犯した場合、認証企業の企業グループ全体の連帯責任を問える苦情処理がある。この「組織とFSCとの関係に関する指針に対する苦情処理手順」に拠って、NGOがサラワクの伐採会社(サムリン社)やインドネシアのコングロマリット、アラスクスマに対してFSCに申し立てをおこない、受理されている。なお、PEFCは「組織とFSCとの関係に関する指針に対する苦情処理手順」を持っていない。
今回の評価では、森林認証制度を方針・ガイドラインに触れているか否かの評価項目に加え、認証制度の質を問う優先度も評価対象に加えた。
※今回の企業アンケート調査はパタゴニア環境助成金プログラムの助成を受けて実施しました。