JATANはCEOに宛てた1月14日付の公開書簡によってアスクルの「紙製品に関する調達方針」の実施確認を要望しました。今般、その回答が届きましたので下記に掲載します。その中でアスクルCEOの岩田氏は、LEI認証を含めた森林認証パルプでの生産を行っているので、「調達方針との乖離は無い」と明言しています。
2014年2月25日付 アスクルCEO岩田氏による回答「『アスクル紙製品に関する調達方針』の実施確認要望についての回答」(PDF)
今回、このような内容の「回答」が示されたことに深く失望せざるを得ません。アスクル社のコピー用紙の原料の供給地において、土地紛争などの「地域住民などの利害関係者等と重大な係争」という事実がある以上、「適切な管理がなされている」とは言えないことは明らかであり、「乖離は無い」どころか、「調達方針」からの乖離があり、逸脱は明らかであるとJATANは考えています。そして、「安心して使えない」コピー用紙であることに間違いありません。
アスクルの「紙製品に関する調達方針」においては、
アスクル株式会社は、取り扱う紙製品の原料について、下記のものを優先的に調達していきます。
■ 古紙や廃材などを有効利用して得られたリサイクルパルプ
■ 森林認証制度により適切に管理されていることが認証されたパルプ
■ 適切に管理された二次林または植林パルプ
と書かれています。
アスクル社の主張では、LEIという認証を取得しているので、2番目のカテゴリーである「森林認証制度により適切に管理されていることが認証されたパルプ」であることから、「調達方針との乖離はない」との判断をしているのかもしれません。しかしながら、森林認証制度は「適切に管理されていること」を認証するための手段であり、「適切に管理されていること」が確認できないような認証制度では、この2番目のカテゴリーに適合しているとは言えません。特に、アスクル社の「用語の定義」では、「森林認証制度の種類については、適宜、確認を行い判断する」と明記されており、単に森林認証を取得していること自体が要件ではないことが示されています。一方で、3番目のカテゴリーの「用語の定義」において、「適切に管理された」二次林または植林パルプの具体的な定義が示されていますが、LEI認証については少なくとも、「地域住民などの利害関係者等と重大な係争がないこと 」と、「天然林を近年になって人工林に転換した土地でないこと 」という項目については、適合しているとは言えません。LEI認証がアスクルの「調達方針」を充足させるには不十分な認証であることは、これまでJATANがアスクルに対して繰り返し述べてきたことで、「アスクルの《安心して使えない》格安コピー用紙」でも書いています。
LEI認証は、生産、環境、社会の三つの領域でそれぞれフィールド(現場)から上がってくる指標を階層分析法(Analytic Hierarchy Process)と呼ばれる手法によって平準化された総合評価値をもとにグレーディングを行っています。つまり、「社会面の指標が低くとも、生産面の指標がかなり高い経営体の場合、社会面が特に重要ではない類型のケースの場合は合格となりうる」のです。LEI認証団体が作成した監査の要約報告書でも「経営体は紛争を確認し、解決することに、もっと積極的でなければならない」と指摘されています。事実、アスクルがAPPに委託生産させているコピー用紙の原料調達地とされるジャンビ州のLEI認証植林地では、約8万ヘクタールという地域で土地紛争という「重大な係争」が発生しています。これはWKS(Wira Karya Sakti)というサプライヤーが介入による調停を林業大臣に要請している文書からも明らかです。その内の約4万ヘクタールはジャンビ農民協会(PPJ)が土地返還を求める声明を2013年2月に発表しています。こうした土地紛争がAPP社の原料供給地で発生していることは、TFT社やAPP社の進捗報告書にも記載されています。
「回答」ではまた、コピー用紙の製造を行っている工場がSVLK(Sistem Verifikasi Legalitas Kayu)を取得していることを述べています。SVLKとは、インドネシア政府が紙パルプ製品をふくむ全ての輸出向けの木材・木材製品を対象に認証取得を義務付けている合法性証明です。ただ、「合法性」を遵守していることは、「適切に管理されたこと」や「地域住民などの利害関係者等と重大な係争がないこと」ではありません。なお、APPの関連企業が取得しているSVLK認証に関してはその合法性すら疑わせるような告発や報告が相次いでいます。さらにSVLK認証自体の限界や信頼性への課題も提起されています。
アスクルがその「紙製品の調達方針」の実施として無批判にLEI認証を使う限り、「安心してお使いいただく」などと宣伝するアスクルを信用してコピー用紙を購入する顧客企業や消費者を欺く結果となることは明らかです。JATANでは会合を通してアスクルに直接、問題の所在を追及してきました。アスクルがまずすべきことは、LEI認証地域での土地紛争という地域住民との「重大な係争」という事実に基づいて、これまで、そして現在も「適切に管理されていること」が確認できていない認証パルプを優先的に利用してきており、そのために「調達方針」が遵守できておらず、安心して使えないコピー用紙を販売してきた、という事実を謙虚に認めることです。その上で、調達方針からの乖離の是正策を作成し、実施する必要があると考えます。
さて、アスクル社のCEOとして、土地紛争が多発している地域からの原料を利用した紙を「安心してお使いいただく」ことができると言えるのでしょうか? また、それらを「適切な管理がされていることが認証されている」と言えるのでしょうか? JATANとしては、調達方針からの乖離は明らかであり、「安心して使えない」コピー用紙であることに間違いないと考えます。仮に、アスクルの調達方針に乖離がないとするなら、逆に、アスクル社の調達方針は、重大な土地紛争を抱えている供給地からの原料をも優先的に利用することができる調達方針だという批判は免れません。どちらにしても、安心して使えないコピー用紙であることに変わりはありません。
以上