アスクルの《安心して使えない》格安コピー用紙 ―紙原料向けの植林がインドネシアの熱帯林と暮らしにあたえる大きな影響―

アスクルがインドネシアで委託生産させているコピー用紙は、多様な生き物が暮らす豊かな熱帯林の皆伐、泥炭湿地の開発による二酸化炭素の大量排出、そして地域住民との間の土地をめぐる深刻な争いなど、その原料の調達で多くの問題を抱えています。

アスクルは「コピー用紙を安心してお使いいただくために」というウェブサイトでコピー用紙の原材料確保にあたって環境・社会への配慮が十分に行われているかのような表現を繰り返しています。しかし、アスクルのコピー用紙は実際には、《安心して使えない》製品です。

格安のインドネシア産コピー用紙には、アスクルが自ら作った調達方針にすら合わない問題のある原料が使われています。以下、消費者を欺くような環境偽装(グリーンウォッシュ)の実態を批判的に検証します。

目次:
【アスクル】
1) アスクルの安心して使えないコピー用紙
2) アスクルのウソ
3) 植林木のコピー用紙の問題点 ―植林木が環境にいいとは限らない。持続可能な原料とも限りません。
4) アスクルの”1 box for 2 trees project”
5) のれんに腕押し ―のらりくらりアスクル
【APP】
6) APPの植林は「持続可能な」製紙原料ではありません。
7) アジア・パルプ・アンド・ペーパー(Asia Pulp & Paper: APP)とは?
8) 破られ続けてきたAPPの約束
9) 最後に ―コピー用紙を購入される際に

1) アスクルの安心して使えないコピー用紙

オフィス用品のインターネット販売で国内最大のアスクルはコピー用紙の販売でも最大のシェアを誇っています。コピー用紙だけでもFSC森林認証紙や古紙配合率100%の再生紙などさまざまな製品を販売していますが、一番大きな売れ筋商品は「スーパーエコノミー」「スーパーホワイト」といったブランドです。アスクル社のオリジナル商品であるこれらの製品は、インドネシアで操業する大企業グループ、アジア・パルプ・アンド・ペーパー(Asia Pulp & Paper: APP)に委託して生産されています。原料には、地域住民との間で土地紛争を抱えている地域からの植林材や、最も古いものでも過去17年以内、約7割は過去13年以内に熱帯自然林を伐採したり、住民の農園を撤去して造成された植林地の木材が優先的に利用されています。

これらの植林地は以前は泥炭湿地林やスマトラトラ・スマトラゾウの生息地など本来なら保護されるべき貴重な森林や住民の農園でした。また、植林地造成にともなう排水などによる泥炭湿地が乾燥することで排出されつづける膨大な温室効果ガスは地球規模の気候変動をも促しています。

コピー用紙を安心してお使いいただくために」というウェブページでは「2005年1月以降、オリジナルコピー用紙においては、この方針(『アスクル紙製品に関する調達方針』)に沿った原材料調達を推進しており、『責任調達』のPDCAサイクルを継続的に回しています」と述べられていて、「適切に管理されていることが確認」された原料だけを利用しているかのような内容の宣伝が行われています。JATANは数年前から、アスクルに対して会合を通じて原料調達に関わる問題を指摘し、調達方針をきちんと実施するように求めてきました。しかしアスクルは現在まで、自社の調達方針が実施できていないことを公に認めようとはしていません。JATANとしては、このような主張をしつづけることは顧客の企業や一般の消費者を欺く行為であり、社会的に大きな問題だと認識しています。したがって、こうした事実を広く消費者の方々に知らせ、《安心して使えない》コピー用紙を購入しないように注意していただきたいと考えています。

2) アスクルのウソ

インドネシア産コピー用紙で行われている「原材料トレーサビリティー調査」では、大まかな木材の種類、APPへの原料供給会社(サプライヤー)、認証材の可否などについて情報が得られていますが、原料採取区域の特定などそれ以上の具体的な情報は把握されていません。

アスクルはAPPに対して、原料としてインドネシア独自の認証制度であるLEI(インドネシア・エコラベル協会)によって認証された地域からの原料を優先することを要請しています。しかしLEIの認証基準は、自然林を皆伐し泥炭湿地を切り開いて造成した植林地や、地域住民との土地紛争が発生しているケースでも認証上、問題なしとする非常に緩いものです。実際、アスクルが主要な供給元としている、LEI認証を得ているAPPサプライヤーのWKS(Wira Karya Sakti: ウィラ・カルヤ・サクティ)は、8万ヘクタール(神奈川県の約3分の1に相当)の事業地で地域住民との土地紛争を抱えていますし、泥炭地から転換された植林地も認証されています。WKSのLEI認証を得ている事業地は最も古いものでも過去17年以内、約7割は過去13年以内という比較的近年に植林地に造成された土地*です。これはアスクルの「紙製品の調達方針」から逸脱しており、「責任ある調達」は達成されていないと考えられます。
*(註) WKSが植林の事業権をインドネシア林業省から最初に取得したのは1996年。基本的に取得後に自然林が皆伐され、農園等が撤去され、その伐採跡地で行われるパルプ用のアカシアやユーカリの植林では植栽から収穫まで一般に5-7年を要すると言われています。17年というのは想定される中で最も古い年限で、実際にはWKS事業地の7割以上は2001年3月以降に事業許可を取得したことから、植林地の7割は過去13年以内に造成されたものです。

WKS社に返還を求めて土地占拠活動を行う住民(スマトラ島ジャンビ州セニェラン村) 画像提供: WALHI Jambi
WKS社に返還を求めて土地占拠活動を行う住民(スマトラ島ジャンビ州セニェラン村) 画像提供: WALHI Jambi

ちなみにAPPは、LEI以外の認証も取得していますが、LEIもふくめて取得する森林認証や環境基準のいずれもが、APPの操業の環境面での持続可能性を保証するものではないことが明らかになっています。

アスクルの調達方針では、「アスクル株式会社は、取り扱う紙製品の原料について、下記のものを優先的に調達していきます」 と書かれています。

■ 森林認証制度により適切に管理されていることが認証されたパルプ
=「森林認証制度(パフォーマンス認証)により、独立した第三者機関により適切に管理されていることが認証されたパルプ。なお、森林認証制度の種類については、適宜、確認を行い判断する」
■ 適切に管理された二次林または植林パルプ
=「木材供給を目的とした二次林(伐採や風水害、山火事などにより森林が破壊された跡に、土中に残った種子や植物体の生長などにより成立した林)または植林から取得される段階に、以下の項目について適切に管理していることが確認されたパルプ
・違法伐採でないこと
・保護価値の高い森林からの伐採が行われていないこと
・地域住民などの利害関係者等と重大な係争がないこと
・天然林を近年になって人工林に転換した土地でないこと
・木材の生産が持続的に行われていること
・主に天然林について生物多様性に配慮していること」
*(註) 上記の”=”以降の記述は、2005年6月に公開された「紙製品に関する調達方針」に併記されていた「用語の定義」からの抜粋です。後述するように、この「用語の定義」は現在、アスクルのウェブサイトからアクセスできません。

アスクルコピー用紙の原料供給地では実際には地域住民との間で重大な係争が存在しており、この方針は守られていません。また、土地転換は最も古いものでも過去17年以内、約7割は過去13年以内という比較的近年に順次行われており、「近年になって人工林に転換」されている土地に該当すると考えられます。ただアスクルは、この「近年」について具体的な年限を示していないので、そもそも確認のしようもないというのが実態です(少なくとも2013年夏の時点での状況)。

LEIという認証を使う限り、原料の調達はアスクルの「調達方針」から逸脱する恐れが高いのです。それはLEI認証が多くの問題を抱える植林地も認証する緩い基準だからです。

現在アスクルのウェブサイトに掲載されている「調達方針」においては、2005年6月に「紙製品に関する調達方針」を公開して以来最近まで掲載されていた「用語の定義」 などの付随文章が削除されています。そこでは上掲の「適切に管理していることが確認されたパルプ」の基準条件が明示されていました。しかし今では、調達方針が満たされていないことを危惧しているためでしょうか、一般に公開されているサイトから隠されてしまっています。JATANではこの「用語の定義」や基準条件をJATANのサイト内に掲載していますのでご確認ください。

3) 植林木のコピー用紙の問題点 ―植林木が環境にいいとは限らない。持続可能な原料とも限りません。

アスクルのオリジナル商品としてAPPが製造している「スーパーエコノミー」「スーパーホワイト」は、アスクルによれば、植林木を原料として製造された「植林木パルプなど」で作られています。アスクルが製造を委託しているAPPは植林に関してこう述べています―「紙の原料となる木材は再生可能であり、私たち自身の手で育てられる大切な資源です。植林は、貴重な自然林を保護し生態系を維持する一方で、原料となる木材の持続的調達を可能にします」。しかし、インドネシアにおいて行われている製紙用のための植林木は、大きな問題を抱えています。

多くの荒廃した人工林(植林)を抱え、森林整備が必要とされる日本では間伐材の有効利用がずっと叫ばれてきました。こうしたことから植林材を使うことは環境に良いのだという認識が一般に広がっています。また一方で、日本では一般に「植林」というと、生態系の保護や地盤の強化のための植林、砂漠化を防止するポプラなどの植樹や荒廃地を復元する在来種の植林といったように森林再生・環境復元のような、大変ポジティヴなイメージで捉えられる傾向があります。しかし、住民たちやさまざまな野生生物に多くの恵みを与えてくれる熱帯の自然林を犠牲にして造られたAPPの産業植林に対して同じ認識やイメージを適用することは大きな間違いです。

アカシアとユーカリによるパルプ用の産業植林 かつては豊かな熱帯低地林が繁茂していた

なぜなら、植林とはいっても、APPの製紙用の原材となる木材の調達が目的なので、単一の外来種が大規模に植えられ、5-7年という短い期間で皆伐されるというサイクルが繰り返されるためにもはや森林とは言えず、広大な単一栽培(モノカルチャー)農地と変わりません。ましてや、APPの植林地の大部分は元々、生物多様性に富み、膨大な炭素を蓄積しているインドネシアの低地熱帯林・泥炭湿地林で、まずはその自然林が皆伐されてAPPが木材を調達した伐採跡地に植林が繰り返し施されます。泥炭地における植林活動はまた、毎年排出され続ける温室効果ガスが地球規模の問題となっているため、このような植林が環境に良いとはまったく言えないのです。

APPの植林地造成と植林材原料の調達は、さまざまな社会的・環境的問題をはらんでおり、APP製のコピー用紙を使うことは、「環境保全」どころか、地域住民との土地紛争に加担したり、貴重な天然林や生態系の破壊の上に成り立っていることから大量の温暖化効果ガス排出を促すことになりかねません。

湿地帯に造成されたAPPのサプライヤー、アララ・アバディの植林事業地 実際には植林はされずに自然林皆伐後放置されている
湿地帯に造成されたAPPのサプライヤー、アララ・アバディの植林事業地 実際には植林はされずに自然林皆伐後放置されている

4) アスクルの”1 box for 2 trees project”

アスクルによれば、”1 box for 2 trees project”は「インドネシア生産のアスクルオリジナルコピー用紙を1箱ご購入の場合、お客様の購入代金の一部が2本以上の産業植林につながり、それらが持続可能な原材料になりえることを確認する取り組み」です。これは「インドネシアの現地製紙メーカー」、つまりAPPがパルプ原料の木材調達という本来的なビジネス(植林)を実践するための資金を提供するプロジェクトに他ならないのであって、伐採と開発によって荒廃し消失した天然林のリハビリを行うような環境植林や森林再生とはまったく異なります。

実際に、「コピー用紙の材料として収穫した、木材の分だけ森林を増やす(切らない木の森林)と理解されてしまうことが未だにあります」と自らコメントし、「コピー用紙で失った木の2倍の木を植えて、切らない森林回復をしている」という誤解を招いていると反省もしています。実際には、”1 box for 2 trees”によって収穫される原材料はアスクルのコピー用紙に利用される確証はどこにもありません。ウェブサイトには、「私たちが販売しお客様に使っていただいているコピー用紙が、製造国インドネシアの森林破壊につながることがないように、原材料となるアカシアやユーカリの産業植林がきちんと行われているか、計画通りに生育しているかを現地とのコミュニケーションや訪問を通じて確認するという内容でした」と説明されています。いかにも、アスクル自らが調達している原料を現地で確認しているかのような説明となっています。しかし、実際には、上述のように調達方針の実施確認はきちんと行われていませんし、”1 box for 2 trees”で行っているのは、アスクル社の原料調達先となっているAPPのサプライヤーが行っている産業植林事業の現地視察を行っているだけで、収穫される植林木がアスクル向けの原料になるかどうかは不明だそうです。

消費者に誤解を与えつつ、実際には原料の調達方針に合致していないコピー用紙の販売促進を行うのではなく、まずは、自ら定めた調達方針が達成できていないことを認め、その達成に向けて注力していくべきではないでしょうか?

5) のれんに腕押し ―のらりくらりアスクル

アスクルは10年以上、APPが引き起こす自然林皆伐やその影響を十分に認識しながら、それでもなお、APPの紙製品を販売し続けています。

APPは2003年8月に、消費木材の持続性・合法性確保、保護価値の高い自然林の保護、地域コミュニティーとの土地紛争の解決等を目指すための事業計画を策定するとして、WWFと同意書を結びました。APPの主要取引先であったアスクルはこの同意書について、「紙製品の販売に関わる企業としての責任を果たしていくために、適切な森林管理に基づいた紙製品の流通・販売を目指しています。従って、今回の同意書調印はそのスタートとして認識しており、今後コミットメントが確実に実施されるよう求めていくとともに、森林認証に準拠した森林管理の履行を促していきたいと考えています」とのコメントを寄せました。

この際、もう一社の取引先であった(株)リコーは、「APP/SMGに対して、すでに規定に基づき、同社のオペレーションの改善を要求しております。この改善が期限内に実行されない場合には、残念ではありますが取引を停止することになります」とコメントしました。

6か月後の2004年2月、WWFは、APPが同意書の最終成果として作成された「持続的木材供給アクションプラン」は自然林保護に不十分だとして、APPと取引のある企業に対して、ビジネス再考を求めました。この結果、(株)リコーは、自らのコメント通りAPPとの取引を停止しましたが、アスクルはその後も取引を続けました

それから今日まで、アスクルは、自らも関わった「WWFジャパン・インドネシア森林保全基金」をもとに設立された、WWFインドネシアなどの現地NGOが共同で自然林伐採を監視するプロジェクト「アイズ・オン・ザ・フォレスト」が、APPによる自然林破壊とその影響に関する証拠を発表し続け、複数のNGOからAPPとの取引停止を求められ続けたにも関わらず、APP製品を販売し続けているのです。

2002年に日本に輸入されたコピー用紙26万2600トン(日経流通新聞MJ 2003年2月4日付記事)のうち、このうち74%ほどがAPP製品でした。2011年には、主にコピー用紙に使われるカットシート紙の輸入量が、49万6396トンに上り、この8割近くをインドネシア産が占めました。そのほとんどがAPP製品で、アスクルは相変わらずその主要な販売企業なのです。2012年10月時点の情報によれば、アスクルは年間約15万トンのコピー用紙をAPPから購入し販売しています。アスクルのコピー用紙全体の販売量は16%(約20万トン)で国内シェアNo.1と述べています。従って、アスクルが販売するコピー用紙の75%がAPP製の《安心して使えない》コピー用紙と想定できます。

6) APPの植林は「持続可能な」製紙原料ではありません。

APPJ(APPジャパン)は、「APPグループが行っている植林面積は世界最大規模。インドネシアに100万ヘクタール、中国に30万ヘクタールと、東京都の約6倍の面積に当たる広大な植林地を保有する」と述べています。植林が本当に環境に良いかを見極める指標の一つは、その植林地の「来歴」です。つまり、植林地に転換される前の土地がどうだったかということです。

「アイズ・オン・ザ・フォレスト」によれば、APPがリアウ州でパルプ工場を操業開始した1984年から2010年までに、APPとその木材サプライヤーは、東京都の9倍の面積に相当する200万ヘクタールのインドネシアの熱帯自然林を伐採しました。APPJのデータと比較すれば、自然林を伐採して木材を調達したあと、その土地の50%しか植林されなかったということが推測されます。リアウ州とその周辺地域にあるサプライヤーのコンセッション(植林事業地)の中だけでも:

(1) 絶滅危惧種であるスマトラトラやスマトラゾウの生息地であった天然林が32万ヘクタール消失、
(2) 絶滅が危惧されるタイプ(eco-floristic sectorという)の天然林が36万ヘクタール消失、そして
(3) 泥炭地にあった天然林が53万ヘクタール消失しました。
*(註) 上掲のデータは、「アイズ・オン・ザ・フォレスト」による調査レポートのWWF日本語版、「SMG/APP社 グリーンウォッシュの裏側」から抜粋しました。

(1)と(2)は、「保護価値の高い森林」の破壊そのものです。天然林伐採後、仮にアカシアやユーカリが植林されても、これらはトラやゾウやその他の動植物が生息するに適した環境とは言い難いのです。このような紙生産のための植林地である産業植林地の拡大の結果、自然の生息地を失った動物は、人里に現れて、家畜や農地、人を襲ったりすることが増え、その結果、殺されたり、密猟されるケースも多くあります。APPサプライヤーのコンセッションではその周辺で多くのトラが殺されたり、トラに人が襲われるケースも多く報告されています

リアウ州内陸部のブキ・ティガプルー(Bukit Tigapuluh)国立公園やテッソ・ニロ(Tesso Nilo)国立公園の周辺などにあった低地熱帯林が枯渇寸前となった後、2000年初旬からは主に(3)のように、リアウ、ジャンビ、南スマトラ三州の東岸一帯に分布する泥炭湿地における湿地林皆伐を激しい勢いで進めてきた結果、地球温暖化を促すような、世界規模の重要な影響を引き起こし続けています。なぜなら、リアウ州の広大な泥炭地に存在するAPPサプライヤーのコンセッションにおいて、天然林皆伐のみならず、植林造営と管理のために泥炭地の水が排出され続けることによって、炭素等を封じ込めた状態で長年にわたって水中に未分解のまま貯蔵されていた植物枯死体が、空気と触れ合って酸化を始めてしまい、二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスを発生し続けるからです。

泥炭地にある多くのAPPサプライヤーのコンセッションでは毎年のように土地火災が起こっており、これによって、温室効果ガスの発生がより加速されるだけでなく、地元だけではなく、シンガポールやマレーシアまで煙害を引き起こして国際問題となっています。レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)と熱帯林行動ネットワークが発表したレポートによれば、天然林伐採や泥炭地での植林開発によって排出される温室効果ガスもふくめると、APPの紙1トンの生産は16~21トンCO2以上を排出することが推計され、これは北米で利用可能な最高レベルの古紙100%再生紙のカーボンフットプリントの約53~70 倍でした。また、泥炭地の開発に伴う排水によって、泥炭地は地盤沈下を続けるため、将来的には泥炭が常に浸水した状態になり、植林運営を続けることは不可能になってしまうことが予想されます。つまり、APPの植林運営は持続可能とは言い難いのです。

NGOは、APPに対して、これまでに引き起こした生態系・環境に対する多大な影響を鑑み、本当の意味での植林である森林再生及び泥炭地の再生を求めていますが、APPはこれに対し明確な回答をしていません

さらに、このように広大な植林地の確保を可能にさせている背景には、その事業権の取得過程に問題があるからです。APPグループが原料供給地として確保している植林地の多くで地域住民との土地紛争が起きていますが、それは地域住民が元々居住していたり利用していた土地だったにもかかわらず、住民の存在を無視して、政府が植林地の造成や管理権の許可を与えてしまうからです。伝統的・慣習的な土地権を尊重しないで、造成されたこうした植林地は持続可能な原材料を得られる地域とは考えられません。しかも、APPサプライヤーが産業植林開発を行う土地の譲渡を受ける際に必要な人工林木材林産物利用事業許可(IUPHHK–HT)や年間伐採許可を認可する政府役人数人が、サプライヤーから賄賂を授受していた件でこれまでに懲役刑判決を受けています

アララ・アバディのアカシア植林地 立ち退きを拒否し続けてきた住民たちの家屋に火を放って強制退去させた

7) アジア・パルプ・アンド・ペーパー(Asia Pulp & Paper: APP)とは?

APPは、ウィジャヤ・ファミリーが支配するインドネシア有数の財閥、シナル・マス・グループ(Sinar Mas Group)の中核企業グループ(統一ブランド)で、紙・パルプ生産部門を担っています。グループの総帥はエカ・チプタ・ウィジャヤ(Eka Tjipta Widjaja)。同グループはスハルト政権下で巨大なコングロマリットへと成長したサリム(Salim)、アストラ(Astra)などと並ぶ巨大華人企業財閥です。

APPはインドネシアと中国で生産される製品のブランドで、インターナショナルペーパー(米国)、ストラエンソ(フィンランド)に次ぐ世界第三位の規模と言われています。これらの製品は、元々インドネシアのスマトラ島とジャワ島で生産されていましたが、中国の揚子江デルタ地帯、珠江デルタ地帯に重点的に投資をはじめ、現在までに中国国内に20を超える紙・パルプ工場を設立。APP中国の年間の生産能力は800万トンに達し164万トンの紙・板紙製品を海外に輸出しています。

APPインドネシアは複数の紙・パルプ企業を傘下に置いています。APPのパルプ生産の中核を担っているのが、スマトラのリアウ州にあるインダ・キアット(PT Indah Kiat Pulp & Paper Tbk.; IKPP)のペラワン(Perawang)工場とジャンビ州にあるロンタル・パピルス(Lontar Papyrus Pulp & Paper Industry; LPPP)工場です。APPがインドネシアで生産するパルプの73%がこのペラワン工場でつくられるといいます。2009年に最大200万トンだったペラワン工場のパルプ生産能力は二年後の2011年には年間230万トンまで拡大しました。生産力増強のために投入される木材原料はいったいどこから来るのでしょうか? APPはパルプ原料の混交熱帯広葉樹材(mixed tropical hardwood; MTH)依存率を2011年時点で44%にまで拡大する計画でした 。そして、2013年になり、3つ目のパルプ工場(PT. OKI Pulp & Paper Mills, パルプ生産能力は年間200万トン)を南スマトラ州に建設することを発表しました 。さらに、東カリマンタン州にも同規模のパルプ工場を建設するという計画が伝えられたこともあります。

APPのパルプ生産施設に対して、原料の調達や植林施業等を行う「自社サプライヤー」と呼ばれるいくつかの会社がグループ系列のシナルマス・フォレストリー(Sinar Mas Forestry)の下に存在しています。代表的なサプライヤーとして、リアウ州に広大なコンセッションを持つアララ・アバディ(PT Arara Abadi)と主にジャンビ州を拠点とするWKSが挙げられます。さらに、APPが「独立系(グループ傘下でない)サプライヤー」と称している多くの供給会社がパルプ原料の木材をAPPに提供しています。どちらのサプライヤーも林業省から、本来は産業植林開発のためのコンセッションである人工林木材林産物利用事業許可を取得しています。このコンセッションでは天然林の皆伐も許可されますが、天然林の伐採後の土地が植林されずに放置または他用されるケースも多いのです。全体で260万ヘクタールに及ぶというコンセッションは、スマトラだけでなく、カリマンタンにまで及び、APPによるパルプ材調達のための熱帯林皆伐が、上述したように様々な問題を引き起こしているうえ、その植林の多くについてその持続可能性が疑問視されているのです。

こうした原料調達により生産されたパルプはAPPインドネシアおよびAPP中国の製紙工場に運ばれ、コピー用紙印刷用紙衛生用紙などの紙製品に加工され、さまざまにブランド名を付けられて日本をふくめ、世界中で販売されています。日本でよく見られるコピー用紙のブランド名は、「ペーパーエクセルプロ」、「コピーペーパーホワイト」などです 。

APPを設立する以前の1984年に、シナルマス・グループはペラワン工場を買収して本格的なパルプ生産に着手しました。以来、リアウの天然林の急激な消失がはじまったとされています。当時、シナルマスはアカシアやユーカリの植林地を1ヘクタールも持っていませんでした。原料調達のための皆伐による熱帯林破壊は起こるべくして起こったのです。巨大な生産キャパシティはインドネシア国内の紙需要を満たすためではありません。格安の紙製品を武器にグローバル展開をはかるという当初の目標が、APPを世界第三位という巨大企業に育て上げた最大要因でした。しかし、ここまで急成長したことの代償はあまりにも甚大です。

8) 破られ続けてきたAPPの約束

APPによるパルプ原料の調達についてはこれまでにつねに、その持続可能性はおろか、合法性までも国内のNGOのみならず、WWFやRainforest Action Network(RAN)、Greenpeaceといった国際的な環境NGOから糾弾されてきました。APPは1990年代、2004年、2007年、2011年と過去に何度も《パルプ原料の植林材100%達成目標》を公にしてきました。しかしその公約はいずれも果たせられませんでした。それどころか、新しいパルプ工場が建設されることにより、さらに自然林への需要圧力がさらに増す懸念が持たれています。

APPは2012年6月、「持続可能性ロードマップ」を発表し、さらに今年の2月にはその実施具体策として「森林保護に関する方針」 (Forest Conservation Policy; FCP)を公にしました 。しかし、その後もいくつかのサプライヤーによる違反行為が確認されているため、FCPについては多くのNGOが、その本当の意味での達成の可能性に対して懸念を述べるとともに、同社がこれまでにインドネシアの森林と地域社会に及ぼしてきた深刻な影響についての責任認識に深い疑念を表明しています。たとえばWWFやRANは、FCPの履行が第三者によって然るべき検証を受けて証明されるまで、APPの製品を購入したり、同社への投資を控えるよう求めるメッセージを企業に送り続けています。そうした中、アスクルはFCP発表後いち早く、APPの方針を支持するコメントを発表しています―「今後もAPPグループとの取引を継続する中で、この計画が着実に進められ、成果が表れてくることについて、監視および支援を続けてゆく予定です」。

9) 最後に ―コピー用紙を購入される際に

JATANでは消費者の方がコピー用紙をインターネットや店頭で購入される際に下記のことに留意いただくよう提言しています。

♦ なるべく不要な紙の使用を控える。
♦ 問題のある原料のコピー用紙(インドネシア産コピー用紙など)の購入を控える
♦ 代わりに、購入する場合には、古紙100%の再生紙やFSC認証紙を選ぶ。
♦ APPやエイプリル社などが引き起こしている問題について多くの人に伝える。
♦ 問題のあるコピー用紙を購入しないように市民として購入企業に求めていく。
♦ 問題解決に向けて活動をしているNGOを支援する。

詳しくは「紙製品の選び方」をご覧ください。

 

《署名のお願い》 JATANではアスクルに対して改善を求める署名活動を現在ウェブサイト上で行っております。ご賛同いただける方は以下リンク先よりご署名お願いいたします。
【change.org】環境や社会に配慮した「安心して使える」コピー用紙を提供してください!

APPがもたらしているさまざまな問題の解決に向けて、一人でも多くの方のご協力をいただければ幸いです。

以上