スマトラの大規模森林火災の陰にアブラヤシ農園企業と並んでAPP系列のサプライヤーが存在

JATAN運営委員 原田 公

■スマトラの森林火災問題
 過去10年にわたって、毎年のように頻発しているインドネシアの森林火災は、煙害(ヘイズ)問題として隣国のマレーシア、シンガポールなどからたびたび批判が出されいまや外交問題にまでなっている。しかしその原因については、インドネシアの国内メディアはただ「住民による違法な野焼き」という常套句を繰り返すばかりで、真相解明にまで踏み込んだ報道はほとんどなかった。事実、海外の主要メディアが大きく報道する「煙害」 だがこれまでに一度も係争事件に発展したことはなかった
 住民の健康被害、航空機の運航停止などで90億米ドルの損害をもたらしたという1997~98年の煙害規模 に匹敵すると報道されている今年6・7月のスマトラの煙害だが、今回は火災原因をめぐって、一部のメディアが泥炭湿地林開発を進めるアブラヤシ農園企業やパルプ企業の実名を挙げて批判するなど、これまでの報道姿勢に変化が見られる。かねてから野焼きの元凶と批判の矛先を向けられてきた地域住民も怒りの声を挙げはじめている。リアウ州の住民有志8名は、森林火災と企業による泥炭湿地の開発によって彼らの生業と健康が重大な脅威に晒されているとして、ユドヨノ大統領を相手に訴訟を起こした 。湿地林の皆伐とその跡地のプランテーションが住民たちの生活基盤を破壊し、煙害は呼吸器疾患など彼らの健康に深刻な影響を及ぼしているが、国民の健康を軽視し企業に対する開発コンセッションの発効を黙認し続けている大統領の責任を追及するのだという。一方の大統領といえば国民の頭越しにマレーシア、シンガポールに謝罪したものの、アブラヤシ農園を経営するマレーシア系の8企業が煙害の背景にある報告を側近から受けたのちは、治安当局に対し原因の究明を指示、訴追も辞さない構えという。

煙霧にかすむ早朝のリアウ州シアック (撮影JATAN)

■プランテーション企業による関与の容疑が濃厚に
 インドネシアのパーム原油(CPO)の生産コストではマレーシアに比べはるかに低い。開発に伴うコスト抑制策のひとつが違法な野焼きである。TEMPO誌によれば、土壌PH6という酸性度が高い熱帯の泥炭湿地に石灰を散布し、かつ害虫および病原菌などを除去するために肥料を使うなどして適度に矯正するためのコストはヘクタール当たり3,000~4,000万ルピア。これに対し、ほぼ同じ効果が見込める「野焼き」は同200万ルピア であるという(TEMPO誌英語版2013年7月1-7日号43頁)。造林に関する2004 年法律第18 号(Undang-Undang No 18 Tahun 2004 Tentang Perkebunan)によれば、森林放火の犯罪に対しては最長10年の禁固刑、最高1500億ルピアの罰金が科せられる。しかし実際はこの法律はまるで存在しないかのように無視されてきた。
 米航空宇宙局(NASA)による衛星写真がスマトラのホットスポットを詳しく捉えている。この画像をもとに国際林業研究センター や世界資源研究所(World Resources Institution: WRI)をはじめいくつかの研究機関やEOFなどNGOが林業省のコンセッションマップなどを使って、火災発生地点を同定する報告を発表している。
 いずれの報告でも、多くのホットスポットがパルプ用のアカシア産業植林のコンセッション内であることが指摘されている。EOFによれば、6月の1日から23日までの期間にスマトラで観測された9,001件のホットスポットのうち、89%にあたる8,055件はリアウ州内に位置しており、2,432件 (30%)がHTIから起こっているという。1,027件はAPP系列、1,075件はAPRIL系列のサプライヤーの植林地 である。
 6月に発生したリアウ州の大規模森林火災に絡んでインドネシアの環境保護管理法(2009 年第 32 号法)違反の容疑で、紙・パルプ系の木材調達企業5社とアブラヤシ農園3社が大統領開発管理調整ワーキングユニット(Presidential Working Unit for Supervision and Management of Development: UKP4)の調査を受けていると9月23日付の「ビスニス・インドネシア」(電子版)が報じている 。同紙の取材に応じた環境省調査部長のシャイフディン・アクバル(Shaifuddin Akbar)は企業名の公表を避けているが、「ビスニス」紙の報道で挙がっている企業名のイニシャルをアイズ・オン・ザ・フォレスト(Eyes on the Forest: EOF)は、アジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)系列のPT Bukit Batu Hutani Alam、PT Sakato Pratama Makmur、PT Ruas Utama Jayaとエイプリル(APRIL)系列のPT Sumatera Riang Lestariと特定している。

6月に発生したリアウ州のホットスポット(赤枠)(出典:EOF)

■ルアス・ウタマ・ジャヤ社(PT Ruas Utama Jaya: RUJ)
 RUJはリアウ州北部のドゥマイ地区(Dumai Municipality)とロカン・ヒリール県(Rokan Hilir Regency)にアカシアのコンセッションを持つAPPのサプライヤーである。EOFによればこの企業の植林地では6月1日から28日までに140件 、またWRIによれば6月12日から20日にかけて52件のホットスポットが確認されている。
 リアウ州のNGOコンソーシアム、ジカラハリ(Jikalahari)をふくむ調査チームがRUJのホットスポットを複数回、現地調査している。6月の調査では何者かが地域のコミュニティグループによるオイルパーム農園に放火した事実が確認されている。8月に行ったJATANの取材に対して調査チームの或るメンバーは、「興味深いことに同社のアカシア植林にはほとんど延焼は認められなかった」と証言している。RUJは地域の住民との間で土地の境界を巡るコンフリクトを抱えていたという。
 APPの持続可能性担当役員アイダ・グリーンベリーは「野焼き(slash and burn activity)」を強く非難する一方で、同社のサプライヤーが火災の火元であるとの指摘はしている。「APPは1996年に導入した『ゼロ燃焼ポリシー』と最近の『ゼロ伐採ポリシー』は森林火災抑制の基本なのです」 。10月24日付のEOFニュースは、RUJをふくむ数社の植林企業が森林火災に関わっていたことを示す容疑が強まったとして、環境省はこれら企業に対する訴追の可能性をあらためて言明したと報じている 。APPが今年2月5日に発表した「森林保護に関する方針」(Forest Conservation Policy)は記憶に新しいが、一連の森林火災に関する動きを追う限り虚妄を重ねる体質は依然変わっていないようだ。

RUJのコンセッション
放火されたアブラヤシ農園(前景)とRUJのアカシア植林(後景)(撮影:Adi Pranowo氏)

※JATAN NEWS 96号からの転載です。