■ 下記記事はAidEnvironmentの“Timber Deforestation by Alas Kusuma Demonstrates Continued Exposure of Palm Oil Buyers”を日本語に翻訳したものです。AidEnvironmentの了承のもとに掲載します。(JATAN事務局)■
NDPE方針を揺るがすアラス・クスマの森林破壊 ―合板・パーム油の購入企業が取り組むべきサプライチェーン管理の課題
報告者:アナ・ナティヴィダッド(Ana Natividad)
発行日:2023年10月
はじめに
パーム油業界のNDPE 方針(森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(No Deforestation, No Peat, No Exploitation)の導入は、アブラヤシ農園の拡大による森林喪失の軽減に大きな影響をもたらしている。2020年のAidEnvironmenとそのパートナー団体による調査によれば、世界のおよそ半分に相当するインドネシアおよびマレーシアのパーム油製油能力の83%はNDPE 方針の対象とされている。AidEnvironmentの内部分析は、アブラヤシ農園企業のおよそ75%がNDPE 方針を遵守していることを示している。
パーム油購入企業によるNDPE方針の適用がいかに成功しているとはいえ、ある重要な分野では不十分である。NDPE方針はパーム油部門にのみ適用される。他の作物のために行われた森林伐採は、たとえそれがパーム油のサプライチェーンに含まれる企業によって行われたとしても、通常NDPE方針の適用外と見なされる。
インドネシアとマレーシアの企業が複数のセクターで事業を展開することはめずらしくない。インドネシアのアブラヤシ農園企業大手 10 社のうち、6 社が鉱山採掘に携わっている。インドネシアでは、産業植林事業権(パルプ用樹種の造林を行うために発行される事業権)の64%が、アブラヤシ農園も運営する企業グループによって保有されている。マレーシアのサラワク州では、アブラヤシ農園開発の大手6社がサラワク州の産業植林事業権の69%を保有していると推定される。
AidEnvironmentが2021年に発行したレポートは、産業植林の開発のために2016年から2020年にかけて13.3万ヘクタールを上回る伐採を行った10の企業を特定している。これら10企業はまた、アブラヤシ農園も保有している。インドネシアの企業では、ヌサンタラ・ファイバー(Nusantara Fiber)、ジャルム・アディンド・フタニ・レスタリ(Djarum, Adindo Hutani Lestari)、ジョンリン(Jhonlin)、ハルダヤ(Hardaya)、サンプルナ(Sampoerna)、アラス・クスマ(Alas Kusuma)の六社、マレーシアでは、リンブナン・ヒジャウ(Rimbunan Hijau)、サムリン( Samling)、シンヤン(Shin Yang)が含まれる。これらの企業はすべて、世界最大のパーム油製油業者の一社以上とサプライチェーンでつながっている。
AidEnvironmentは、NDPE方針の適用を単なる商品レベルではなく、企業全体に拡大するよう提唱しており、企業が森林伐採を行っている場合でもその伐採がアブラヤシ農園開発のためでないという理由でNDPE方針の適用が許されてしまうことはあってはならないと主張している。
2020年以降、AidEnvironmentは西カリマンタン州のマヤワナ・ペルサダ社(PT Mayawana Persada)の活動を監視している。インドネシア企業のアラス・クスマの傘下にあるこの産業植林企業は森林伐採をずっと行っている。インドネシアの産業事業権保有企業の中で最大の森林伐採企業である同社は、NDPE方針の適用対象のパーム油のサプライチェーンにアクセスしている可能性が高い。
アラス・クスマ
アラス・クスマの傘下にある一社は産業植林企業のマヤワナ・ペルサダ社(PT Mayawana Persada)である。三社は伐採と木材加工の総合企業のサリ・ブミ・クスマ社(PT Sari Bumi Kusuma)、ハルジョン・ティンバー社(PT Harjohn Timber)、スカ・ジャヤ・マクムール社(PT Suka Jaya Makmur)である。また、二社はアブラヤシ農園を経営しているクスマ・アラム・サリ社(PT Kusuma Alam Sari)とサウィット・ジャヤ・マクムール社(PT Sawit Jaya Makmur)である。AidEnvironmentの分析によると、マヤワナ・ペルサダ社は産業植林造営のために2016年から2022年の間に約20,000haの森林を伐採した。
公正証書(notary acts)によると、アラス・クスマに関連する個人には、アミン・スサント(Amin Susanto)、ジェフリー・スサント(Jeffrey Susanto)、イワン・スサント(Iwan Susanto)、スハディ(Suhadi)、ブディジュウォノ・ハンジャ(Budijuwono Handjaja)が含まれる。興味深いことに、ジェフリー・スサントを除いて、これらの名前はすべてパナマ文書に記載されており、ファースト・アセット・エンタープライズ・リミテッド(First Asset Enterprises Limited)として知られる英領バージン島で登録されたダミー会社との関係を示唆している。
2023年1月、マヤワナ・ペルサダ社はオーナーが変わり、その株式の半分をグリーン・アセンド社(Green Ascend (M) Sdn Bhd)として知られるマレーシアの会社が取得した。グリーン・アセンド社の企業情報によると、同社に関連する特定の個人は、ヌサンタラ・ファイバーのプランテーション管理を監督するアカパーム・プランテーション社(Acapalm Plantation Services Sdn Bhd)の経営にも携わっている。
アラス・クスマの木材ビジネス
アラス・クスマは木材関連の四企業を経営している。下記表にその要約を示す。うち三社はFSC認証を受けている。
FSC認証は木材業界における自主的なスキームであり、サプライチェーン全体で木材が持続可能な形で調達されていることを保証することを目的としている。FSCは三種類の認証を発行しており、それぞれが木材生産の様々な段階に対応している。
1. 森林管理(FM)認証:森林伐採事業に対して発行され、森林が持続可能な形で管理され、生物多様性が保全され、地域社会に利益をもたらしていることを確認する。
2. CoC(Chain of Custody)認証: CoC認証は特に木材加工会社を対象としており、生産工程全体を通じて森林由来の原材料の出所を確認する。CoC認証の目的は、FSC規格を遵守しながら、調達された材料が「受け入れ不可能な材料」から分離されていることを保証することである。これは、CoC基準で規定されている包括的なデューデリジェンス・プロセスを通じて確認される。これは、組織が一定の要件を満たすことを条件に、「管理材」に分類される非FSC認証材の調達を許可することを規定している。これらの要求事項の中でも基本的な条件として、管理材は FSC 基準に完全に適合している場合にのみ使用することができる。
3. 管理木材(CW)認証: これはFSC認証材と混ぜることによって、受け入れ不可能な材料を分離するためのもので、通常「FSCミックス製品(FSC mix products)」と表示される。この認証は、たとえ完全なFSC認証材でなくとも、使用される材料が持続可能な許容基準を満たしていることを保証する上で重要な役割を果たす。
マヤワナ・ペルサダ社の森林破壊
マヤワナ・ペルサダ社は西カリマンタン州のクタパン(Ketapang)県、北カヨン(North Kayong)県に位置する産業植林企業である。その事業権地内には絶滅の危機にあるオランウータンの生息地や重要な泥炭湿地が存在している。このいずれもがインドネシアの環境・林業省によって公式に記録されている。表2に見るように、事業権地全体の60%を超えるエリアでオランウータンの生息地が確認されている。したがって、このエリアは重要な高い保護価値を持っている。
アラス・クスマはマヤワナ・ペルサダ社の事業権地において最近の数年間でかなりの面積にわたって森林を皆伐している。表3は2016年から2023年までの森林破壊の規模を表している。2021年以降、破壊の規模が増していることがわかる。その相当部分がオランウータンの生息地と重複している。
1994年以来、インドネシア法務人権省の下で法人として登録されているにもかかわらず、マヤワナ・ペルサダ社は2019年に皆伐を開始した。当初、マヤワナ・ペルサダ社は国営林業公社インフタニIIIとアラス・クスマの合弁事業として機能していた。しかし、2006年以来、アラス・クスマによって完全に管理されている。
マヤワナ・ペルサダ社の森林破壊が注目されるようになったのにはいくつかの理由がある。2016年の時点で、事業権地の半分以上がまだ森林に覆われており、メンダワク(Mendawak)と呼ばれる大きなランドスケープ(図3)だけでなく、西カリマンタン全域に残る野生オランウータンの生息地の重要な一部となっていた。この事業権地自体の面積は、3,000頭近くのオランウータンが生息するグヌン・パルン国立公園よりも広い。事業権地が支配するメンダワクのランドスケープの中にあって、マヤワナ・ペルサダ社は最大の野生オランウータンの生息地を有し、下の図4に描かれているように、かなりの泥炭地もカバーしている。
2021年、オンラインニュースサイトのMongabay.comはアラス・クスマ社に対し、マヤワナ・ペルサダ社における森林破壊の疑いに関するコメントを求めた。メディアへの回答の中で、アラス・クスマの代表は、同社はオランウータンの分布分析と第三者によって実施された高保護価値(HCV)評価後の勧告に従っていると述べた。しかし、HCVリソース・ネットワークのデータベースにHCV文書がないため、一般の人々はこの文書にアクセスできず、これらの主張を確認することができないままである。
特筆すべきは、マヤワナ・ペルサダ社が行った森林破壊がFSCアソシエーションポリシーの違反と見なされることである。2022 年、マヤワナ・ペルサダ社は木材を、ハルジョン・ティンバー社、バシリ・インダストリアル社(PT Basirih Industrial)、ウィジャヤ・トリウタマ・プライウッド・インダストリ社(PT Wijaya Tri Utama Plywood Industry)、プトラ・カリマンタン・スクセス社(PT Putra Kalimantan Sukses)、インドネシア・ファイアーボード・インダストリ社(PT Indonesia Fibreboard Industry) を含むいくつかの企業に供給した。2021年にAidEnvironmentが貿易データをさらに分析した結果、これらの企業は様々な日本企業に木材を供給していることが明らかになった(表4参照)。
ハルジョン・ティンバー社が日本や米国などの国々に製品を国際的に輸出していることは注目に値する。日本の輸入業者の中では、住友林業が最も多く、2021年1月から9月の間に合計6,600トン(純重量)を輸入した。ハルジョン・ティンバー社の合板のもう一つの重要な輸入業者は伊藤忠建材で、同期間に1,400トンの合板を輸入した。伊藤忠商事は木材調達も対象とする厳しいNDPE方針を実施している。
アラス・クスマの農園事業
アラス・クスマはアブラヤシ農園企業2社を傘下におさめている。クスマ・アラム・サリ社とサウィット・ジャヤ・マクムール社は西カリマンタン州に拠点を置いている。これら農園企業はいずれもいかなるパーム油搾油工場ともつながっていない。このために、AidEnvironmentが農園2社とNDPE方針を実行している購入企業とを結ぶ直接的な需給関係を確立することを難しくさせている。にもかかわらず、農園から搬出される生果房は収穫後の鮮度を維持するために24時間以内に搾油されなければならないことから、農園から半径50キロ以内にある搾油工場が、アラス・クスマによるアブラヤシ果房の潜在的な購買者である可能性が高い。
表5はクスマ・アラム・サリ社とサウィット・ジャヤ・マクムール社に近接する搾油工場のリストである。各社のNDPE方針の有無も表しており、彼らの応答はアラス・クスマ農園事業との需給関係を示唆するものと考えられる。
*トゥナス・バル・ランプン社(Tunas Baru Lampung)はその持続可能性への取り組みで、自社の操業は「インドネシア持続可能なパーム油認証(ISPO)」の持続可能性原則に遵守していると述べている。
**HPIアグロ(HPI Agro)はウェブサイトでNDPE方針を公開していない。ただし、AidEnvironmentへのレターでは、同グループがNDPE方針に準じて操業していると述べている。
2021 年、インドネシアの NGO による調査で、プンディ・ラハン・カトゥリスティワ社(PT Pundi Lahan Khatulistiwa)はアラス・クスマのクスマ・アラム・サリ社から生果房(FFB)を購入していることがわかった。しかし、プンディ・ラハン・カトゥリスティワ社と現在、直接連絡取ることができず、クスマ・アラム・サリ社の果房が現在もプンディ・ラハン・カトゥリスティワ社に供給されているかどうかを確認することはできない。
さらに、AidEnvironment は、アラス・クスマ が KPN の グラハ・アグロ・ヌサンタラ社(PT Graha Agro Nusantara)と トゥナス・バル・ランプン社の ブミ・パーカサ・ゲミラン社(PT Bumi Perkasa Gemilang) に生果房 を供給しているという個人情報を入手した。両者に確認のため連絡を試みたが、本報告書執筆時点では回答は得られていない。
製油所を持たない農園のパーム油が、知らず知らずのうちにNDPEのサプライチェーンに入り込んでいることは珍しくない。2022年11月、パーム油企業のブミタマ(Bumitama)はNDPE方針へのコミットメントを明確にする声明を発表した。この声明は、ペルマタ・サウィット・マンディリ社(PT Permata Sawit Mandiri)というコンプライアンス違反のサプライヤーが ブミタマのサプライチェーンに入り込んでいたことが明らかになった後に出された。ペルマタ・サウィット・マンディリ社のアブラヤシ果房は西カリマンタンにあるブミタマ傘下のブキ・ベラバン・ジャヤ(Bukit Belaban Jaya)の工場に入った。インドネシアのパーム油精製業者グッドホープ(Goodhope)もペルマタ・サウィット・マンディリ社からの果房を購入していた。2022年1月にAidEnvironmentからペルマタ・サウィット・マンディリの森林破壊について警告を受けた後、直ちに購入を停止したと伝えた。
2023年9月現在、プンディ・ラハン・カトゥリスティワ社は、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer Daniels Midland: ADM)、ビー・エー・エス・エフ(BASF)、カーギル(Cargill)、グルプ・ビンボ(Grupo Bimbo)、イノスペック(Innospec)、花王(KAO)、ケロッグ(Kellogg’s)、ウィルマ―(Wilmar)など様々な企業を通じてNDPEのサプライチェーンに参入している。KPNも同様に、エイボン(Avon)、ビー・エー・エス・エフ、バンジ(Bunge)、コフコ(Cofco)、ダノン(Danone)、不二製油(Fuji Oil)、HSA/パシフィック・インターリンク(HSA/Pacific Inter-Link)、イノスペック、ケロッグ、モンデリーズ(Mondelez)、オーラム(Olam)、ペプシコ(Pepsico)、PZカッソンズ(PZ Cussons)、P&G、ユニリーバ(Unilever)、ヴァンデモルテール(Vandemoortele)とのつながりで、NDPEのサプライチェーンに参入している。以前はNDPE市場に供給していたトゥナス・バル・ランプン社は、泥炭地開発により監視の目にさらされ、NDPE規格にコミットしている多くの企業が同社からの購入を中止するに至った。現在、トゥナス・バル・ランプンは、エイボン、ダノン、不二製油、グルポ・ビンボ、イノスペック、ケロッグ、モンデリーズのサプライチェーンに含まれている。不二製油を除き、前述のバイヤーはいずれもトレーダーとして活動していない。
NDPE方針適用のサプライチェーンに混入する恐れのあるアラス・クスマ
傘下のマヤワナ・ペルサダ社で森林破壊を行なっている以上、アラス・クスマも森林破壊の誹りを免れない。しかし、アラス・クスマが管理する事業権地に由来するパーム油が、透明性を欠いたアブラヤシ果房の供給を通じて NDPE のサプライチェーンに流入するリスクはある。表 5 に含まれる工場に関連するパーム油バイヤーは、アラス・クスマからのパーム油が NDPE 対象サプライチェーンに混入しないよう、直ちにサプライヤーに働きかけるべきである。
パーム油バイヤーが産業植林事業権地で森林破壊を冒しているリスクのある企業に対して行動を起こした前例がある。2020年、マレーシアのユナイテッド・マラッカ(United Malacca)は、スラウェシ島中央部の森林密集地を伐採し、産業植林事業を造営する計画を立てた。木材を目的とした開発であったが、NDPE方針を持つパーム油バイヤーがユナイテッド・マラッカ社に申し入れし、この産業植林事業開発はNDPE方針のコミットメントに反すると警告した。パーム油バイヤーからの圧力が強まる中、ユナイテッド・マラッカはHCVアセスメントが実施されるまで、開発を一時保留することを決定した。2023年現在も事業停止命令は有効であり、産業植林は未だ開発されていない。アラス・クスマの森林破壊にさらされるバイヤーも、同様のレベルのNDPE方針へのコミットメントを示すべきである。
【以上】