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【日本製紙宛要望書】”わたしたちは ANWE からの天然林材原料調達の早急なる停止を要望いたします”

豪州ビクトリア州の天然林商業伐採が今年中に終結することが決まった。昨年、州有林を管理する州の林業セクター、VicForestsは、地元の環境NGOから起こされていた裁判で、絶滅危惧種動物の保護に失敗したとして州最高裁から施業差し止めの判決を受けていた。この事態を受けて、グラフィック用紙のメーカーである、現地子会社オパール(ペーパーオーストラリア)が木材チップの原料調達が不可能になったとして、親会社の日本製紙は豪州でのグラフィック用紙事業からの撤退を表明した。

日本製紙はNSW州のイーデン・木材チップ工場(ANWE)から依然として、NSW州有林の天然林木材による製紙原料を調達し続けている。JATANでは、今回の子会社による事業撤退の背景に天然林材木材をも許容する同社の調達実態があると考え、6月23日付で【要望書】「わたしたちは ANWE からの天然林材原料調達の早急なる停止を要望いたします」をSouth East Region Conservation Alliance (SERCA)との連名で日本製紙社長宛に送付した。

以下、要望書本文。

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2023 年 6 月 23日
日本製紙株式会社
代表取締役社長
野沢 徹様

South East Region Conservation Alliance (SERCA)
Harriett Swift
熱帯林行動ネットワーク (JATAN)
事務局長 原田 公

【要望書】わたしたちは ANWE からの天然林材原料調達の早急なる停止を要望いたします

拝啓

時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

はじめに、今年 2 月に Opal社のグラフィック用紙部門の撤退について御社がくだされた英断を歓迎いたします。

Opal 社に製紙原料を供給していたビクトリア州の天然林については、2019 年から 2020 年にかけて発生したオーストラリア史上最悪といわれる森林火災により同州の 200 を超える希少種・絶滅危惧種の動植物がその半分以上の生息地・生育地を失ったと報道されています。パルプ材生産のための天然林伐採によるインパクトはこうした窮状にある野生の動植物たちを絶滅の淵に追いやることになるでしょう。

Opal社のグラフィック用紙事業撤退の理由として、製紙原料の調達が不可能になったことを挙げておられます。環境保護団体が起こした訴訟で、ビクトリア州連邦裁判所は、州政府林業セクターの VicForests が、伐採地で 2 種のポッサム(Leadbeater’s Possum と Greater Glider)を保護しなかったと判決を下しました。裁判所は、こうした伐採がビクトリア州の森林管理を規定する伐採施業規範に違反しており、さらに 41 の伐採地での施業が遵守される見込みがないことから、オーストラリア連邦法『環境保護および生物多様性保全に関する法令 (Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999) 』が VicForests の操業に適用されると判断しました。これを受けて、ビクトリア州政府は、天然林伐採の停止を2024 年 1 月 1 日に前倒しすることを決定しました。

このことから、少なくてもオーストラリアの場合、天然林依存の原料調達は製紙企業にとってそのビジネス自体を大きく揺り動かすリスクになると考えられるのではないでしょうか。言うまでもありませんが、生息地が脅かされているポッサムやムササビは、いまだにイーデンのチップ工場に木材の提供をつづけている NSW 州の天然林にもいます。

NSW 州においても先の大規模森林火災は野生動物たちに計り知れないほど甚大な被害をもたらしました。8,000頭近くのコアラに深刻な影響を与えたといわれています。

イーデンに運ばれる木材が生産される州有林の 8 割が火災によって焼失しました。したがって、いまなおおこなわれている森林伐採はコアラやポッサムをはじめとする野生動物たちをまさに、絶滅の淵にまで追い込んでいるのです。州林業にとって製紙用木材チップは製材産業の副産物などではなく、2020 年で見るとまさに伐採木材の96 パーセントはイーデン・チップ工場に搬出されています。

イーデン・木材チップ工場の経営する Allied Natural Wood Enterprises(ANWE)は、NSW 州最大の天然林伐採企業のペンターク林業(Pentarch Forestry)と一体不可分の関係にあります。ペンターク林業は Due Diligence Systemというシステムを植林材に適用させ、FSC 認証を受けた木材チップを海外向けに販売していました。しかし現地の環境保護団体が指摘するように、チップ工場では天然林と植林材の分離が実際にできておらず天然林材チップが FSC 認証のラベル(GMP-CW-104288)のもとで販売されているのではないかと危惧されていたところです。結局、2022 年 9 月、ペンターク林業は FSC 認証を失いました。

こうしたことからも、VicForests や Forestry Corporation of NSW などがメンバー企業として名前を連ねているResponsible Wood(PEFC と相互承認)のみならず、FSC においてさえ、森林の持つ生物多様性を十全に保護することはできず、木材企業はより高い基準に立って原料の調達や管理を推進していく必要があると考えます。

御社は 2015 年の SEFE(East Fibre Exports Pty Ltd.)売却後、イーデンからの日本国内パルプ工場向けのチップ輸入量を確実に減らしてこられたと理解しています。しかし、現在の ANWE にとって御社はいぜん、重要な顧客であることは変わりありません。

天然林依存からの脱却はもはや時代の趨勢と言っても言い過ぎではありません。ANWEから購入をつづけられる限り、世界的にも重要な野生動物たちの最後の砦のひとつとなった NSW 州の天然林から出る木材を御社の原料調達網から排除することはできません。ANWE との購入契約を速やかに破棄することが、御社の製紙ビジネスをより持続可能なものとしてつづけるうえで緊要であることは間違いありません。御社にはさらに重要な英断をくだされることを期待いたします。

なお、上述のことに関して御社の見解等をいただければ幸いです。下記窓口までお寄せください。

敬具

お問合せ先:
原田 (JATAN)
Email: harada[@]jatan.org
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷 1 丁目 13-11 4F

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