破壊が続くパプアニューギニアの森林

フォトジャーナリスト 内田道雄

日本から南方5,000キロの彼方に、世界で2番目に大きいニューギニア島がある。日本の約2倍の面積があり、西側はインドネシア領。東側はパプアニューギニア国となっている。
パプアニューギニアの国土面積は4,631万ha。(日本の約1.2倍)ニューギニア島の東側と周辺の島々からなる。気候は全体に熱帯雨林気候だが、内陸は高山気候である。人口は約861万人。(2018年、世界銀行調べによる)

🔲森林消失

昔はこの地域全域が、森林地帯であったと考えられる。戦後商業伐採により森林消失が始まった。製紙用に原生林を伐採したこともあった。
森林林業統計要覧によると、2015年の森林率は72.5%。2010年から‘15年の変化は-2.8%。
1990年代の丸太輸出は約200万㎥でそのうち7割近くが日本向けだった。丸太の生産量は、2008年に857万㎥で‘10年に1,000万㎥となった。その後’15年まで毎年900万㎥以上を生産している。
2018年のパプアニューギニアからの丸太輸入は7万6394立法メートルで前年より64.5パーセント増えた。これはマレーシアが丸太の輸出を禁止したためだという。
パプアニューギニアの森林消失の原因は商業伐採やプランテーション開発が48.2%。焼き畑耕作で45.2%。人口増加により焼き畑も持続可能にできない、という研究もある。
アジア太平洋地域において、広大な熱帯雨林が広がるのはもはやニューギニア島くらいしかない。最後の熱帯雨林がどうなっているかを見るため現地を訪れた。

🔲森林伐採の脅威にさらされる村

ニューギニア島北海岸にあり、インドネシア国境に近いバニモは、森林伐採の一大拠点となっている。伐採の状況を見るために昨年の7月に訪れた。ここは特に大きな建物もない田舎町だ。町の中心部に近い所に貯木場がある。近くの丘から見渡してみると、夥しい数の丸太が積み上げられている。その伐採量の多さが窺われる。ここは小さな半島が海に突き出している付け根にあたる。その半島によってできた湾の中に木材運搬船が停泊していた。


バニモの貯木場 ©内田道雄

伐採の様子を見るために車で森に向かった。町を出て山道に入るとすぐに伐採現場があった。貯木場からほんの数十分で伐採現場があるとはこの地域の伐採の激しさに驚いた。伐採道路では巨大な丸太を積んだトレーラーと頻繁にすれ違う。
町から車で1時間ほど走った貯木場では、直径1メートル以上の丸太がたくさん積み上げられていた。丸太には様々なアルファベットが書かれている。樹種や産地を書いたプレートも張ってあった。ガイドをしてくれたNGOのスタッフによれば、これはクイラという鉄木系の木材だ。とても丈夫で耐久性の必要なところで使われる。しかし成長は遅いので過剰な伐採をすると資源の枯渇が心配になるという。


バニモ近郊の伐採現場 ©内田道雄

🔲奥地の伐採計画

私は今年の1月にもこの地を訪れた。それはこの西セピック州の奥地での大規模な伐採計画を、現地のNGOから聞いたからだ。パプアニューギニアでも有数の大河であるセピック川の上流で伐採はおこなわれるという。地元の人々はどう思っているのかを知りたいと思い、地元で活動する環境NGOのスタッフと共に現地へ向かった。


巨大な丸太を運ぶトラック ©内田道雄

伐採計画地はバニモの町から150キロメートルも内陸に入った地域だ。そこまで続く道路は無いので、車で伐採道路を走り、途中からはボートで川を進むという。バニモの南には山岳地帯が広がっている。その地域の伐採道路では、巨大な丸太を積んだトレーラーがひっきりなしに走っている。山道では大きな車はゆっくりとしか進めない。そのため沢山のトレーラーと頻繁にすれ違う。この地域では大規模な伐採がおこなわれているのがわかる。


伐採された丸太。巨木が伐採されている ©内田道雄

山岳地帯を過ぎるとトレーラーはあまり見られなくなった。こんな奥地でも道路の整備は良い。車は快調に走った。
車はセピック川の支流についた。ここからはボートに乗り換える。
このあたりは川の上流域で水深はかなり浅い。川には流木が重なりあって行く手をさえぎっている。大量の流木があるのは伐採の影響もあるのかもしれない。川を下っているのにボートはゆっくりとしか進めなかった。
セピック川の本流に出た時はもう日は完全に暮れていた。暗闇の川をボートで進むのは不安だが、現地の人は慣れているのだろう、特にライトも使わずに進んでいった。
夜半に村に着きそこに泊まった。ここはNGOスタッフの親族が暮らす村だという。
この地域の住居はかなり大きい。床の高さは2メートル以上にもなる。屋根の高さまでは10メートル以上になるだろう。4~5メートル四方の部屋がいくつもあり一棟に大人数が暮らしている。大広間の隅に囲炉裏が据えられ台所になっている。私たちは食料を持ってきていたが、現地の食材もごちそうになった。調理用バナナ、イモ類、サゴヤシ澱粉。魚や山菜はどれもおいしいものだ。
翌日、伐採の様子を見るためボートで出かけた。
セピック川沿いに更地になっている場所があった。いくつかの建物や燃料タンク、少量だが丸太が積み上げられている。ダンプカーが砂利を運んで重機が土地を整地しているので、ここは木材を川で輸送するための基地になるようだ。
そこから上陸してしばらく伐採道路を歩いた。道路はかなり奥地まで伸びている。まだ伐採は始まってはいないようで、走っている車は無かった。1時間ほど歩いてまた伐採キャンプについた。ここも重機が動き回り建設中だ。その近くのマミ村という55軒ほどの小さな村で、氏族のリーダーであるロンガーさん(28才)に話を聞いた。


奥地に新たに作られた伐採道路 ©内田道雄

パプアニューギニアでは氏族ごとに慣習地を持っている。その場所で伐採などを行う場合は氏族の許可が必要だ。彼は木材の伐採には反対だという。森林からはサゴヤシなどの食料や家やカヌーを作るための建材。香木など現金収入を得られるものがある。そのため森は非常に重要だと考えている。だが村人のなかには伐採に賛成している人もいる。それは伐採による保証金目当てだという。だが現時点でいくら保証金が得られるのかも分かっていない。
彼は伐採反対運動をしているため、嫌がらせを受けているという。何者かに家を壊されたり、畑を荒らされている。これは伐採賛成派の人によるものだと考えられる。彼は身の危険を感じることもあるが、なんとか伐採を止めたいと考えているという。同行したNGOのスタッフと協力して伐採阻止のための方法を考えている。

翌日また別の村を訪ねた。ワハハイという村に着き、村の広場に向かうと、たき火のように煙が立ち上っている。そこには木の葉が集められていた。これはパプアニューギニアの伝統料理であるムームーだ。火で焼いた石の熱を使い、肉や野菜を木の葉で覆い蒸し焼きにする。私も話には聞いていたが実物を見るのは初めてだった。どうやらもう蒸しあがっているようだ。木の葉を取り除くと人の頭ほどの石が敷き詰められている。その下に一頭分のブタの肉があった。どうやら今日は何か特別なことがあるようだ。私も少しご馳走になった。分厚い肉も火が良く通っていて柔らかい。芋や野菜もほくほくで大変おいしいものだ。これは特別の日にしか食べられないだろう。


ムームーという伝統料理。加熱した石で蒸し焼きにする ©内田道雄

ここでイワンさん(52才)に話を聞いた。ここは300人くらいの村だという。人々は農業を中心とした持久自足的な生活をしている。彼も伐採には反対だという。森は狩りや漁労をする重要な場所だという。また薬も得られる。それだけではなく森は精霊が宿る神聖な場所でもある。地元の人にとって森林は単に木材の供給源ではない。生活のすべての源なのだ。
彼は伐採を止めるために氏族のリーダーたちと話し合いをしている。だがまだはっきりとどうすればいいかは分からないという。私は今まで様々な場所で、森林が無くなったことにより生活が困窮する様子をみてきた。熱帯地域で森林資源に依存している人たちが、森を失えば生活は成り立たない。一時の保証金のために伐採に賛成するのは愚かなことだ。なんとか伐採を阻止できることを願いたい。

(了)

※この記事はJATAN News No.114からの転載です。

【参考】内田道雄「パプアニューギニアのアブラヤシ農園を訪ねる」(JATAN News No.115)