AP通信社によるスキャンダル記事ーいまなお続くシナール・マス・グループ(APP)による森林破壊ー

AP通信社は2017年12月、世界屈指の紙パルプ製造企業であるアジア・パルプ・アンド・ペーパー(Asia Pulp and Paper、以下APP)社が、森林破壊や火災に加担しているサプライヤーと裏で密接な関係を持っており、これらの企業に対して重大な影響力を持っているとしたスキャンダル記事1を発表した。APP社は2013年2月、森林保護方針を発表して持続可能な森林経営に向けて大きく舵を切ったが、もしこのスキャンダルが事実であれば、APP社によるこれまでの取り組みは消費者を欺くための「グリーンウォッシュ」であることを意味する。AP通信社によるこの度のスキャンダル記事の詳細とAPP社による反応について以下にまとめた。

AP通信社によるスキャンダル記事の概要

APP社のサプライヤーには「所有(Owned)」「独立(Independent)」など複数の関係性があるが、独立系のサプライヤーについては、所有またはいかなる形において関係を持っていないことをこれまで主張してきた。しかし、独立系であるとされてきた27社のうち、ほとんどすべての企業がAPP社との関係を持っていることをAP通信社の記事が明らかにした。APP社がこれらの独立系のサプライヤーの所有を通じて、間接的に森林破壊に加担していることを指摘している。

AP通信社の記事は、これまで独立系であるとされてきた企業に関連する1100ページにわたる商業登記簿をレビューすることで、これらの企業が10人の個人により所有されていることを突き止めた。このうち6人はAPP社の親会社であるシナール・マス・グループ(Sinar Mas Group、以下SMG)の従業員、2人は元従業員、1人はSMGを所有するウィジャヤ一家の関係者であった。このうちの数人は、シナール・マス・フォレストリー(Sinarmas Forestry)社の財務部に従事していた。さらに、SNS上のプロフィール、ニュース記事、業界紙やその他の情報とこれらの文書にある誕生日などの略歴を照合することで8人の身元を特定した。27社のサプライヤーのうち25社については株式の保有を通じて所有されているが、これらの企業はSMGのオフィスに拠点を置いており、さらに所有者の多くはSMGの従業員であった。また、AP通信社が確認したAPP社の内部資料によれば、不特定多数のサプライヤーにローンやその他サービスの提供、長期的な木材原料供給の合意、そして「例外的な取引関係」などを通じて重大な影響力を持っているという。

AP通信社は、「サプライヤー企業との関係性を覆い隠すことでどのような利益をAPP社およびSMGが享受しているのか、その全貌については不明である。しかし、これらのサプライヤーが独立系であるという認識は、何らかの問題が生じた場合にその責任を最小化することができるという意味で広報活動における重要な強みとなったはずである2」と考察する。

これに対してAPP社は、2017年12月22日に発表した声明3の中で「現在、または将来的に見込みのあるすべてのサプライヤーは、その所有形態にかかわらずAPP社の持続可能な原料調達と生産に関する方針(RFPPP)や地域住民に対する自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)の方針に従うことが要求されている。そのため、所有形態の違い自体が森林保護方針を弱めることはない。」と反論する。これはAPP社の関連企業が問題を引き起こしていることに対する反論ではなく、複雑な所有形態を通じてAPP社が森林保護方針の責任から逃れているというAP通信社のロジックに対する反論であり、このスキャンダル記事を「悪意のある虚偽報道」であると切り捨てている。

東カリマンタン州、ムアラ・スンガイ・ランダック社による森林破壊の事例

また、記事の中ではAPP社およびSMGが関係を持っているとされる企業のうち、問題を引き起こしている企業について二つの具体事例が挙げられている。

一つ目の事例は、シナール・マス・フォレストリー社の従業員2人によって所有されているムアラ・スンガイ・ランダック(Muara Sungai Landak、以下MSL)社である。ドローンを使って撮影した写真により、西カリマンタン州に広がる8,000ヘクタールの森林がMSL社により破壊されたことが確認されている。政府が発行したレポートによれば、木材原料は国内市場に売られ、いくらかはペレットとなり「持続可能なエネルギー資源」として販売されていたという。

(左図)201577日の写真に見られる水路は、さらなる森林破壊が起きる可能性があることを示している
(右図)同じ地域にて2017313日に撮影されたものを見比べると、一帯が開発されていることがわかる

これに対してAPP社は、「MSL社はAPP社のサプライヤーではなく、一切の取引関係を持っていない」と断言する。しかし、MSL社が西カリマンタン州での森林破壊を引き起こしているという事実については言及していない。

バンカ・ブリトゥン州、バングン・リンバ・スジャテラ社と地域住民との紛争事例

二つ目は、バンカ・ブリトゥン州で2013年に開発事業権を取得したバングン・リンバ・スジャテラ(Bangun Rimba Sejahtera、以下BRS)社の事例である。APP社は、2016年末に南スマトラ州で操業を開始した、世界最大級の生産キャパシティを誇るOKI紙パルプ工場の木材供給を賄うためにBRS社からの原料供給を検討している。しかし、このBRS社は地域住民からの大規模な反対があるにもかかわらず、6万6,000ヘクタールの地域を産業植林地に転換する計画を推し進めている。NGOの報告4によれば、産業植林事業が計画されている地域では、少なくとも40の村、10万人を超える地域住民がBRS社の開発による影響を受ける可能性があるという。計画に関する十分な協議が行われていないことや、地域住民が権利を主張する土地での開発について承認を得ていないことが反対の理由として挙げられている。多くの住民は、BRS社が開発事業権を取得してから二年後となる2015年、コンサルタント(Ekologika)により社会調査と高保護価値(HCV)地域に関する調査が実施された際にBRS社の開発について初めて知ったという。2018年1月22日には、39の村から1万人を超える住民が州知事の庁舎前に集まりデモを開催した5


BRS社の産業植林事業への反対を示すバナー   


NO HTI PT.BRS(BRS社の産業植林を拒否する)

APP社はこれに対して、「BRS社はまだ土地の開発や植林を開始しておらず、地域住民に対して自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)を得るプロセスの最中である。」として事実を否定しており、また「APP社としては、これらのプロセスが完了しない限りサプライヤーとして承認しない。」ことを強調している。

火災・煙霧に対するAPP社の責任

他にも、AP通信社はAPP社の森林火災への関与はこれまで考えられていたよりも大きいことを指摘している。インドネシア政府は、2015年の火災を引き起こした疑いでSMG傘下にあるサプライヤー5社に対して罰則を与えた。さらに、煙霧の影響を受けたシンガポールでも国家環境庁(National Environment Agency)がSMG傘下にあるサプライヤー4社に対する調査を実施している。シンガポールの小売業者の間では煙霧の被害を受けている間、APP社の紙製品をボイコットする運動が起きた。

APP社は火災に関与したとされるサプライヤーのうち2社との取引を一時的に停止することを発表しており、これらの企業はシンガポールのメディアでは独立系とされていたが、AP通信社によればこれらすべてのサプライヤーはSMGの従業員により所有されていることが判明した。このうち、ブミ・ムカール・ヒジャウ(Bumi Mekar Hijau、以下BMH)社については、2014年に火災を引き起こしたとして環境林業省から民事訴訟を受け、生態系回復にかかる費用7.9兆インドネシアルピアの罰金の支払いを命じられた6。しかし、最高裁に上告することを理由にまだ罰金は支払われていない。この裁判における2人の被告としてBMH社の役人の名前が挙げられていたが、APP社に2008年から勤務している37歳のオーナーはこれに含まれていなかった。被告のうち1人は、2017年頭にフェイスブックに掲載されたシナール・マス・フォレストリー社の財務部の集合写真に写っていた。また、この写真の中にはAP通信社が特定したその他の農園企業のオーナーも含まれていたという。

グリーンピースによる関係断絶

この記事を受けて2018年5月、国際環境NGOグリーンピースは、APP社がいまだに森林破壊に加担していることから協定(エンゲージメント)を破棄することを発表7した。

グリーンピースの分析によれば、APP社が森林保護方針を発表した2013年以降、およそ8,000ヘクタールの森林や泥炭地をAPP社とSMGが所有を通じて関係を持つ2社が引き起こしていたという。これらの情報をAPP社およびSMGに提供したところ、信頼できる回答を得ることができず、また適切な措置が取られなかったため、APP社との今後一切の協定(エンゲージメント)を破棄する決定を下した。グリーンピースは、APP社が2013年に森林保護方針を発表した後に、同社に対するキャンペーンを中止し、APP社による誓約が適切に実施されているかモニタリングするための協定を結んでいる。

ここで指摘されている2社のうち1社は、AP通信社のスキャンダル記事にも事例として取り上げられたMSL社であるが、2013年以降、3,000ヘクタールあまりの森林と泥炭地が同社によって破壊されたことが、グリーンピースによる衛星写真を使った分析により判明した8。MSL社はSMG傘下にあるシナール・マス・フォレストリー社の従業員2人(Justinus Indrayanto氏とHendy Lie氏)によって所有されていることが公開文書から判明しているが、APP社は反論を拒否している。もう1社は、SMGの傘下にある鉱山会社であるゴールデン・エナジー・アンド・リソース(Golden Energy and Resource、以下GEAR)社である。GEAR社は、南カリマンタン州に26万5,095ヘクタールの産業植林事業を行うフータン・リンダン・バヌア(Hutan Rindang Banua)社を所有していることを公にしているが、同様に2013年以降、5,000ヘクタール近くの森林を破壊したとされる9

「これらの事実は、APP社およびSMGがインドネシアにおける森林破壊の停止に深刻に取り組んでいないことを意味している。」とグリーンピースは結論付けた。また、APP社に対して関連するすべての企業の所有について公表し、これらの企業によって引き起こされている森林破壊を停止するよう求めている。APP社と取引関係を持つ企業に対しても、APP社が今回の件について対処しない場合、取引を停止するよう警鐘を鳴らしている。

グリーンピースが声明を発表した日に、APP社も声明に対する回答10を発表している。この中でAPP社は、グリーンピースにより指摘されている事例はいずれも「APPの直接の管理下にない企業の行動に焦点を当てており、これはFCPの誓約の範囲外のもの11」であることを強調している。事例として挙げられているGEAR社についても、「当社とは無関係に事業を営んでおり、また当社に木材を供給しているわけでもない12」としている。

参考資料
1 https://www.apnews.com/fd4280b11595441f81515daef0a951c3
2 同上
3 https://www.asiapulppaper.com/news-media/press-releases/asia-pulp-paper-apps-response-associated-press-ap-articles
4 http://hutaninstitute.or.id/local-communities-reject-pt-bangun-rimba-sejahtera-potential-supplier-apps-oki-mill/
5 https://walhi.or.id/10-000-petani-bangka-barat-demo-gubernur-tolak-hti/
6 BMH社の裁判に関する詳細についてはJATAN NEWS No.104、106を参照
7 https://www.greenpeace.org/international/press-release/16535/greenpeace-slams-app-sinar-mas-over-links-to-deforestation-ends-all-engagement-with-company/
8 https://storage.googleapis.com/p4-production-content/international/wp-content/uploads/2018/05/9d66abf2-pt-muara-sungai-landak_gp_09052018-1.pdf
9 https://storage.googleapis.com/p4-production-content/international/wp-content/uploads/2018/05/1caaeedd-hutan-rindang-benua_gp_08052018.pdf
10 https://asiapulppaper.com/news-media/press-releases/app-response-greenpeace-statement
11 http://www.app-j.com/topics/1085.html
12 同上