東京オリンピックで熱帯林の破壊が?

マーケット・フォー・チェンジ (Markets for Change: MFC) CEO ペグ・パット
熱帯林行動ネットワーク (JATAN) 事務局長 原田 公

2020オリンピック・パラリンピック競技大会((以下、オリパラ)が東京で開催されれば、世界中の目が注がれることでしょう。主催国日本は環境重視の「グリーン・オリンピック」に向けた多大な努力が期待されています。

しかしその一方で、オリパラ競技施設で使われる木材製品について深刻な懸念が高まっているのです。現在物凄い勢いで進められている熱帯林の伐採は、森林を破壊するばかりか、オランウータンをはじめとする希少な動物たちの生息地を奪い、森に生活を依存している先住民に大きな脅威を与えています。

もっとも大きな疑惑の渦中にあるのが新国立競技場です。JATANやマーケット・フォー・チェンジをふくむ日本や国際的なNGOはいま、日本を世界の恥さらしにしかねない使用木材の調達基準について警告を鳴らしているところです。

建物の基礎工事に使われるコンクリート型枠などにはよくマレーシア・サラワク州産の木材が使われていますが、新国立競技場にも使われる公算が大木のです。サラワクに由来する木材には多くの問題があります。生産に伴う違法性、森林破壊、先住民が使ってきた土地の収奪、汚職などです。

新国立競技場の調達基準にはグリーン購入法が適用されることになっていますが、違法伐採対策としては脆弱であるという批判はかねてから国際社会からも浴びせられてきました。こうした事情もあって、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(クリーンウッド法)がこの5月に成立しました。ただ、この新法はまだ施行されていませんが、すでに欧米や豪州で取られている違法伐採対策法と比べ基準の低さがすでに批判されています。

建築家・隈研吾氏の設計によるユニークな新国立は木材を多用したデザインが特徴とされています。しかし事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が大会組織委員会の調達基準を適用しないと決めたことから、違法な木材が混入する恐れが高まっています。

MFCは2012年のロンドンオリパラで、期間中トレーニング用に使われるバスケットボールコート建設の際に、保護価値の高い森林から伐採されたフローリング基材が使用される問題を告発しました。問題の合板は結局、使われずに済みました。今回私たちは、東京オリパラの施設でサラワク材が使用されないよう注視しています。

新国立の施工を担当する大成建設がサラワクを出所とする合板、その他木材製品を使用することを恐れています。というのも、木材の生産に伴って深刻な環境破壊と重大な人権侵害が起こり続けているにもかかわらず、日本の多くの商社は取引を止めようとはしていないからです。たとえば、現地の主要な伐採企業のシンヤン社は多くの商社に木材を供給しています。世界的にも希少な生物多様性のホットスポットのひとつである、「ハート・オブ・ボルネオ」内で提唱されている国立公園までもシンヤンの手によって伐採されています。

オリパラでどういう木材が使われているかを見れば、日本と熱帯林破壊との関わりがわかります。実際に、サラワクでどんな問題が起きているかを知りたい方は両団体によるレポート、『フローリングへと変貌する熱帯林―日本の住宅産業が引き起こすサラワクの森林破壊と先住民からの土地収奪の実態』をご覧ください。

レポート「フローリングへと変貌する熱帯林」(PDF)