野生ウォンバットの森からやってくる日本の紙原料 Wombats Buried Alive in Logging for Woodchips

森林伐採の施業中に巣穴が塞がれて、多くの野生ウォンバットが生き埋めの犠牲となりました。オーストラリアNSW州の州有林から伐採される木材のおよそ9割もが、同じ州内の日本製紙直営のチップ工場に運ばれています。日本製紙は原材料の調達に関わる方針の中で野生動物の保護や生物多様性に対する配慮を掲げていますが、実際には、本来保護されるべき天然林ユーカリの森が皆伐され、それに伴って希少なコアラをはじめ、多くの野生動物たちが犠牲になっているのです。

WPSで保護されているウォンバットの子供たち

WPSで保護されているウォンバットの子供たち

湿地状のグレンボッグの森には150ものウォンバットの巣穴が確認されている

湿地状のグレンボッグの森には150ものウォンバットの巣穴が確認されている


グレンボッグ州有林は、SEFEのあるイーデンからクルマで北西に約2時間

今回、発覚したグレンボッグ州有林(Glenbog State Forest)の事例は明らかに動物虐待にあたるケースです。地元メディアのみならず海外の報道機関も問題を取り上げています。JATANは昨年9月に現地の活動家たちと視察してきました。グレンボッグ州有林の近くでウォンバットの保護活動をしているNPO、ウォンバット保護協会(Wombat Protection Society: WPS)のワイナン夫妻(the Wynans)が問題の詳細について語ってくれました。

2014年6月、グレンボッグ州有林の伐採が始まりました。1万1,000ヘクタールの州有林はNSW州の南東部に位置しています。公有の天然林伐採施業にあたっては州の環境保護庁(Environment Protection Authority : EPA)が監督業務を負っています。施業を計画・実施するのは州の林業公社、NSW州フォーレストリ・コーポレーション(Forestry Corporation of New South Wales: FCNSW)です。マリー・ワイナンさんとレイモンド・ワイナンさん夫妻はこの州有林に隣接する敷地を所有し、野生動物保全トラストの一部として保護しています。夫妻はボランティアで州有林内の動植物の施業から受ける影響を監視しています。グレンボッグにはコアラ、カモノハシ、スウィフト・パロットなど危惧種をはじめ多くの希少動物の棲み家を提供していますが、なんといってもウォンバット(Bare-Nosed Wombat)の一大生息地として知られている森です。7月にワイナン夫妻はウォンバットの巣穴が破壊されていることに気づきました。じっさいに病気で衰弱したウォンバットの個体も目撃します。夫妻は州有林内の150を超える巣穴の位置を認識させるために、GPSによる立地データを蛍光ペンで記した標識を設置しました。さらに、EPAに窮状を報告し伐採業者には直接、回避措置の交渉をするとともに中に閉じ込められたウォンバットを救出しようと巣穴を掘り返すこともしました。

巣穴を塞ぐ瓦礫を撤去するレイモンド・ワイナンさん

巣穴を塞ぐ瓦礫を撤去するレイモンド・ワイナンさん

ワイナン夫妻は8月に現場で州有林を管轄する林業公社のFCNSWと会います。公社側の第一声-「ウォンバットが絶滅危惧種でないことを認識していますか?」-に夫妻は唖然とします。伐採業者による意図的な不作為は冷酷な動物虐待といえるものです。「ウォンバットの家族が地中の巣穴の中で苦しみもがきながら少しずつ窒息死するさまを想像してください。伐採業者の手によって巣穴が墓場に変えられてしまうのです。残酷で悲惨な行為です」と夫妻は訴えます。EPAには「動物虐待防止法 (Prevention of Cruelty to Animals Act (NSW) 1979)」のもとで調査するように要請します。EPAは現地を複数回視察しました。ワイナン夫妻たちや保護を訴える関係者から聞き取りもします。また、FCNSWに対して巣穴に配慮する対策も指示します。しかし、結局はこうした要求も聞き入れられませんでした。FCNSWはEPAの役人たちが帰任してしまうと、GPSによる位置情報を記した標識や蛍光マーキングを撤去して再び、巣穴の存在を無視した施業をつづけたといいます。施業で発生する瓦礫によって閉じ込められたウォンバットは自力で取り除いて脱出することができません。静かなる死を地中で待つばかりです。ただしEPAの最終報告では「ウォンバットの巣穴はおおむね保護されており、施業禁止区域では伐採はされていない」と結論付けられています。

生息地の破壊が問題とされているウォンバットはオーストラリア本土のクイーンズランド州以南、タスマニア島まで広い生息域を持つヒメウォンバット(コモンウォンバットVombatus ursinus)という種類です。たしかに、「環境保護および生物多様性保全法(EPBC Act 1999)」といった連邦政府の野生動物保護法のもとでは保護対象となっていません。連邦政府が絶滅危惧種と定めているコアラの生息地でさえ、地域森林協定(RFA)による適用除外措置のために保護されていないのが現状です。とはいえ、木材チップ生産ゆえのウォンバットの生き埋めは致し方ないと考える人はおそらくいないでしょう。

実際に伐採を行う会社の採用に当たってはは、SEFEが主体的な関与しています。SEFEは木材の提供を受けるだけの立場にとどまりません。そもそも「木材採取計画」じたい、SEFEの承認がなければ実施されません。よって、NSW州有林での天然林施業についてはSEFEは木材原料調達の管理者としての責任のみならず、伐採じたいにも責任を負っているのです。


対岸からとらえたSEFEの全景(撮影:釜谷優太)[/caption]


SEFEに搬入されるオールドグロス(撮影:釜谷優太)[/caption]

ここから伐出された木材は、同じNSW州の東海岸にあるイーデン(Eden)という町のチップ工場に運ばれます。その工場はサウス・イースト・ファイバー・エクスポーツ(South East Fibre Exports Pty Ltd : SEFE)で、現在は日本製紙と伊藤忠商事の共同出資会社(およそ6割と4割)ですが、前身は大昭和ハリスという日豪企業の合弁事業体でした。2001年に日本製紙が買収し2001年に、持株会社日本ユニパックホールディングの下で日本製紙と大昭和製紙との経営統合が実施され、2003年にはサウス・イースト・ファイバー・エクスポーツ(SEFE)と名称を変え、今日に至るまで主に日本製紙の国内パルプ工場に木材チップを輸出し続けています。

チップの年間輸出量は多い年には100万トンを超える時期もあったが、量は年を追って減少し、2014年では63.5万トン(JATAN推定)まで」落ち込んでいます。なお、現地カウンターパートの情報によればその半分は台湾の日本製紙関連会社に運ばれ、板紙の原料になっているとのことです。

日本の製紙原料でいまだにこうした本来保護されなければ森に由来する木材チップが使われ続けていることは、日本の消費者としてたいへん嘆かわしいと思います。一日も早くSEFEの閉鎖を要望していきたいと考えています。


施業で塞がれた巣穴。ワイナンさんは辛い皮肉を込めてR.I.P.(Rest in Peace)と記した[/caption]

瓦礫にまみれて息を絶えたウォンバット(グレンボッグにて)

瓦礫にまみれて息を絶えたウォンバット(グレンボッグにて)


Wombats buried alive in logging for woodchips in NSW, Australia
(昨年9月にJATANが現地視察した際に撮影された動画 Source: Bronte Somerset)

ウォンバット保護対策の強化を訴える、オーストラリア第一次産業大臣宛て陳情にご協力ください。陳情はコチラ↓から。
Make sure the Glenbog wombats did not die in vain; make it illegal to harm wildlife in logging operations

以上