サラワクの巨大木材企業に豪政府が6.8億円の“贈り物”    ― タ・アン・タスマニアが州内に合板工場の建設を計画 ―

7月25日、タスマニア北部のロンセストンを訪問した豪連邦政府のラッド首相は、タスマニア森林協定の支援措置の一環から1億豪州ドルを財政出動すると表明した。州の伐採セクターの縮小に伴う林産業界の構造再編、失業率が最も高い州の経済立て直しなどがその理由だが、マレーシア・サラワクの巨大財閥企業タ・アン・ホールディングスが約9割を所有するタ・アン・タスマニア(TAT)の「延命策」になぜ、巨額の公金融資をしなければならないのか、NGOのみならず経済アナリストなどからも懸念の声があがっている。緑の党党首のクリスティン・ミルンは「激戦の末にたどりついた諸々の合意を置き去りにして、伐採企業を蘇生させ、(前首相の)ギラード議員の約束が存在しなかったかのように取りつくろうとしているのでは?」とラッド首相を批判している。

1億豪州ドルのうち750万ドル(約6.8億円)を手中にするTATはこれにより、スミストンの単板加工工場を1,500万ドル規模の合板工場へと再生させ、これまでのタスマニア(単板加工)→サラワク州シブ(合板加工)というサプライチェーンの省力化を実現しようとしている。2014年下半期までにタ・アン全体の13%にあたる年間24,000m3の合板生産規模が州内にできあがると予想されている。一部メディアの報道によれば合板の市場先は豪州国内が想定されている。これまで最終合板製品のほとんどは日本の建材市場に向かっていたが、天然ユーカリ材合板の市場版図は今後、大きく様変わりするのだろうか?タ・アン・ホールディングスの2012年報告書によれば、タスマニアでの単板生産量は前年より33%落ち込んだ。また、日本の業界紙も、TATの一画を占める三井住商建材がユーカリ合板の輸入量を半減させたなどと報じている(7月11日付「木材新聞」)。

TATへの連邦政府の破格の厚遇振りはじつはこれにとどまらない。TATとタスマニア林業公社の間では2028年までに年間265,000m3の単板用原料の供給契約が交わされていた。しかし4月に成立した森林協定により契約の履行が不可能になる。供給量が108,000m3減るのに伴い州内二つの単板工場は生産量を落とさざるを得ない。今後5年間で見込まれる計540,000m3の損失に対して、連邦政府は2,860万ドル(約26億円)の賠償を支払うと先月、言明したばかりだった。

タスマニア森林協定を取り巻く状況は早くも本来の《保護》にではなく、巨額が飛び交う補助金の分捕り合戦に移りつつある。タス州緑の党は当初、原生自然協会(TWS)などの環境保護3団体と林業・労働界による森林協定案に反対していた。それがいつの間にか支持に転じ、州議会での審議では1党員の造反を出したにもかかわらず、その可決に手を貸したのだった。緑の党はギディングス労働党政権の一画を担っており2大臣を内閣に配している。ヒューオン渓谷環境センター(HVEC)と”Still Wild Still Threatened(SWST)”は森林協定に最後まで反対し、現在も保護が確約されているはずの森林の伐採に実力阻止の抵抗をつづけている。しかし両団体に対してキャンペーン中止を求める、同じタスマニアの緑の党や原生自然協会など《主流派》からのプレシャーは最近、激しさを増している。

7月12日に行われたオーストラリア学生環境ネットワーク、HVEC、SWSTによるスミストン工場でのプロテスト TWSは「不必要な」アクションと断じた

※JATAN NEWS 95号からの転載です。ただし、一部、改変しました。