APP社は2013年2月に、「今後一切天然林を伐採しない」という新たな森林保護方針を発表した。これは、同社が2012年9月に打ち立てた「2020年サステナビリティロードマップ」(2020年までに完全に持続可能な経営を目指す方針)に向けた行動の一環である。この度の方針は、APP社だけではなく同社が取引を行うすべての関連企業に適用されるものとした。また、国際環境NGOグリーンピース(Green Peace)もAPP社に対するキャンペーンを一時停止することを公表している。
この方針が発表されてわずか一ヶ月後、西カリマンタン州で活動するNGOの連合体であるカリマンタン・フォレスト・モニタリング・ボランティア(RPHK)が、APP社に原料を供給するアジア・タニ・プルサダ(ATP)社とダヤ・タニ・カルバル(DTK)社の二社が方針が発表された後にも関わらず天然林を伐採していると苦情を提出した。これに対し、APP社と森林保護方針に対する監視を行う熱帯林トラスト(TFT)が現地調査を行い、その結果APP社の原料供給会社による伐採ではなく、隣接するアブラヤシ農園企業グルバン・ブヌア・ラヤ(GBR)社によるものであり、コンセッションが重複していたために間違えられただけであると結論付けた。
さらに4月、リアウ州で活動するNGOの連合体であるアイズ・オン・ザ・フォレスト(EoF)は、APP社の原料供給会社の一つであるリアウ・インド・アグロパルマ社(PT. Riau Indo Agropalma)がリアウ州のケルムータン地域で天然林を伐採していることを突き止めた。この地域は、4メートル以上の泥炭地が広がっている地域でもあるため、自らの発表した森林保護方針だけでなく3メートル以上の泥炭地は保護されなければならないというインドネシアの法律(2008年政府規制第26号)にも違反していることになる。
2013年4月8日にアイズ・オン・ザ・フォレストのメンバーによって撮影された動画。少なくとも7台の重機が天然林を伐採している。
また、アイズ・オン・ザ・フォレストは4月に発表した「「Where are the trees?」」の中で、そもそもこのAPPの森林保護方針は意味のないものであると報告している。下のグラフはリアウ州内におけるAPP社のコンセッション(伐採権)区域内の天然林面積の推移を示したものであるが、同社が操業を始めた1984年以降減少し続けており、2012年までに約68万ヘクタール(1984年時点での天然林面積の78%)が失われた。APP社は過去三度にわたり(2004年、2007年、2009年)すべての原料調達を植林木に切り替えるとの公約を発表したが、いずれも失敗に終わっている。この間も天然林は伐採され続けており、2012年現在で残存する天然林面積は、19万ヘクタールであると見積もられている。
しかし、この残された19万ヘクタールの天然林のほとんどは方針が発表されていなくても保護されるものであるという。残存する天然林の89%はインドネシアの法律によって伐採してはならない地域に存在し、8%は自らが保護すると既に公約している森林地域である。つまり、この度のAPP社による方針によって保護される天然林は残りの3%(約5,000ヘクタール)に過ぎないというのだ。
インドネシア政府は、2011年5月から森林伐採権の付与を一時的に停止しており、天然林や泥炭地などの高い保護価値を持つ区域では新たに開発許可を得ることができない。ただ、それ以前に付与されている伐採権については対象外となるため、APP社は自社の持つコンセッション内に存在する“伐採可能な”天然林をほとんど伐り尽くした後で方針を発表したということで非難されている。
参考資料:
APP: Sustainability Roal Map 2020
TFT Progress Report on APP Forest Conservation Policy Commitments Reporting period: mid-March to mid-April 2013
Where are the trees?
EoF: Deforestation continues in SMG/APP supplier concession in Sumatra