FSC関係修復プロセスの裏でいまなお続く人権侵害

RGEグループは、過去に引き起こした森林破壊や土地紛争などの問題を理由に、2013年、FSC(森林管理協議会)から関係を断絶された。2023年、FSCとの関係修復プロセスを開始し、問題の是正に取り組んでいる。しかし、実際には子会社であるトバ・パルプ・レスタリ(Toba Pulp Lestari、以下TPL)社を通じて、現在進行形で先住民族への権利侵害を行っていることが現地調査により判明した。

TPL社は、インドネシアの二大製紙企業の一つであるAPRILの親会社であるロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)グループの傘下にあるパルプ製造企業である。北スマトラ州おいて合計16万7千ヘクタールの地域で産業植林事業を展開している。

斜線はTPL社の事業地、赤色は先住民族が権利を主張する森を示す。

今回訪問した北スマトラ州、シマルングン県の南部に位置するポンドック・ブル村、ドロック・パルモナンガン集落は、1700年代から存在する歴史のある先住慣習コミュニティである。この地域にTPL社の前身であるインティ・インドラヨン・ウタマ(Inti Indorayon Utama、以下IIU)社がやってきたのは1984年のことで、住民たちに断りを入れることなく住民たちが利用してきた慣習林を伐採した。その後、現在のTPLに名前を変えてからも、慣習林を皆伐し、ユーカリの植林地に転換してきた。

住民たちが農地として使っていた場所が破壊され、ユーカリが植えられている。

この集落の慣習リーダーであるソルバトゥアさんは、自宅の近くにある農地でトウモロコシやコーヒーなどの作物を植えて生計を立てていたが、ある時、企業の人間が家にやってきて、ここは政府から企業に許可が与えられた土地であるため退去するよう言われたという。しかし、ソルバトゥアさんは企業からの脅しに屈することなく、破壊された森での権利を主張するためにドリアンの木を植えるなど、小さな抵抗を続けていた。

冤罪をかけられた慣習リーダー

2024年3月、企業側の通報によりソルバトゥアさんが州警察に北スマトラの州都メダンまで連行されるという出来事が起きた。その当時、妻と街に買い物をしていたところ、いきなり私服の男たち(後に警察官であることが判明)に連れ去られたという。その後、ソルバトゥアさんは国が管理する森林地域で違法に活動をしたという容疑で逮捕された。地方裁では、二年間の禁固刑と10億ルピア(約1,000万円)の罰金という判決が下されたが、その後、AMAN(インドネシア先住民族連盟)をはじめとするNGOのサポートを受け控訴、高裁および最高裁で勝訴を勝ち取り、無事釈放された。ソルバトゥアさんは、実際には昔から利用してきた農地で作業していただけであった。企業は、その後もソルバトゥアさんが植えたトウモロコシを荒らしたり、農薬を撒いたりなどの嫌がらせを続けたそうだが、その行いに対しては何のお咎めもない。

冤罪をかけられた慣習リーダーのソルバトゥアさん

TPL社に限らず、土地紛争がある地域で、特に法的に弱い立場にいる人々がこのような無実の罪を着せられる(criminalization)ことは頻繁に起きている。北スマトラ州の先住民族擁護グループ(BAKUMSU)によれば、TPL社の事業地では過去20年の間に93人が冤罪の対象となり、そのうち39人が投獄されたという。

伐採によるさまざまな影響

聞き取りの場に同席していた青年グループのリーダーは、「企業は慣習林を破壊することで、私たちをゆっくりと殺している。」と表現する。

住民たちへの聞き取りの様子。

集水域となる森が破壊されてしまったことで、住民たちが生活のために利用している川の水が濁るようになってしまった。また、雨季には土砂崩れや洪水がこれまでと比べて頻繁に起きるようになった。慣習林での伐採に際して、企業から住民たちに対する事前の情報提供や協議、補償などはこれまでに一切行われていないという。

他にも、先祖の墓地がある場所も、企業がセキュリティゲートを設けたことによりアクセスすることができなくなってしまった。もう一つ墓地につながる道があるが、そこも企業により道を破壊されてしまい簡単にアクセスできなくなってしまった。

企業が設置したセキュリティゲート。「関係者以外立ち入り禁止」の看板も。

企業との土地の権利をめぐる緊張関係は日常的に存在しており、過去に何度か暴力沙汰に発展した事例もある。2024年12月には、企業が治安部隊を引き連れて集水域となる森を伐採しようとしたところ、それを止めようとした住民たちと口論になり、住民の一人がTPL社の職員から暴力を受け頭部に怪我を負うという事態にまで発展した。

解決は一向に進まず

ドロック・パルモナガン集落の面積は850ヘクタール、このうち企業の土地と重複しているのは250ヘクタールである。企業はポンドック・ブルック村の存在は認識しているものの、唯一、ドロック・パルモナガン集落の存在だけは認識していないという。住民たちの話では、企業の事業許可地域を示す地図にもこの集落は存在しないという。そのため、ポンドック・ブルック村を構成する他の4つの集落にドロック・パルモナガン集落の存在を証明してもらう文書を作成し、この文書にもとづき企業の事業地を変更してもらうよう政府に働きかけているが、現在までに実現していない。

また2019年には、当時の環境林業大臣であるシティ・ヌルバヤが現地に訪問し、土地紛争の解決に向けて「慣習地登録協会(BRWA)」に登録するよう住民たちに提案した。BRWAは、複数のNGOにより設立された組織で、先住民族が主張する慣習地の存在を検証・認定し、独自のデータベースを作成することで、政府にその土地の認知を促すことを目的としている。その後、環境林業省から、先住民族に法的なステータスを与える枠組みである「村落林(Hutan Desa)」に申請するよう勧められた。村落林への申請の最初のプロセスとして、県政府から先住民族としての存在を認識してもらい、推薦状を発行してもらう必要がある。しかし、BRWAから慣習地の認定を受けていたにもかかわらず、現在までに推薦状を得ることはできていない。

BRWAにより慣習地の存在が認定されたことを示す文書。

TPL社(当時IIU社)は、1980年代に約15万ヘクタールの地域で事業許可を取得して以来、多くのコミュニティと土地をめぐる紛争を抱えている。現地で先住民族を支援するAMANによれば、現在までに特定されている範囲で、TPL社との紛争を抱えているコミュニティは36ヶ所にも及ぶという。

RGEグループは、2013年にFSCから関係を断絶された後、2015年に「持続可能な森林管理方針」を発表し、森林破壊の停止や土地紛争の解決を約束することで、改善に向けた姿勢を示したかに見えた。また冒頭で述べた通り、2023年以降、FSCとの関係修復に向けたプロセスを進めており、TPL社を含むRGEグループ全体として森林破壊や土地紛争などの問題を是正することが求められている。しかし、現場では依然として深刻な土地紛争が続いており、脅迫、暴力、犯罪化などの問題が各地で報告されている。JATANとしては、このような企業の方針と現場の実態とのギャップを今後も引き続き注視していきたい。