JATAN カカオ担当 榎本肇
カカオの不作とガーナの没落
「このままではガーナはエクアドルに抜かされカカオ生産世界3位に落ちる」
昨年末、ガーナ南西部にある森林保護区内のカカオ農園を訪れるために、悪路を行くための三輪バイクを待っていた時のこと。調査をコーディネートしてくれたエニン氏と地方議員であるムクルマ氏が議論を始めた。
一昨年の干ばつに続き、昨年、西アフリカは高温と大雨に見舞われた。ガーナも例外ではなく、カカオの花の時期の大雨で授粉がうまくいかず、生育の時期に高温に遭い、生育に適した時期に雨が降らなかったなど、木が弱って病気も蔓延した。そのためカカオの実がならず、木も枯れ、記録的なカカオの不作が続いている。元々カカオは熱帯雨林の林床に育つ低木で、直射日光を嫌い湿気を好む。だが、これまでの品種改良は直射日光下でも高収量が得られるように育ててきたため、昨今の気候変動に適応できなくなってきている。
他にも、数年前のカカオ価格の低迷からカカオ生産から他の商用作物(プランテーンバナナやタロイモなど)に転換したり、違法な金採掘業者にカカオ農園を売り払ったりしており、全体としてガーナのカカオ生産量は大きく落ち込んでいる。
西アフリカの2大生産国、コートジボワールとガーナは30年以上にわたり世界のカカオの生産の半分以上を生産してきた。ガーナは常に2位をキープしてきたが、わずか5年前にエクアドルの生産量の2.5倍あったガーナの生産量は減少し、拮抗してきているのだ。
カカオ先物価格とカカオ農園価格
カカオの価格はとても複雑で不可解である。一昨年の秋に3,000ドル/トンだったカカオの先物価格は昨年3月に10,000ドルを超え、一旦は 7,000ドル代まで下がったが、12月には11,000ドルを超えて最高値を更新した。カカオの価格は、カカオの作柄や単なる需要と供給の関係だけでなく、価格変動のリスクを回避(ヘッジ)しようとする業者や投機の機会を狙う金融筋などの思惑が重なり大きく変動する。
一方で、カカオ農家が手にするカカオ農園価格(Farmgate price)は政府により設定されており、昨年12月で49,600GHC(ガーナセディ)/トンとなっている。一昨年の秋には20,928GHCであったからこれも2倍以上となっている。しかし、昨年12月の先物価格と農場価格を比べてみると(12月のレート14.5GHC/ドルで換算する)と、農場価格は3,240ドルとなり11,000ドルの先物価格とでは大きな差がある。
農家の収入となるカカオの買取価格は農場価格に加え、農家がフェトレードなどの認証や業者のプログラムに参加していればプレミアム価格が加算される。しかし、元々の農場価格の低さによる貧困が、児童労働や森林破壊などの社会環境問題の一因とされてきた。先述のエニン氏は、「農家が衣食住だけでなく、教育や医療、貯蓄など安心して暮らすことができ、なおかつ将来のためにカカオ栽培にも投資ができるような収入を得られるためには、少なくとも農場価格は今の2倍以上が必要だ」と言う。
農家が取るべき道
今回の調査でカカオ農場を訪れた際によく耳にしたのは、「気候変動への適応」だった。ここ数年のカカオの不作の一因は、気候変動により、干ばつや大雨、降雨の不規則化が起こり、カカオの木が弱って病気が蔓延したことにある。それに対処するためには、それに耐えうる新しい品種を植えることも重要だが、それは一朝一夕にはいかない。それにはやはり日陰を作るための木(日陰樹)をカカオ農園に植えるアグロフォレストリーを進める必要がある。こうした日陰樹があることで、異常気象に適応できるカカオの生育環境が作られ、カカオの収量が安定することも期待できる。
また、農家は病気に罹ったカカオの木を伐採し、新しく植え替える必要がある。ガーナのカカオ栽培指導・トレーニングや流通管理などを行う政府機関のCOCOBOD(ココボード)は、こうしたカカオの木を植え替える支援プログラムを行っている。カカオは植えてから実をつけるまで4~5年かかる。カカオの苗と日陰となるプランテーンバナナや日陰樹を同時に植え付け、カカオの実のならない数年はプランテーンバナナを収穫したり、間に食用作物を育てたりして、現金収入を得る。ますますカカオ栽培でのアグロフォレストリーの重要性が高まっていると感じる。
自分のこととして考える
ガーナの森林保護区では、森林伐採を規制する法律が成立する以前に保護区内で居住していた住民に利用権が認められている。彼らに利用権が認められた土地では、カカオに限らず作物を作る際に障害となる樹木の伐採は許可される。但し、土地に生育する樹木の所有権は大統領(国)にあり、商業目的での利用には必ず認可が必要になる。こうした保護区には正規のカカオ農園が至る所に存在するが、たまに「ここは非正規のカカオ農園だ」と言われても、私には違いが全く分からない。なぜ非正規のカカオ農園が隣にできても住民は何も言わないのかと聞くと、「樹木は大統領のものだから」と無関心な答えが返ってくる。
こうした現状を変えるため、住民を参加させた育林プログラムも行われている。植林樹の間に一年生の食用作物を育成するという改良タウンヤ式で自分のこととして食用作物を育てながら3年間樹木を育成した後、森林委員会に土地を返し、その後樹木が伐採され換金されたら利益の一部を得られる仕組みだ。
日本に暮らす私たちも、チョコレートに含まれる70%のカカオの原産地の森林破壊を自分のこととして考えて行動したいものである。
事務局より:2025年1月に発行されたJATAN NEWS No.122に掲載の同タイトル記事の再掲です。
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