環境ジャーナリスト / JATAN会員 栗岡 理子
暮らしや社会が循環型になることを望まない人はいないでしょう。循環型社会を実現するためには、3R(スリーアール)の順番が重要だといわれています。紙の場合は、まず必要なものしか買わない①Reduce(リデュース)、次が裏紙利用などの②Reuse(再利用)、そして最後が③Recycle(リサイクル)です。しかし、循環型社会にとって大切なことは、それだけではありません。
国内製造の再生紙を選ぼう
紙製品を買う際に最も重要なことは原料です。紙の原料は木材と古紙ですから、環境に配慮した木材を使用しているか、どういう古紙を使用しているかがカギとなります。すべて自分の目でチェックできるわけではないので、製造国などが頼りです。
コピー用紙を購入する際には、まず用途に合った白色度や紙の厚さなどを考えます。白色度は低いほうが、白くするための薬剤やエネルギーをたくさん使わずに済むので環境負荷が少ないケースが多いです。ですから、白すぎる紙は避けた方が無難です。
とりわけ、青白いほど白い蛍光増白剤入りの紙は危険です。蛍光増白剤は、通常の使用環境では人間に直接的な健康被害を及ぼすことは少ないとされていますが、皮膚刺激やアレルギー反応を起こすことがあり、食品と直接接するものや乳幼児用品などへの使用は禁止・制限されています。内分泌かく乱物質※の可能性も指摘されていますから、使わないに越したことはありません。
用途に応じた紙を選んだら、その中からできるだけ古紙配合率の高い国内製造のものを選びます。国内製造のコピー用紙であれば、海外産の「再生紙」よりも安心できると思われます。海外産「再生紙」は、工場内の生産工程から出る端材で作られているケースが多く、木材パルプから作られた紙と同様、元の木材原料が何かを考える必要があります。紛争地の原料や違法材である可能性もある上、海外から運んでくる際に発生するCO2も気になります。そのため、国内の市中回収古紙を入れて作られた再生紙こそが、循環型社会を支える「再生紙」だといえます。
ティッシュペーパーやトイレットペーパーの場合も、国内製造の再生紙ならばほぼ安心です。ただしその場合でも、香り付き製品はNGです。香料として使われている化学物質には、発がん性や内分泌かく乱作用のある物質※もあるので、ご注意ください。香りを伴う製品による健康被害(香害)の被害者も増えています。
紙は使ったらリサイクルへ
古紙不足が深刻です。2021 年頃からグリーン購入法の基準を満たしたコピー用紙や印刷用紙の入手が困難になりました。新型コロナウイルスの流行によるオフィスの閉鎖やリモート化による古紙回収量の減少、製紙工場の稼働率の低下などの影響で、古紙不足が顕著になったためです。
パンデミック後も古紙不足は続き、2023 年 12 月、グリーン購入法の印刷用紙の適合基準(環境省の「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」) が 変更され てしまいました 。従来の古紙パルプ配合率40%という最低保証率が撤廃されたのです。
古紙不足の理由は、新聞・雑誌の発行部数の減少、古紙輸出の増加、そしてオンラインショッピングの急増でダンボール需要が旺盛になった結果、印刷用紙原料として使われていた古紙までダンボールに回されるようになってしまったことなどがあります。一度ダンボールになった紙は、もはやコピー用紙や印刷用紙の原料にはなりません。
古紙不足を解消するには回収量を増やす必要があります。日本の古紙回収率は 81.6%(2023年)で、高いとはいえまだ増やす余地があります。使い終わったノートやコピー用紙、読み終わった新聞や雑誌などは、捨てずに古紙回収に出しましょう。「雑がみ」を回収している地域は、ハガキや封筒、メモ紙、洋服のタグなど多くの紙類を出すことができます(小さい紙片は飛び散らないよう不要な封筒などに入れてください)。
その際、「禁忌品」といわれる製紙原料にならないものは、出さないようご注意ください。古紙に混入することで出来上がった紙製品の性能が悪化し、使用に適さなくなる場合があります。
紙はプラスチックに比べリサイクルしやすく、再生可能な資源です。最近では、牛乳パックと一緒にアルミ付きの紙パック(酒やワイン、豆乳などの紙パック)を回収するスーパーも増えています。これまでリサイクルが難しいことから牛乳パックとは別扱いされていましたが、最近はリサイクルできる工場が増えました。近所のスーパーでも回収しているかもしれないので、一度チェックしてみてください。アルミ付き紙パックに使用される紙は、牛乳パックと同様、良質な古紙原料です。捨てずにできるだけ回収に出して下さい。
国内で回収された古紙で作った再生紙を使い、使用後リサイクルできるものはリサイク
ルにまわし、できるだけ紙の国内循環を実現したいものです。
※内分泌かく乱物質(環境ホルモン)は、米国の国立環境衛生科学研究所(NIEHS)によると「内分泌系と呼ばれる体内のホルモンを模倣したり、妨害したりする可能性のある天然または人工の化学物質。これらの化学物質は、野生生物と人間の両方の多くの健康問題に関連」しています。とりわけ、「感受性の高い胎児や発達期の子ども、卵子や精子などの生殖細胞に異常が起こりやすい」(『地球を脅かす化学物質』海鳴社、木村―黒田純子)といわれています。
- 事務局より:この記事はJATAN News No.121からの転載です。