一刻も早い帰村を待ち望むチャワン・グミリールの被害住民 ーSETAPAKがドキュメント映像を公開

丸紅の完全子会社ムシ・フタン・ペルサダ社(PT Musi Hutan Persada: MHP)がチャワン・グミリール(Cawang Gumilir)を二度にわたる破壊のすえに強制退去させてからすでに3年以上、最初の農地破壊から数えると4年近くが経とうとしています。離散を余儀なくされたおよそ200の世帯が一日でも早い帰村の想いを募らせるのとは裏腹に、時間は無慈悲に過ぎていき、チャワンで過ごした豊かな生活の記憶も次第に薄らいでいくようです。ただ、MHPが国軍と警察を動員しておこなった苛烈な人権侵害の事実は、消しようもありません。マルスディさん(Mr. Marsudi)、スハルミさん(Mrs. Suharmi)夫妻のように、生活の基盤を根こそぎ奪われた被害住民の中には避難先での窮乏に耐えながら、本来の生活を取り戻すために可能な限りの手段を繰り寄せようと日々、奮闘している人たちがいます。復興の機会がますます遠のき、チャワンの存在自体が消し去られてしまうのではないか。二人の焦燥感はこれまでになく、大きくなってきています。

JATANはMHPによる最初の破壊からおよそ一年後の2016年8月と翌年3月の2回にわたって、チャワンの破壊跡地と多くの避難民が身を寄せているブミ・マクムール(Bumi Makmur)村を、環境フォーラム・南スマトラ支部(WALHI Sumsel)のメンバーたちと訪問し、マルスディさんをはじめチャワンの元住民たちに聞き取り調査をおこないました。また、MHPの親会社、丸紅のCSRや紙・パルプ部の担当者たちとこれまでに数回、事実確認と問題の解決に向けた会合をおこなってきました。30万ヘクタールという広大なパルプ材用植林のコンセッションを持つMHPと、チャワン・グルミールをはじめとする周辺コミュニティのあいだに起こっている土地問題は、インドネシア中央政府(環境・林業省)による国有林の再配分政策が進む中で、いまや一企業のコンセッション管理という問題を超えたより大きな政治的な枠組みの中で扱われつつあります。

アジア財団の環境ガバナンス・プログラムであるSETAPAKはいま、インドネシアの森林・土地ガバナンスの改善に向けて、環境フォーラム(WALHI)をふくむNGO、地域の住民グループに対して政府の土地政策に関わる情報の提供などの活動をおこなっています。2019年3月、SETAPAKがリリースしたビデオ、”The Strugglr of the Women’s Group and Community to Obtain the Forest and Land Management Rights in Cawang Gumilir, South Sumatera(南スマトラ、チャワン・グミリールにおける女性グループとコミュニティによる森林と土地の管理権を獲得するための闘い)”では、チャワンでの生活再建という所期の願いを抱きながら避難先のゴム園での労働によって糊口をつなぐギリギリの生活をおくるスハルミさんたちを取材しています。チャワンの旧住民たちは、WALHI南スマトラ支部やインドネシア法律扶助協会(LBH)パレンバンのファシリテーションを受け帰村に向けた活動を継続させていますが、大きな政治の渦中に投げ込まれ、翻弄されているように見えます。


Outcry Message from Cawang Gumilir, a Displaced Community by PT. Musi Hutan Persada (MHP)
Recorded by JATAN on March 2017

Mr. Marsudi, evicted resident from Cawang Gumilir and Mr. Hairul Sobri, director of WALHI Sumsel against
a backdrop of a local Masjid, the only building hat has escaped of destruction by MHP

【関連サイト】
2016年09月30日掲載: JATANプレスリリース
プレスリリース:土地紛争の早期解決を求める要望書(公開書簡):MHP社によるチャワン・グミリール集落の強制排除

2017年02月12日掲載: JATANプレスリリース
チャワン・グミリール集落の強制排除 ―丸紅は解決に向けて主導的な役割を果たし, 一刻も早い住民の生活再建を保障すべきである

2019年04月30日掲載
北海道大学大学院文学研究科教員・JATAN会員 笹岡正俊
ムシ・フタン・プルサダ社による住民の強制排除