豪州タスマニアから100名規模の貿易使節団が木材製品のプロモーションに今月12日に来日し、日本の政財界要人、顧客企業代表と会合を行った。これを率いるギディングス州知事は、「環境保護団体と手を携えて、日本の顧客に我々の産業が持続可能であると強いメッセージを届けることができたのは、タスマニア林業の歴史の中でこれが初めてだ」と、意気込みを語った。使節団には州の林業セクター、タスマニア林業公社、現地で日本向けの合板基材を製造するタ・アン、タスマニア森林協定(Tasmanian Forest Agreement; TFA)に調印した環境保護団体の環境問題タスマニア(Environment Tasmania)と原生自然協会(The Wilderness Society)も同行した。今回の経済使節団は、タスマニア森林協定の成立により50万ヘクタールの保護価値の高い森林(HCVF)が保護され、日本に輸出される木材製品には今後、問題含みの木材が混入しないとの説明を行ったとメディアなどは伝えている。
しかしいまなお、日本の合板需要を背景にHCVFは伐採されつづけており、保護策定地の外側でつづけられる皆伐、オールドグロス林の伐採、ケーブルロギング、希少種野生動物の生息地破壊など、林業公社がTFAの条件とされるFSC森林認証を取得するにはあまりにも多くの課題が存在している。
今年6月、カンボジアで開かれたIUCNの世界遺産員会では、スティックス渓谷など約17万ヘクタールの高木ユーカリの森林が、タスマニア原生自然世界遺産を拡大する形で世界遺産の登録リストに加えられた。しかし総選挙で6年ぶりの政権交代を果たした保守連合(自由党、国民党)を率いるアボット自由党党首は、遺産登録の破棄を選挙公約としてきた。これまで歴史上二度しかなかったという遺産登録の撤回が現実に憂慮される事態となっている。
タスマニア議会の上院は総選挙五日前の9月2日に、39万2,000ヘクタールの保護を可決している。このうち10万800ヘクタールは世界遺産拡大に含まれる。残りの28万9,200ヘクタールはつぎの州議会選挙の結果が出ない限り確定しない。州レベルでも、これ以上の森林保護は必要ではないと公言してきた州自由党が政権に復帰するならば、ギディングス労働党政権がTFAによってこぎつけた森林の保護地策定も水泡に帰す恐れは十分にある。
JATANは使節団が訪日した12日に、タ・アン・タスマニアのホバート本社前で、現地カウンターパートのヒューオン渓谷環境センター(Huon Valley Environment Centre)とともに、タスマニアの森林を取り巻く政治状況が変転する中、依然としてHCVFが伐採されつづけている現状を訴えるために、バナーアクションを行った。また、タ・アン・タスマニアの単板工場に提供されているいくつかの伐採地を視察した。
そのひとつが”EP011A”という、州南部のエスペランサ渓谷の一画にある伐採地である。レグナンスのオールドグロス林に混ざって太古からの植物、木性シダやセロリトップパインなどの雨林がタスマニア特有の林分を形成している。これまでに保護団体ばかりか一部業界も保護に同意してきた、HCVFだった。しかし6月の世界遺産委員会では林業公社の抵抗にあって、登録リストから除外された。”EP011A”がタ・アン向けの木材生産地であることは、2013-14 to 2015-16 Three Year Wood Production Planでも確認できる(”peeler”は単板製造用原木を表す用語である)。
※註:タスマニア林業公社(Forestry Tasmania)がSustainable Timber Tasmaniaに移管された。これにより、”Three Year Wood Production”は現在、閲覧できない。(JATAN事務局)
関連情報
Ta Ann is still selling Tasmanian forest destruction to customers in Japan (2013年9月10日, TasmanianTimes.com)
Environment Groups Join Overseas Promotion of Forestry Industry (2013年9月12日,TasmaniaTimes.com)
State hopes to build on work of trade mission (2013年9月15日, The Examiner)
Greens leader warns forest activists will again target Asian markets (2013年9月12日, ABC)
問われる社会的責任(下) 環境配慮 法制を超えて (2013年9月5日, 日経新聞)