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【プレスリリース】パーム油を利用する日本企業の取組状況を評価する「企業格付け2024」発表 森林保護や人権尊重を求めるNDPE方針を公表する企業は2割のみ

プレスリリース
2024年5月21日

プランテーション・ウォッチ事務局団体
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)

パーム油を利用する日本企業の取組状況を評価する「企業格付け2024」発表
森林保護や人権尊重を求めるNDPE方針を公表する企業は2割のみ
パン業界、外食産業、食料品販売会社の対応は依然として低いまま

人権侵害に関係する企業グループとの取引関係の継続状況と対処内容を開示
調達先リストを開示した10社のアンケート結果発表

 プランテーション・ウォッチ(注1)は、本日、「企業格付け2024:企業のパーム油調達への取組状況」を発表しました。本評価は、2016年より実施しているアンケート調査に基づいており、プランテーション・ウォッチ独自の基準により企業の取組状況を比較したものです。パーム油を利用する主要な8つの業界(注2)について、これらの業界における売上上位の企業を対象としています。

 8回目となる2023年度のアンケート調査では、対象とした110社のうち46社から回答が得られました。残りの64社からは、残念ながら回答はありませんでした。今回、一社がNDPE方針の実施状況の独立検証による十分な確認ができているとする「Aー評価」を初めて取得しました。また、環境・社会問題に対処するためのグローバル・スタンダードであるNDPE方針(注3)を採用していると回答した企業は、前年度から新たに一社が増えて22社(全体の20%)となりましたが、ミルリスト(搾油工場リスト)を公表していると回答した企業は前年度と変わらず9社(全体の8%)と、昨年度からほとんど進捗が見られない結果となりました。一方で、小売業界、外食産業、製パン業界については回答率が著しく低く(それぞれ26社中3社、19社中2社、7社中1社)、パーム油の環境社会問題に対する意識の低さを露呈するものとなりました。

 不二製油グループ本社による「Aー評価」は、パーム油の環境社会リスクに適切に対処し、改善していくための「体制」が整備されていることを意味します。これは環境社会問題の改善に向けた通過点であり、この体制の下での実施状況が課題になります(例えば、以下の人権侵害状況への対応など)。その他、RSPO加盟企業に対しては、「ミルリストの作成・開示」を求めます。2018年の第15回年次総会にて、サプライチェーン関連企業によるミルリストの開示が義務づけられましたが、今回の調査においてミルリストを公表していると回答した企業は9社(全体の8%)のみにとどまっています。また「日本のパーム油使用量トップ20企業」(下図)において、パーム油利用量全体に占める認証油(ブック・アンド・クレーム方式を除く)の割合が著しく低いにもかかわらず、RSPO認証油の利用を喧伝している企業が見られます。消費者に対して誤った認識を与えかねないため、適切な情報開示とともに、責任ある調達に向けた取り組みを進めることを期待します。

 

人権侵害事例への対応状況アンケート

 また昨年度のアンケート調査で、ミルリストを公表していると回答した以下の企業10社に対して、パーム油生産国での個別の人権侵害の事例に対応しているかどうかを問うためのアンケート調査も同時に実施しました。
 マレーシアのパーム油生産大手であるFGVホールディングスは同社が所有する農園での労働者に対する深刻な人権侵害を引き起こしています。米国政府は、マレーシアからのパーム油を強制労働の関与が認められる産品に指定しており、2021年以降、同社が関与したパーム油の輸入を差し止めています。また、インドネシア最大手であるインドフード(Indofood)も、子会社の農園で労働者に対する人権侵害を引き起こしており、2020年にはこの問題を巡りRSPOから脱退しました。他にも、マレーシア大手のサイム・ダービー(Sime Darby)について、インドネシア西カリマンタン州で操業する子会社が地域コミュニティとの土地紛争を抱えていましたが、サイム・ダービーは2019年に現地での問題解決の責任を果たすことなく当該企業を他社に売却しました。またウィルマー(Wilmar)についても、インドネシア西スマトラ州で操業する子会社が地域コミュニティとの土地紛争を抱えています。

 その結果、2社を除く8社から回答があり、いずれの企業もサプライチェーンを通じて、パーム油生産国で人権侵害に関係している企業グループとの取引関係を継続していることが判明しました。下の表のようにいずれの企業も、これらの企業グループが抱える問題について認識し、対処していることは評価に値します。しかし、いくつかの企業は対応すべきリスクであるかどうかの判断をRSPOに依拠しているため、RSPOが認証を取り下げるまでリスクとして認識されないかもしれません。また認証を受けた農園であっても違法な農園開発や土地紛争などの問題に関与している事例がインドネシアのNGOにより報告されています(注4)。よって、RSPO認証油の調達だけにとどまらず、NDPE方針に基づいて、NGOを含むより広範囲な情報収集を通じて人権デュー・デリジェンスや独立した検証等を実施することが不可欠です。また国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、人権侵害の事例に対する責任については企業グループとして横断的に判断し、対応実施状況を定期的に開示しつつ、NDPE方針の不遵守と人権侵害に対処することが必要です。

注1)プランテーション・ウォッチは、以下の7団体が協働して、熱帯地域での単一作物の大規模栽培が抱える問題について情報提供し、責任ある原料調達を目指す取り組みを支援するNGOネットワークです。
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、地球・人間環境フォーラム、ウータン・森と生活を考える会、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表部、国際環境NGO FoE Japan、サラワク・キャンペーン委員会(SCC)、メコン・ウォッチ
https://plantation-watch.jp

注2)菓子会社:20社、インスタント食品会社:19社、食料品販売会社:25社、パン・マーガリン会社:10社、外食サービス会社:20社、日用品会社:6社、油脂会社:8社、総合商社:5社(業界によって一部の企業に重複あり)

注3)NDPE(森林破壊ゼロ、泥炭地破壊ゼロ、搾取ゼロ)方針では、森林減少禁止のために、保護価値の高い森林や高炭素貯留林の転換禁止、火入れ禁止、泥炭地開発禁止に加えて、労働権や土地権の尊重などを含んでいる。https://japan.ran.org/wp-content/uploads/2023/10/JP-NDPE-briefing.pdf

注4)TuK Indonesia. “VOTE GREENWASHING, TUK INDONESIA ACTION AT RT2023 RSPO”. 2023年11月. https://www.tuk.or.id/2023/11/suarakan-green-washing-tuk-indonesia-aksi-di-rt2023-rspo/?lang=en

免責条項について
この評価は2024年1月〜2月に実施したアンケート調査の回答に基づいています。本プレスリリース発表時までに、企業の取り組みに変化が生じている可能性があります。

お問い合わせ
プランテーション・ウォッチ事務局
熱帯林行動ネットワーク(担当:中司、吉田)
Email:jatan.office[@]gmail.com

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