世界の森林の減少・劣化は今も変わらぬスピードで進んでおり、多様な生物の生息地が失われたり、先住民族や森に依存する人々の生活の場が奪われたりしており、被害が止まない現状にある。例えば、熱帯林は10年間で日本国土の3.8倍に当たる面積が失われた。さらに、ほぼ同じくらいの面積が伐採によって劣化した。森林破壊の最大の原因は、商業伐採であることが明らかになっている。森林破壊の背景としては、地域住民の土地権や資源管理、貿易と消費、国際経済と金融、林産物の価格が低いことなどがあげられている。各国において法制度の整備の面では進展も見られたが、その実施が行われていない。世界中で違法伐採が横行している事実は、それを顕著に示している。日本は、世界各国から大量の木材を輸入しており、それぞれの森林生態系に多大な影響を与えている。木材自給率は18.2%(2000年)にまで低下した。国内で木材として利用するために育てられた人工林は、適切な時期に伐採することが望ましいが、安い輸入材のために林業は崩壊し、手入れの必要な人工林は間伐が行われていない状況で、木材資源の有効利用を妨げている。
リオサミットで作られた森林に関する文書は、法的拘束力のない「原則声明」で、具体的な目標やスケジュールもなかった。その後開催された森林に関する政府間パネル(IPF)・同フォーラム(IFF)でも、法的拘束力のある条約の作成だけでなく、資金源、貿易政策、技術移転等の問題をめぐり、各国の利害の対立が解消されないまま、現在に至っている。「2000年までに持続可能な経営が行われている森林から生産された木材のみを貿易の対象とする」とした、国際熱帯木材機関(ITTO)の「2000年目標」も、結局達成されなかった。2001年に開始された世界貿易機関(WTO)の新ラウンドでは、木材貿易の自由化推進によって更なる森林破壊が促進されることが懸念されている。一方、今年4月に開催された生物多様性条約(CBD)の第6回締約国会議(COP6)においては、今後10年の森林利用に関する作業計画が採択されたが、今後実施する対策に優先順位をつけたスケジュール作りはできなかった。
日本の住宅業界は国内最大の木材消費産業である。大手各社には様々な積極的な取り組みも見られ始めたが、業界全体としては大きな前進はなく、依然として世界の原生林・天然林の破壊の大きな要因であり続けている。建築業協会は、熱帯材型枠用合板の使用量を5年間で24.3%の自主的な削減を行った。しかし、取り組んだのは大手の16社のみで、当初の目標である35%も達成されなかった。世界的には、民間組織であるFSC(森林管理協議会)の活動により、全世界で約2800万haの森林が認証され、市場や企業の行動を変えることを可能にした。欧米では、原生林から産出された木材の使用を停止し、FSCなどの認証木材を利用する企業が急速に増加している。
今後の国際森林政策に対しては、IPF/IFFで合意された行動提言を実施すること、そのために、目標と時期が明確にされた行動計画を作成すること、モニタリング機構を創設することが求められる。また、法的拘束力のある生物多様性条約の内容について、各国森林政策に反映することが森林の保全を進めるために必要である。WTOについては、更なる森林破壊を招くような貿易自由化交渉を行わないことが求められる。さらに、多国籍企業や一部の有力者の利益だけになるような森林政策や経済政策を撤回し、先住民や地域社会への土地権、森林利用権を認めることが特に重要なことである。
日本の政策については、日本が世界の原生林・天然林破壊に大きな責任があることを認識し、木材生産国の持続可能な森林経営(供給量の適正化)を実現するための木材消費国としての構造の改革を行うことが、世界の森林問題を解決するために必要不可欠である。また、同時に、木材自給率を上げるために、国産材を活用するビジョンの設定と活力のある林業を回復するための改革を行うことも必要である。
民間企業については、利用する木材の生産方法や取引先の環境に対する取り組み状況について調査を行い、自ら積極的に持続可能な森林経営から産出された木材の利用を推進することが求められる。持続可能な森林経営を判断するための制度については、林業経営の持続性だけでなく、環境面の保全や、先住民や地域社会の生活や権利についても考慮したものを基準にすることが重要である。
世界の原生林*1・天然林*2の減少・劣化は今も変わらぬスピードで進んでおり、多様な生物の生息地が失われたり、先住民族や森に依存する人々の生活の場が奪われたりしており、被害が止まない現状にある。
国連食糧農業機関(FAO)は、2000年の世界森林資源評価(FRA2000)において、世界の森林は38億6900万haであり、1990年から2000年の間に、世界の天然林は年間1250万ha減少したと報告している。特に、熱帯地域では年間1420万haのペースで減少しており、10年間で日本国土の3.8倍に当たる面積の熱帯林が失われたことになる(熱帯地域以外では年間170万haの増加)。別の報告では、1960年から1990年の30年間に世界の熱帯林の約13%が消失しており、特にアジア地域では約30%にも及んでいる。
ただし、森林が伐採された場合でも他の土地利用(農地や牧場など)に変えられることがなければ「森林減少」とはみなされておらず、このような「森林劣化」も急速に進んでいる。FAOは、熱帯地域43ヶ国の年間伐採面積は1140万haに及ぶと報告している。また、世界資源研究所(WRI)は、「フロンティア林(frontier forest)」という概念を用いて、人間の手がつけられていない天然の森林(原生林の概念とほぼ同じ)について調査を行い、世界のフロンティア林は13億5000万haであると報告している。FAOの「森林」面積とは大きく異なることから、いかに森林劣化や植林地への転換が進んでいるかがわかる。
WRIは、各地域の専門家から集めた情報をまとめた結果、破壊の最大の原因は商業伐採であり、鉱業開発、農地や牧草地への転換がそれに続くと報告している。また、森林が最終的に農地や牧草地、植林地などに転換される過程において、商業伐採がその最初の段階における役割を果たしているという意味でも、その重要性は大きい。こうした直接の原因の背景として、地域住民の土地権や資源管理、関係者の政策決定への参加、貿易と消費、国際経済と金融、林産物や森林による恩恵の評価・価格が低いことなどにあるとされている。
各国において法制度の整備の面では進展も見られたが、その実施が行われていない。世界中で違法伐採が横行している事実は、それを顕著に示していると言える。言うまでもなく、違法伐採は持続可能なものではなく、それに向けた努力の障害にもなっている。様々な報告によると、各国の木材生産量の内、インドネシアで約7割、マレーシアで約35%、ブラジルで約8割、カメルーンで約5割、ロシア極東部でも約4割が、それぞれ違法伐採によるものとされている。また、違法伐採の存在は、消費国における過大な需要の存在を裏付けていると言える。もっとも、国や地域の法律上は合法な伐採であっても、環境面において破壊的なものや、地域住民の生活に悪影響を与えているものも多く、必ずしも持続可能なものではない。
*1 原生林:天然(自然)のままで人手が加えられていない森林。
*2 天然林:主として天然の力によって造成された森林。原生林と二次林(その土地本来の自然植生が、災害や人為によって破壊された後に発達した森林)を合わせたもの。
マレーシアのサラワク州では、森林にとっても先住民族の生活にとっても取り返しのつかないところまで状況は悪化の一途をたどっている。伐採はすでに国境周辺まで奥地化している。最後の原生林の伐採を食い止めるために、狩猟採集民族のプナン人は今年に入って数箇所で一斉道路封鎖を行っているが、伐採の手が緩む兆しはない。製材・合板工場の設備過剰(原木供給不足)のため、隣国のインドネシアから木材を密輸入して加工、輸出したり、州内の違法伐採も横行している。油やしプランテーションやユーカリ、アカシア等早生樹の植林がさらに大きな脅威として先住民族に圧し掛かっている。州政府は油やしプランテーションを最優先で進めているが、森林は皆伐*3されて完全に失われるだけでなく、住民の土地に対する権利を半永久的に抹消されるため、住民との対立は激しい。さらに、先住民族が森を守るために道路封鎖をしたり、植林・プランテーション開発から慣習地を守るために地図を作成することを違法とする悪法が次々と通り、先住慣習地の法的認知が空洞化している。
また、80年代以降の日本への木材輸出により巨大に成長したマレーシアの伐採企業が、パプアニューギニアや南米、ロシアなどに進出し、森林破壊に貢献することとなった。
*3 皆伐:森林内の樹木を全て伐採する方法。その域内の生態系は完全に失われる。択伐(森林内の成熟木だけを計画的に切り出す方法)に対して用いられる用語。
インドネシアでは、元来のフロンティア林の70%が既に失われてしまい、今や年間200万haのスピードで失われ続けている。インドネシアでは、以前から違法伐採の存在が指摘されていたが、1998年のスハルト政権の崩壊を機に違法伐採が急激に増加した。違法伐採の量は木材生産量全体の7割にも達すると推計されており、保護されているはずの国立公園内でも行われているという報告が数多く出されている。また、近年は紙パルプの生産やアブラヤシプランテーションの開発が急激に伸びており、そのための天然林の皆伐に拍車がかかっている。1998年には森林火災で1,000万haもの森林が消失したが、その主原因はプランテーション開発のために行われた火入れであると政府も認めている。生物多様性と経済の両面において非湿地低地林が重要であるが、現在の減少速度で進めば、スマトラの低地林は2005年までに、カリマンタンは2010年を過ぎた頃にそれぞれ消失してしまうと予想されている。
1960年代から70年代にかけて木材輸出が盛んに行われたフィリピンでは、森林が急減し、その森林率は1996年の政府統計で18%、現在では14%ほどに落ち込み、木材輸出国から輸入国へと転じている。
資源枯渇が進むなか、政府は丸太輸出禁止令の発令、禁伐地域の設置、さらに、伐採にあたって丸太のサイズや伐採地の傾斜度や標高を制限する規則の制定や造林義務の強化など、環境保全を考慮した法令を整えていった。しかし、政府は人員・予算不足を理由に法の施行を徹底しておらず、違法伐採行為が後を絶たない。伐採業者と管轄の政府当局との癒着構造も指摘されている。
ミンダナオ島北部では、事態を危惧したNGOや住民による人間バリケードなどの伐採反対運動が展開されている。この地域では、森林減少による影響で、山間部での涌き水の減少、土壌侵食、土砂流出とそれによる道路寸断、洪水の多発、土壌侵食がもたらす川や海(珊瑚礁)への土壌堆積による漁業資源への影響など、森の恵みに依拠して暮らす山岳農民、川下の小規模漁民の生活が厳しくなっている。
一方で、森林管理を森に暮らす住民に担わせようとする最近の政策やNGOなどの支援により、地元コミュニティが土地利用権を獲得し、傾斜地農法やアグロフォレストリーを導入するなどし、持続可能な農業によって自給的生活を模索する地域も出てきている。
極東ロシア地域の生物的・地理的変遷は極めて独特で、動植物の固有性は極めて高い。シホテアリーニ山脈一帯のタイガは世界遺産にも指定され、多様な動物も生息し、先住民族の文化的多様性を支えている。
ここ10年、熱帯材に代わって極東ロシアから大量の丸太が日本に流入している。ロシアが市場経済に移行する過程で経済危機に見舞われたため、地方財政が枯渇し、行政の末端が正常に機能しなくなり、違法伐採や違法木材輸出が横行するようになった。乱伐後の放置端材や猟師の焚き火が森林火災の大きな原因となり、1998年のハバロフスク地方の大火災では240万ha、量にして日本の年間木材消費量の1.4倍に当る1億6744万m3が焼失した。もともと植林の有効でない気象条件のため、皆伐跡地の自然更新は長年月を要することもあり、日本・中国に近い極東ロシアの森林での乱伐と森林火災は、この地域(特に沿海州)の森林資源の枯渇に繋がる可能性が大きい。
カナダでは、 低額に設定された伐採権料や皆伐の許可など、世界市場で最も競争力のある林業政策が行われてきた。例えば、カナダにおける針葉樹材の立木伐採権料は1m3当たり2ドルで、米国の10ドルと比べて非常に低い。この金額は、土壌浸食や水質汚染などの環境コストを無視した設定となっている。また、伐採の80%は皆伐によるもので、伐採企業にとって利益が大きい反面、環境への影響は大きい。木材の「年間許容伐採量」は設定されているが、伐採企業が年間許容伐採量を超過することも多く、また年間許容伐採量そのものが持続可能なレベルより高いこともある。
カナダ国内で最も伐採の進む地域のひとつであるブリティッシュコロンビア州では、皆伐や道路建設による土壌浸食や著しい水質汚染の被害を被っており、サケなどの生物や食物連鎖全体を脅かしている。2001年には、グリーンピースなどによる国際的な活動によって、いくつもの日米欧の企業がインターフォー社等からの木材購入のキャンセルを表明した結果、インタフォー社との合意に達した上で、グレート・ベア・レイン・フォレスト地域の温帯雨林渓谷20ヵ所が恒久保護されるなど、原生林保護のための改革が行なわれることがBC州政府によっても支持され、協定が結ばれた。しかし、クラクワット・サウンドなどの他の温帯雨林地域の伐採は依然として続いている。
森林伐採が土地所有権を主張する先住民社会との対立を招くこともある。1988年、アルバータ州政府は大昭和・丸紅インターナショナル社に、ルビコン族の伝統的な地域である100万haを含む400万haの賃借権を認めた。同社が論争地域で伐採を続けたため、ルビコン族側は大昭和社の製品の国際的ボイコットを始めた。この対立は、大昭和がルビコンの地域について再確認し、NGO「ルビコンの友」が大昭和に対するボイコット活動とその他の抗議行動を停止することに同意した2000年になって、やっと収束した。
オーストラリアでは、連邦政府と各州政府との間に地域森林協定が締結され、森林政策が表面的には整備されたものの、その実態は産業界寄りに歪められており、木材の輸出枠を撤廃して自由にしたことや、保護制度が不十分であることなど、環境保護団体からの強い批判を受けている。実際、樹齢数百年にもなるオールドグロス林*4を含む生態系豊かな天然林が次々に「計画的」に破壊されている。用いられている主要な伐採方法は皆伐で、野生動物の生息地は完全に破壊される。伐採跡地の一部は、単一樹種植林にとって替えられるが、それにより、豊かな生態系が永遠に失われる結果を生んでいる。伐採された天然林の約4分の3は、輸出用の木材チップに加工され、そのほとんどが日本に輸出されている。こうしたオールドグロス林の伐採や木材チップ用の伐採は、オーストラリア国内でも反対意見が高く、国民の80%が反対している。 一部の州では、政府がこうした伐採を禁止する措置をとったが、タスマニアやビクトリア州等では、日本の紙需要を背景としたオールドグロス林や天然林の破壊が依然として進行している。
*4 オールドグロス林:樹齢200年から1,000年の樹木が大勢を占める、生態系として成熟した森林。
中国では、木材需要の成長と国内森林保護政策により木材輸入が急速に増加している。1998年には、長年その座についていた日本をついに抜き去り、中国が世界最大の熱帯材丸太輸入国となった。東南アジアやシベリアからの違法伐採材や密輸材にも深く関わっており、日本に代わる新たな世界の森林への脅威となりつつある。また、WTO加盟により、中国は関税と非関税障壁の削減を求められており、それは森林の規制と投資の統制を緩め、伐採がより盛んに行われる結果となることが懸念されている。
日本は、アメリカ、カナダ、ロシア、マレーシア、インドネシア、オーストラリア、チリ、パプアニューギニアなど、世界各国から大量の木材を輸入し、それぞれの森林生態系に多大な影響を与えている。マレーシアやロシアから輸出される丸太、インドネシアから輸出される合板、チリから輸出される製材のそれぞれ約3分の1が日本向けである。木材チップについては、オーストラリア、アメリカ、チリから輸出される量のほとんどすべてが日本に向けられている。
木材の世界貿易と日本の輸入量(2000年)
産業用丸太 |
(熱帯材丸太) |
製材 |
木質パネル |
木材チップ |
木質パルプ | |
世界合計 | 116,822 |
20,443 |
128,952 |
60,524 |
38,670 |
37,737 |
日本輸入 | 15,948 |
3,141 |
9,951 |
6,200 |
26,661 |
3,088 |
日本の割合(%) | 13.7 |
15.4 |
7.7 |
10.2 |
68.9 |
8.2 |
日本の順位 | 1 |
2 |
2 |
3 |
1 |
5 |
日本の森林は国土の66%を占め、世界でも有数の森林国である。しかし、1960年に木材の輸入を自由化して以降、当時86.7%だった日本の木材自給率は一貫して減少を続け、90年に26.4%、2000年には18.2%にまで減少した。これは、環境コストなどを無視した安い外材に国内の林業が太刀打ちできなくなったためである。
日本の森林面積の約40%が人工林で占められており、下草刈り、除伐、間伐、枝打ちなどの手入れが必要である。しかし、国産材の需要が低迷し、間伐が行われていないために、成長していない細い樹木が密なままで放置され、森林内に日光が入らないために下草が生えず、表土が流出した状態になっている。こうした状況は、木材資源の有効利用ができないばかりでなく、大雨による土砂崩れなどの風災害、病害虫に弱い山林を生み出している。また、国内林業の崩壊は、伐採後の再造林が行われずに放置されるという事態をも招いている。
現在は、人工林の大半がまだ間伐などの手入れが必要な段階だが、人工林は将来木材を生産することを目的に育てられてきたものであるから、適切な時期に伐採して木材として利用することが望ましい。現在、日本国内の森林の年間成長量は人工林を中心に約7000万m3に達しており、単純計算では木材需要量の約7割に相当するが、実際の木材生産量は1800万 m3(2000年)と、成長量の3分の1にも満たない。利用できる資源を利用せず、大量の輸入材を消費することによって海外の森林に影響を与えているのが実態である。
リオサミット(UNCED)で作られた森林に関する文書は、法的拘束力のない「原則声明」で、具体的な目標やスケジュールもなかった。その後開催された森林に関する政府間パネル(IPF)・同フォーラム(IFF)でも、法的拘束力のある条約の作成だけでなく、資金源、貿易政策、技術移転等の問題をめぐり、各国の利害の対立が解消されないまま、現在に至っている。もっとも、IPF以降、多くのNGOや先住民族団体は、森林条約は企業に支配され、森林問題を解決できないばかりか、森林伐採が正当化されたり、森林に依存した生活がさらに侵害されるとして、森林条約を作ることには反対してきた。実施義務はないものの、IPF・IFFで、300近くの行動提言(Proposal for Action)が作成されており、その実施が求められているのが現状である。
アジェンダ21では「現存する森林の維持を図ること」が目標とされたが、森林の減少・劣化は今も変わらぬスピードで進んでいる。熱帯木材の生産国と消費国が加盟する国際熱帯木材機関(ITTO)は「2000年までに持続可能な経営が行われている森林から生産された木材のみを貿易の対象とする」とした「2000年目標」を策定していたが、結局達成されなかった。国際森林政策については、リオサミット以降の十年は「失われた十年」であったと言わざるを得ない。
世界貿易機関(WTO)によって差別的な貿易制限措置が禁止されたことにより、政府のみならず、各自治体によって積極的に進められてきた熱帯材消費削減方針もWTO違反とみなされるようになった。2001年に開始された新ラウンドでは、木材貿易の自由化推進によって更なる森林破壊が促進されることが懸念されている。近年、日本政府は、WTO交渉でも持続可能な森林経営に向けた努力を阻害しないようなルールの確立を求める立場を取り始めたが、国際的には孤立している。
2000年に、G8首脳によって「輸出及び調達に関する慣行を含め、違法伐採に対処する最善の方法についても検討する」ことが表明されたり、2001年にも「違法に伐採された木材の輸出入が排除されるような方策について追及する」と閣僚会議で宣言され、違法伐採や木材の違法取引における問題の大きさと緊急性が認識された。日本政府も違法伐採に対する取り組みを積極的に主張し始めており、実効力のある適切な対策が行われることが期待されている。
今年4月に開催された生物多様性条約(CBD)の第6回締約国会議(COP6)においては、森林の生物多様性に関する作業計画が採択されたが、今後実施する対策に優先順位をつけたスケジュール作りはできなかった。また、生物多様性が最も高いとされる原生林に優先付けることなく、世界にわずかにしか残っていない原生林を保護するための国際的に重大な機会を逃した。とは言え、森林関連の合意文書の実行を求める声を大きくすることに役立つ可能性があるという意味では、スタート地点としてはいいものになるかもしれない。
かつて原料の90%以上が熱帯材であった国内産合板は、合板業界の針葉樹合板への転換方針により、原料の40%強が針葉樹に切り替わり、熱帯材丸太の需要を減らす一定の効果が得られた。しかし、合板用針葉樹原料の70%以上が極東ロシア産カラマツ材であり、タイガ林の破壊という新しい問題を引き起こしている。また、この10年間で熱帯材丸太の輸入から熱帯材合板の輸入へという変化も見られ、国内で流通している合板の多くは、依然として熱帯材である。
住宅業界は国内最大の木材消費産業であり、世界の森林破壊に対する責任があると同時に、解決に向けての鍵を握っている。大手各社では、熱帯材の不使用、人工林材の利用、パーティクルボードやMDF(繊維板)への転換、取引先の環境に関する取り組む状況の調査など、積極的な取り組みも見られ始めた。しかし、住宅業界には膨大な数の中小企業が存在することからも期待される、業界全体としての取り組みは見られず、依然として世界の原生林・天然林の破壊の大きな要因であり続けている。
1992年に建築業協会は、熱帯材型枠用合板の使用量を1997年までの5年間で35%削減する自主的な方針を立て、この結果、24.3%の削減が行われた。一定のプラス評価をしたいが、会員84社中、取り組んだのは大手の16社のみで、自ら立てた目標も達成されず、協会としての取り組みが終了したことは残念である。
環境団体、林業家、木材会社、先住民団体などによって1993年に設立された民間組織、FSC(森林管理協議会)により認証された森林の面積は1997年頃から急速に増加し、2002年4月現在、全世界で約2800万haに達した。こうしたFSCの活動により、よりよい森林経営を求める消費者の要望が市場や企業の行動を変えることを可能にした。また、各国で様々な政府や業界主導による認証制度が進んだことや、国際会議で認証制度が積極的に論議されるようになったことは、FSCの発展に刺激されたものとも考えられ、その意味ではほとんど成果の見られなかった政府間の取り組みと比べ、より成果が見られた取り組みと言える。
近年、欧米では、原生林から産出された木材の使用を停止し、FSCなどの認証木材を利用する企業が急速に増加している。アメリカでは、すでに主要な50社以上がこうした取り組みを行うことを発表しており、ドイツ、イギリス、オランダのFSC認証木材のシェアは25〜50%に達している。
海外における企業の取り組みの例【アメリカ】 オールドグロス林から産出された木材製品や紙の利用を停止すると発表した企業の例: ・98年12月、アメリカ国内の27社(IBM、デル、Kinko's、ナイキ、3M、レビィ・シュトラウス、ヒューレットパッカード、三菱電機アメリカ、三菱モーターアメリカ等) ・01年1月、ハイテク企業8社(マイクロソフト、インテル、テキサスインスツルメンツ、AT&T、CMGI、3Com、E*Trade、IKONオフィスソリューション) ・大手DIYチェーン店9社(ホームディポ、ホームベースなど) ・大手住宅建設会社3社(Kaufman and Broad社など) 【ヨーロッパ】 ・ イギリスのB&Q社は、オールドグロス林の木材をほぼすべて排除した。 ・ 99年11月、スウェーデンの世界最大家具小売業者IKEA社は、「原生林破壊ゼロキャンペーン」を開始した。 ・ドイツ、イギリス、オランダのFSC認証木材のシェアは25〜50%に達している。 |
・サラワク・キャンペーン委員会は、自治体キャンペーンや油やしプランテーションで土地を侵害された現地先住民族の裁判闘争などへの資金支援などを行ってきた。自治体キャンペーンについては、全国の市民グループと共に、地方自治体に対して公共工事における熱帯材(特にコンクリート型枠合板)の使用削減を働きかけた。東京都、大阪府、神奈川県をはじめとした全国約170の自治体が、何らかの熱帯材使用削減への方針を採択したり、取り組みを行った(1996年時点)。また、全国約50の市民グループが自治体への熱帯材使用削減を働きかけるまでに運動が盛り上がりを見せた。しかし、削減を実施した自治体も、自然破壊が著しいロシア産を中心とする針葉樹合板への転換を図っただけのところがほとんどであった。また、当初は民間への波及効果が期待されたが、いくつか業界団体や大手ゼネコンが取り組みを行ったのにとどまり、業界全体への普及には至らなかった。
・ウータン・森と生活を考える会は、JATANと協議し、共に1990年から自治体キャンペーンを始め、熱帯林きょうとなどと協議して、大阪、兵庫などの自治体に働きかけてきた。今年4月「熱帯木材等の違法伐採木の使用停止策および環境政策について」のアンケートを都道府県と大阪全市へ発送した。ほとんどの自治体が「停止の方策がわからない」状況であり、違法伐採をなくすと回答した自治体は愛知県、堺市のみだったことから、今後ますます自治体に対して違法伐採や原生林材使用停止を勧めることが必要と考えている。
この10年間、各国のNGOとの連携は密になったが、日本各地のグループの力がやや弱まったこともあり、自治体キャンペーンが順調でない。現在使用する外材はどこの会社の材か、どこの国から来た材か、原生林材でないか、再生材か、国産材を使用するかなど今後自治体に迫らねばならないと考えている。
・熱帯林きょうとは、熱帯材合板の使用削減を目指した自治体キャンペーンを京都で行ってきた。その結果、京都府と京都市のそれぞれが、数値を示しての削減計画を発表するに至った。コンクリート型枠においては、多くは複合合板の使用に留まったが、フラットデッキ型枠など非木材型枠への変換も若干ではあるが進んだ。
また、国内の林業にも目を向け、京都・北山にて森林組合の指導のもと下草刈や枝払いなどの林業ボランティアをはじめた。この活動は現在「杉良太郎(すぎよしたろう)」という名の別組織として独立、京都の学生が林業に接する場を提供している。
・熱帯林行動ネットワーク名古屋は、熱帯材削減の自治体キャンペーン、国産材の活用推進のために地場産材による学校家具の普及、間伐材の利用、選挙用のボード変更等の要望を行ってきた。自治体による熱帯材削減については、愛知県、名古屋市、瀬戸市、豊橋市などで成果が見られた。
・熱帯林行動ネットワーク(JATAN)は、インドネシア、カナダ、オーストラリア等の現地調査や関係企業への働きかけ、アジア太平洋地域各国のNGOとの会合の開催などを行ってきた。例えば、タイやインドネシアにおける造林事業計画やパルプ工場建設について、土地を奪われる農民の問題を訴え、製紙連合会やJICAなどとの会合を行ったことは、紙消費と南の国々における産業造林問題に警鐘を鳴らすことができた。森林に関する政府間会議(IPF・IFF等)に対しては、森林条約に反対する国際市民宣言の取りまとめ、森林の減少・劣化の背景要因(underlying causes)を解明するNGO主体のプロセスや、IPF行動提言に関する各国の実施状況をモニタリングするプロジェクトへの参加・報告書作成、ITTO「2000年目標」達成の検証等を行ない、森林問題の根本的な原因を解決することの必要性や、議論より実行が必要であることを訴えるなど、世界のNGOと共に必要な行動を訴えたり、実施状況をモニタリングすることはできた。
・グリーンピースジャパンは、カナダ、B.C.州の原生林で破壊的伐採を行なうインターフォー社などと取引きなどで関る日本企業に対して、働きかけを行った。また、違法で破壊的な伐採を行なうG8諸国の企業の一例として、永大産業に対して「違法伐採木材を買うな!」と抗議したり、富山港にてロシア材を運搬する船を阻止し、G8首脳に対して違法伐採に終止符を打つよう抗議した。カナダ・キャンペーンについては、働きかけを行った企業の内、70社以上がその伐採企業との契約破棄を表明するなど、国内の木材購入企業、消費者に協力を得ながら、伐採企業の姿勢を変え、現地での合意にまで達した。マーケットの関わりを暴き、林産物消費企業に決断させ、現地に影響を与える手法は、一定の成果をあげている。
・FoE Japan(旧地球の友ジャパン)は、極東ロシアの自然保護に注力している間に、重点的に森林問題と森林に依存する少数民族の問題を扱うようになった。1997年に極東ロシアの違法伐採に関する現地調査を行い、これと前後してG7で違法伐採が取上げられたため、ロシアのみならず環太平洋地域の違法伐採に取り組む事となった。政府・業界・消費者団体を含めた枠組みで、情報交換・提言活動を行っている。
WTOシアトル閣僚会議の際に、林産物の貿易自由化阻止を海外のNGOと共同で訴えて以降、海外での持続可能森林経営と、国内での林業活性化を同時に訴える活動を行うようになった。ヨハネスブルグ地球サミットに向け、UNFFなどの国際機関や、日本政府への政策提言活動も行っている。
国際金融機関(世界銀行など)や日本の公的金融機関(JBICなど)の森林開発に関連する融資案件の監視も行っており、未だ目立った成果には至って無いものの、政府や公的機関の透明性や説明責任の推進と言う面では前進が得られたと自負している。市民参加・地域住民参加もその萌芽が見えてきた。
・"We Need the Forest"は、フィリピンミンダナオの伐採地の環境破壊の現状とそれによる地元住民への影響、さらに地元住民による環境運動の展開を紹介したり、現地へ日本からのメッセージや応援声明を送付したりした。現地に対しては、応援声明を送っていることで、バリケード参加者が勇気付けられた由、また周囲に対するインパクトになっている。日本側の理解の促進という点では、ワークショップと現地のドキュメンタリー映像を組み合わせた「ビデオワークショップ」を行い、ワークショップで利害関係者の立場を体験し問題を構造的に把握し、映像で現地の実際の環境被害、住民へのインタビュー、運動の様子を見せることにより、参加者個人の意識の高まりという効果が得られた。
・ヨーロッパの消費者によるカナダ・ブリティッシュコロンビア州の木材ボイコット運動は、同州の森林政策を改善する圧力となった。
・世界中のいくつものNGOにより、違法伐採や木材の違法取引の調査やモニタリングが行われ、そのレポートが各国政府を動かす原動力にもなった。
例えば今後10年間を考えれば、状況が現在のまま変わらなければ、フィリピンやタイのように、森林がほとんどすべて失われてしまったり、輸出国から輸入国に転じてしまう国が次々に現れるであろう。生物多様性を守り、森林に依存する人々の生活を守るために、地域住民による森林利用の権利を認めた上で、森林の減少・劣化の進行を止めるための具体的なスケジュールや数値目標を持った計画を策定し、それに向けた実施とモニタリングを行う必要がある。
国際森林政策
・法的拘束力を持った条約を求めることは、交渉・締結・発効までに10年以上かかり、必要な行動を遅らせるばかりである。また、その内容は交渉の過程で最低限の合意しか得られない可能性が高い。IPF・IFFで合意された行動提言を実施すること。そのために、目標と時期が明確にされた行動計画を作成すること。モニタリング機構を創設すること。
・多国籍企業や一部の有力者の利益だけになるような森林政策や経済政策を撤回し、先住民や地域社会への土地権、森林利用権を認めること。各国の森林政策において、先住民や地域社会の参加を認め、推進すること。
・生物多様性条約を各国の森林政策に反映すること。
・計画的森林利用が確立されるまで、原生林における商業伐採のモラトリアムを行なうこと。
貿易と消費
・更なる森林破壊を招くような貿易自由化交渉を行わないこと。十分な森林保全と地域社会の生活が守られるための世界的な政策合意と対策が行われるまで、林産物の貿易自由化を推進しないこと。貿易交渉は、環境保護に資する内容にすること。
・非木材生産物、森林に生活する人々の伝統的知識、生物多様性等を含めた森林の多様な価値と機能を認め、持続可能な森林経営を達成するために、木材価格を適正化すること。
・需要の適正化を多国間で行い、各消費国は持続可能な森林経営による木材の利用を推進することを約束すること。
違法伐採
・違法伐採を取り締まるための、伐採現場から消費者までの一連の流れを追跡・監視するシステムをつくること。
・違法伐採や汚職を証明することは非常に難しいので、法的な根拠を与えられ、しかも各国政府から独立した国際的な違法伐採取締りGメンのようなものを創設し、現地NGOなどが利用できるようになればよい。
その他
・植林やプランテーションなどの森林開発に対して、環境・社会面の基準の改善を行うこと。
・日本が世界の原生林・天然林破壊に大きな責任があることを認識し、木材生産国の持続可能な森林経営(供給量の適正化)を実現するために、公共事業の削減、住宅、建設、土木事業の削減や中古住宅市場の育成(住宅の修繕、改築のすすめ)、木材再利用の促進などの消費構造の改革を行うこと。また、政府調達などにおいて、認証材の購入推進をはかること。
・国産材を活用するビジョンの設定(雇用対策も含めて総合的に検討する必要あり)と活力のある林業を回復するための改革を行うこと。例えば、公共の土木・建築工事の予算の5%を、日本の林業の再活性化のために回し、木材自給率を上げること。
・通関時に木材の合法性を確認するためのシステムを構築し、実施すること。
・環境省の強いイニシアチブを促し、生態系保護の観点から問題をとらえること。
・民間企業は、利用する木材の生産方法や取引先の環境に対する取り組み状況について調査を行い、自ら積極的に持続可能な森林経営から産出された木材の利用を数値目標(量、期限)を立てて推進すること。
・木材利用効率化のための技術や、持続可能な森林経営による木材の利用推進のための方法等について、個別の会社レベルの取り組みだけでなく、各業界全体としての政策開発や情報整備、技術開発などを進めること。
・持続可能な森林経営を判断するための制度については、林業経営の持続性だけでなく、環境面の保全や、先住民や地域社会の生活や権利についても考慮したものを基準にすること。
・FSCは、地域住民によるコミュニティー・フォレストリーや小さな森林組合が利用しやすい認証の仕組みなどの整備を進めること。
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