世界の森林問題入門コーナー<5>

森林破壊の原因(その3〜その他)

 森林破壊の原因について前回まで、「商業伐採」「農地開発」について見てきましたが、今回はその他の原因として「鉱山・エネルギー開発」及び「薪炭材の採取」を取り上げます。

鉱山・エネルギー開発による影響

 鉱山開発や石油、天然ガス、ダム建設などのエネルギー開発は、世界的には商業伐採に次いで大きな森林破壊の原因となっており、特に南米やロシアで顕著です。

 大規模鉱山開発や石油や天然ガスのエネルギー開発が周辺の環境へ影響を及ぼすことははもちろんですが、開発のために造られる道路も森林破壊の原因となっています。「商業伐採」でも触れた通り、かつては森林に近づけなかった人々がその道路から侵入することが可能になるからです。

 水力発電のためのダムを建設することは、数百万haもの森林を水没させることになり、そこで暮らす野生動物の住処を奪うばかりではなく、河川の生態系を撹乱してしまいます。1964年にブラジルの北隣スリナムに造られたダムの貯水湖(プロコポンド湖)では、原生林1,480km2が水没し、水底の樹木が分解する過程で硫化水素が発生し、ダムの労働者は2年間もガスマスクをつけて作業しなければなりませんでした。また、植物の分解が無酸素分解であったので、ダムのタービンを通過した酸欠の水のため、気絶した魚が80km下流で見つかりました。一方で、腐敗しつつある樹木が水に栄養素を放出する湖は、水草にとって絶好の繁殖地となります。プロコポンド湖では、ダムができるとそれまでその周辺ではまれにしか見られなかったホテイアオイ(この植物は大発生すると湖沼や運河の通行を妨げたり、機械類にからみつくなど多大の損害や不利益をもたらすことがあります)が茂りはじめ、1966年には湖面の半分を覆うまでになりました。スリナム政府は、これらを撲滅するために除草剤を散布し目的を達成しました。

 このように、エネルギー開発がもたらす環境への影響は、開発する規模が大きいだけに、取り返しのつかないことになりかねません。

薪炭材は森林破壊の元凶か?

 薪炭材の採取は、前回取り上げた焼畑とともに、熱帯林破壊の元凶であるとの主張をよく見かけます。それは、「熱帯雨林減少の原因は、その半分以上が地元住民の燃料としての利用であり、日本などへ輸出している産業用木材の割合はたった数%に過ぎない」といったものです。しかし、薪炭材の消費量と産業用木材の生産量を単純に合算して、そのうちの薪炭材の占める割合をそのまま熱帯林消失の原因であるとすることは、認識不足と言わざるを得ません。

 薪や炭などの燃材は、家計調査に基づいて一家族における消費量に人口をかけて算出されており、森林で伐採される木材生産量から算出されるわけではありません。また、燃材は二次林(人が一度手を入れた後再生した森)、しかも地域住民の耕作地で採取されるものが大半です。さらに、枯れ木を拾い集めたり、枝木をはらったりして採取することが主で、大木を伐採して薪炭材として利用することは少ないのです。

 確かに、半乾燥地域で、人口密度が非常に高く、人々が生存のためにやむを得ず生木を切り取っていくことで砂漠化が進行するケースはあります。また、その採取量が過度になった時に、動植物の生息地が壊されたり、土壌浸食によってその地域を流れる川に土砂が流れ込み、堆積する被害を及ぼす場合もあります。しかし、東南アジアの熱帯雨林において薪炭材の採取が森林破壊の原因となっているというデータはありません。

 このように、地域によって状況は異なるものの、薪炭材の採取が必ずしも森林破壊に結びついているわけではなく、生産量の大きさを単純に比較することによって森林破壊の原因を論ずるのは全くの誤りです。■

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