インターフォー社に破壊されるクラクワット・サウンド

〜カナダから2人のシーカヤッカーが来日〜

 1月31日から2月11日にかけて、カナダから2人のシーカヤッカー、ダン・ルイスさんとボニー・グラムベックさんが来日しました。環境団体「クラクワット・サウンドの友」のメンバーでもある2人は、パタゴニア社主催によるスライド&トークショーを行ったほか、現地の伐採会社インターフォーと取引のある日本企業を訪問しました。ブリティッシュ・コロンビア州では、昨年いくつかの環境団体の活動により、グレートベア・レインフォレスト地域の半分が保護されるに至りましたが、クラクワット・サウンドは未解決のままです。2人がスライド&トークショーで話した内容を中心に報告します。

BC州に残る温帯雨林

 私たちは、バンクーバー島の西海岸のほぼ中程にあるトフィーノという村から参りました。バンクーバー島は、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州南西部にあります。

 私たちは、カヤックによる旅を25年前から行っています。今回お見せするスライドは、1996年9月に、バンクーバー島の北端から西海岸を下ってトフィーノまでを30日間かけて回ったときのものです。

 温帯雨林は、アメリカのカリフォルニア州からアラスカに至る海岸部に分布しています。かつては、全世界の陸地の0.2%を占めていましたが、今やその半分が失われてしまいました。残っている温帯雨林の25%がBC州に存在しています。保護されている面積は、5.8%に過ぎません。バンクーバー島の温帯雨林は、その75%が皆伐によりすでに失われてしまいました。海岸部には古代からの森(原生林)が残っています。クラクワット・サウンドは、バンクーバー島に残る温帯雨林の中で最も大きな地域で、BC州の他の地域より大きな樹木が繁殖しています。

 温帯雨林にはたくさんの人がハイキングに来ます。地面はぬかるんでいるため、足を取られて靴をなくしてしまう人もいます。私たちのカヤックは古いタイプのものです。1ヶ月分の備品を詰め込むのに苦労しました。川を下ってカヤックの旅を開始し、海に出ました。

↓シーカヤックの様子(写真:Dan Lewis)

最も破壊的なインターフォー社

 9月は平年ですと、天気も良く波も穏やかな季節ですが、96年は天気が良くなく、旅も大変でした。波が高く、嵐にあったりもしました。波が岩に当たると、10mくらいのしぶきが上がったりしていました。

 海岸沿いは原生林が残されていますが、皆伐されたところも見られました。かつての皆伐は面積が大きかったのですが、最近のものは小さくなっています。山の斜面のすべてが皆伐されているところも見られました。レッドストレート山の斜面は、1980年代に皆伐されました。伐採を行っているのはインターフォー(International Forest Products)と言う、BC州の中でも温帯雨林を伐採している最も破壊的な会社です。

 この地域は、1万年前は厚さ1kmの氷河に覆われていました。従って、土壌の栄養分は多くありません。科学者は、なぜ大木が育つのか不思議に思っていました。最近になって、その答えが見つかりました。サケが太平洋から川に戻った時に栄養分をもたらすのです。サケはクマや様々な鳥のエサになります。クマの糞や死骸が栄養分になるのです。土壌が薄いので穴が掘れませんから、クマは大木の洞を使って冬眠をします。従って、大木にできる洞がないと、クマも生きていけなくなります。

 温帯雨林に依存して生きている動物は他にもいます。ローズベルトエルク(ヘラジカ)は、夏は山の高地で過ごしますが、冬になると森へやってきてエサを探します。この動物は絶滅に瀕しています。マダラウミスズメ(Marbled Murrelet)という海鳥は、木の枝の上に巣を作って卵を産みます。巣は30kmの範囲からコケを集めてきて作ります。こうしたことがわかったのは、たった10年前のことです。他にも、木の皮がガンの治療薬になるとか、樹冠に何百種類もの新種の昆虫が発見されたりしていますが、それがどれだけ存在しているのかまだわかっていません。私たちは森のすべてをまだ知らずに破壊しているのです。存在している生き物のすべての重さを表すバイオマス量を単位面積当たりで調べると、クラクワット・サウンドは世界で最も高いことがわかっています。もちろん、すべての生物は炭素を蓄えていますから、それが破壊されて大気に放出されると、地球温暖化の原因になります。

 ↓クラクワット・サウンドの原生温帯雨林(写真:Mark Hobson)

 クラスキッシュ渓谷には、バンクーバー島に生息する5種類のサケのすべてが見られます。この谷は、最近インターフォー社によって伐採されました。この谷を守るために10年間闘ってきましたが、守れませんでした。バンクーバー島には170の大きな谷がありますが、そのうち手が付けられていないものは現在10ヶ所しかありません。この谷が最後の11番目になってしまいました。とても残念です。

 パックストン山は、1980年代にインターフォー社によって伐採されました。1992年にNational Geographic社が世界中の伐採地を調査したとき、この地域の伐採が最悪であると雑誌に紹介されました。

 カユケット村は漁村で、伐採の影響を受けています。近くの小さな島には、様々な鳥やラッコが見られる小屋があります。北米西海岸では、ラッコは1900年代初頭にほとんど絶滅しましたが、1979年にアラスカで生き残っていたラッコをバンクーバー島に移した結果、今では島の西岸部の至る所で見られます。

 ヌッカ島は、大半が皆伐されてしまいました。現在、西部を保護区にしようとしています。ここではオオカミが見られるかもしれないと友人に言われていましたが、朝起きてみるとテントの周りにオオカミの足跡がたくさんありました。海では、ホククジラが見られました。このクジラは、アラスカからメキシコまで旅をすると言われています。私たちは、こうした野生動物が近くにやってきたことをとても嬉しく思います。

 クラクワット・サウンド北部のエスカランテでは、浜辺にクマを発見しました。クマは石の下にいるカニを探して食べているところでした。私たちは隠れて見ていましたが、私たちの匂いに気付くと、クマは驚いて森に逃げました。

 クラクワット・サウンドは26万haの広さがあり、1ヶ月の旅ではすべてを見ることはできません。2000年には、ユネスコによって生態系保護区に指定されました。しかし、州政府は保護することなく、いくつかの場所がインターフォー社によって5年以内に伐採されることが予定されています。私たちはそれを何とか止めたいと思っています。

↓インターフォー社による伐採。皆伐でないように見せるために、
一区画の樹木を残している。(写真:Valerie Langer)

「原生林を使わない」世界の流れ

 とても古く大きな木が伐採されていることを、私たちは信じられません。1000年から1500年かけて育った大木も、伐採者は30分で伐って30分の賃金を手にします。伐採後は植林が義務づけられていますが、うまくいっていません。植林は80年の周期で伐採されることになっているので、温帯雨林が戻ることはありません。

 伐採された木材は、ヨーロッパやアメリカ、日本に輸出されます。この世界で最も高品質な木材は、半分が建材として、残りの半分がパルプとなり、新聞や電話帳、トイレットペーパーのような簡単に捨てられるものになっています。

 カナダでは、森で起きていることを心配している人々がたくさんいます。世論調査では、BC州の77%の人々が、原生林の伐採は即時に中止するか段階的に中止するべきであると考えていることが明らかにされています。1993年には、森が破壊されていることに対して1万人が抗議行動に参加し、約千人が逮捕される事態が起こりました。その後、私たちはカナダ国内の活動だけではなく、海外の消費国での活動を始めたのです。

 アメリカの最大手ホームセンターであるホームデポ社は、2002年末までに原生林から産出された木材の利用を停止し、認証された木材を使うことを約束しました。このような、「原生林材を使わない」ことを約束した企業は、欧米で急速に増えています。日本では、昨年70以上の企業がインターフォー社との取引を中止したことにより、インターフォー社がNGO側とグレートベア・レインフォレストについての交渉のテーブルにつく結果が得られました。インターフォー社は、需要があることを理由に伐採を続けています。ですから、日本がこうした木材を買いたくないと言えば、伐採会社の行動を変えることはできるのです。そして、日本の企業の購買行動を変えるためには、日本の消費者が大きな力を持っています。私たちは、まず、原生林だけを伐採しているインターフォー社との取引を中止し、カナダ東部やアメリカの二次林材を利用すること、そして、将来的にはFSCなどの認証された木材の利用を推進することを提案しています。■

※クラクワット・サウンドの友HP:http://www.ancientrainforest.org/ (現地の写真も見られます)

違法材・原生林材不使用キャンペーン | 現地で撮影した写真

ニュースレター記事一覧 | ホームページ

© 1999-2003 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)