小谷茂樹
今年の2月15日から28日にかけて、森林の最新の状況を調査するためにインドネシアを訪れる機会を得た。ジャカルタやボゴールのNGOを訪問して聞き取りを行ったほか、東カリマンタンのクタイ国立公園とマハカム川中流域を訪れ、森林の調査や地域住民に対するインタビューを行った。今回は、この中からクタイ国立公園の調査で得た情報を報告する。
インドネシアには、1998年現在で38ヶ所の国立公園が設置されている。しかし、ほとんどの国立公園では、違法伐採や違法入植が行われていると言われている。クタイ国立公園も例外ではなく、近年になって公園内に道路が建設されたこともあり、違法入植や違法伐採が急増している。
クタイ国立公園は、海岸沿いの町ボンタンを南限、サンガタ川を北限とする約20万haの地域である。この国立公園の歴史は古く、オランダ統治時代の1934年に200万haが保護地区に指定されたのが最初で、1982年にほぼ現在の地域が国立公園として指定された。公園内には、オランウータン、テングザルなどの11種類の霊長類をはじめとする100種以上の哺乳動物、サイチョウをはじめとする300種以上の鳥類のほか、この地域にしか見られないバンテン(家畜牛の祖先)など、数々の野生動物が生息している。植物も500種以上が繁殖しており、木材として重用されている樹木としては、メランティやウリン(堅いため鉄木と呼ばれている)が多く見られる。
まず公園管理事務所を訪れ、公園の現在の状況を尋ねた。
現在、この公園は伐採、狩猟、火災、入植のほか、公園外部から侵入する採鉱業に脅かされているという。公園内の居住者は、1998年現在で約3500人。古くから公園内に居住している合法な居住者もいるが、近年になってスラウェシ島など外部から入植してくる違法な居住者が増えている。また、公園の周辺は、伐採、プランテーション、採鉱業などの7つの会社に取り囲まれている。
概要を聞いた後、公園職員のラフマン氏に同行してもらい、ボンタンとサンガタを結ぶ道路沿いを視察した。「ここが公園の入口だ」という場所には、確かにゲートはあるが、公園の内外の状況は全く変わっていない。公園内の道路周辺には、火災によって焼けた木々や、入植者によって植えられたバナナなどが見られるだけだ。所々に、伐採され無造作に置かれた木材が見られる。ほとんどが黒っぽい色をしたウリン材である。堅いため、高く売れると言う。森林内からの木材の運び出しのために水牛が利用されている風景も見られた。なぜ取り締まれないのだろうか?
「公園内に5ヶ所の駐在所があり、公園事務所の職員は合計で104人いる。人々の生活もあるが、私たちは法を執行しなければならない。しかし、取り締まりを行うと、駐在所が焼かれてしまったりする。最近、人々はとても無謀になっている」
ラフマン氏は住民との衝突を避けるため、同行中は制服を着ていなかった。
しかし、道路周辺は全くひどい状況で、とても国立公園とは思えないような光景が続いている。かろうじて、駐在所周辺にいい状態で残されている地域があった。森の中を少し歩いてみた。すると、それほど遠くないと思われる所からチェーンソーの音が聞こえる。そもそも、公園内に道路がつくられたこと自体がおかしいのではないか?
「最初の道路がつくられたのは1994年。その後、1999年に舗装されていい道路になった。確かに、道路がつくられたことが最も大きな原因だと思う」
対策はないのだろうか?
「人々の住んでいる地域を囲んでしまう方法が考えられる。でも、できるかどうか、うまくいくかどうかはわからない」
実のところ、クタイ国立公園よりひどい例はたくさんある。中央カリマンタンのタンジュン・プティン国立公園では、違法な木材工場を所有する会社が関係した組織的な伐採が行われているし、西カリマンタンのグヌン・ポルン国立公園も、タンジュン・プティン国立公園と同様の状況になりつつある。北スマトラのグヌン・ルーサー国立公園は、すでに半分が伐採されてしまったと言われている。他の国立公園でも、伐採、プランテーション、採鉱業などが行われており、伐採が行われていない国立公園は、1つだけであるとさえ言われている。
インドネシアの保護地域は、1970年代後半以降、急速に増加し、表面的には保護政策が進んだように見える。しかし、その実体はひどい状況であるという報告は数多くある。■
クタイ国立公園で撮影した写真 | 「待ったなし」状態のインドネシアの森林〜後編〜
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