より深刻な影響をもたらす泥炭湿地帯の森林伐採

小谷茂樹

 インドネシアのリアウ州で伐採と紙パルプ生産を行っているAPPとAPRILは、違法伐採や保護価値の高い森林への対策といった取り組みを見せる一方で、天然林の伐採を着々と進めている。

 リアウ州南部を流れるカンパール川下流域には広大な湿地帯が広がっているが、この地域でもいくつもの産業植林権が認可され、天然林の伐採が行われている。今年10月、この地域のケルムータン、トゥルク・ビンジャイ、プラウ・ムダの3つの村を訪問し、紙パルプ会社による伐採について、村人への聞き取りや現場の視察調査を行った。

産業植林権と住民の土地権をめぐる争い

 カンパール川下流域には、ケルムータン自然保護区が設定されている。さまざまな鳥のほか、スマトラトラやワニなどが生息しているという。

伐採会社によって建設された運河(ケルムータン村)
伐採会社によって建設された運河
(ケルムータン村)
 ケルムータン村は、ケルムータン自然保護区の南側に位置している。この村には約1000家族が暮らしており、ゴム樹液の採取、漁業などを行っている。この村で、ミトラ・タニ社が7,200haの産業植林権を得て、天然林の伐採とユーカリの植林を2003年11月から開始した。これはAPRILグループのRAPP社との共同事業であるという。伐採現場では、見渡す限りの森林が皆伐されていた。この森も、自然保護区の近くに位置していることを考えれば皆伐するような森ではなかったであろうことは容易に想像できる。この地域に限らず、スマトラやカリマンタンの湿地林は、深刻な消失の危機に瀕している。

 ミトラ・タニ社の操業をめぐっては、村人との対立が起きている。村人はこの会社が得た産業植林権地のうち1,100haの土地は村人に所有権があると主張していた。会社との話し合いの結果、会社は村人のために350haのアブラヤシを植えた土地を与えることを約束したが、現時点でそれはまだ実現していない。私たちが訪問した週にも村人は抗議を行ったが、会社側は軍や警察を用いて抑えるという。

 トゥルク・ビンジャイ村は、カンパール川沿いのケルムータン自然保護区の北側にある。私たちは、カンパール川とスマトラ島を縦断するハイウェイの交差地点から、モーターボートで川を2時間ほど下り、この村を訪問した。

伐採された木材
伐採された木材
 この村では、セララス・アバディ・ウタマ社が2,800haの産業植林権を取得した。まだ伐採は開始していないが、その準備を進めている段階である。こちらもAPRILグループのRAPP社との共同事業である。会社と村人の間では、2,800haのうち600haで会社と村人によるアブラヤシの共同経営を行なう話が進められていると聞いたが、村人にとって利益となる結果が得られるかどうかは見通しが立っていないという。これまでの調査でも、産業植林権を取得した会社が村人との約束を無視して天然林の伐採を進めるという話を、いたるところで聞いてきた。会社が約束通り村人との共同経営を進めると思うかどうかを聞くと、村人のほとんどは会社の伐採や植林事業そのものを望んでいないという答えが返ってきた。

 ケルムータン自然保護区の東側には、いずれもAPPグループのサトリア・プルト・アグン社とアララ・アバディ社に産業植林権が認可された土地がある。プラウ・ムダ村は、その北東に位置している。私たちはカンパール川をさらに下って、この村を訪問した。

 プラウ・ムダ村には813家族が暮らしており、陸稲、ココヤシ、トウモロコシなどの農業や漁業を営んでいる。サトリア・プルト・アグン社は、1997年に産業植林権を得て天然林の伐採を始めた。この認可された土地でも、以前から村人が利用していた土地としてムラワン川周辺の1,600haの所有権を主張しており、両者の対立は続いている。

 トゥルク・ビンジャイ村の東隣に位置するトゥルク・メランティ村の村長は、「会社は伐採と産業植林を行なうばかりで、マフィアのようだ。会社は政府と話をするばかりで、地域住民とは関わらない」と言う。政府からの認可は受けているとはいえ、地域住民の権利が侵害されているという構図は、ここでも変わらないようである。

泥炭湿地帯における伐採の影響

 リアウ州の東側海岸沿いには広大な泥炭湿地が広がっている。泥炭湿地とは、海岸や河川沿いの低地に分布し、雨季には冠水した状態になることから、倒木や枯れた植物が数千年にわたって分解されずに泥炭となっているものである。スマトラ島東岸では、南部のランポンから中央部のリアウまで、幅100km、長さ1,000kmという規模で広がっている。大規模な森林火災が発生した1997年には、乾燥した泥炭層に火が入ったために完全な消火が困難となり、森林火災が長期化する原因にもなった。

地盤沈下によってむき出しになったココヤシの根(プラウ・ムダ村)
地盤沈下によってむき出しになった
ココヤシの根(プラウ・ムダ村)
 湿地帯における伐採の特徴は、伐採した木材を運搬するために運河を建設して小船を用いることである。運河の幅は8〜10m、深さは4mにもなる。この運河が造られたことによって、泥炭層内の水や物質がしみ出して運河から本流の川へと流れ込み、河川の魚や村人が行う農業にも大きな影響を与えている。

 湿地帯に雨が降ると、雨水は泥炭層を通って運河にしみ出す。泥炭層には硫黄分が含まれているため、水は酸性を帯びる。ケルムータン村では、こうした水が川に流れ込むことによって、ほとんどの魚が死んでしまったという。運河が造られる前に比べて、漁獲量は半分以下になり、またシライスという高価な魚も影響を受けるなど、生活は苦しくなっているという。

 トゥルク・ビンジャイ村でも、今年の8月から木材を運搬するための運河の建設を始めており、その影響もすでにみられている。運河建設による水質悪化により、魚は小川から消え、漁獲量も減った。漁業で生活している家族は村人の約1割を占めており、そうした村人らは運河の建設が続くことによって影響が大きくなることを心配している。運河の建設は農業へも影響を与えている。運河によって泥炭層内の水や栄養素が流れ出してしまうため、農作物の育ちが悪い。村では、生育の悪いトウモロコシなどが見られた。また、泥炭層の乾燥によって森林火災も起きやすくなったという。

 プラウ・ムダ村でも、小川が運河で寸断されることによって水が干上がってしまい、魚が消えたという。泥炭層内の水分が失われることによって地盤が沈下し、ココヤシの根がむき出しになっている光景も見られた。運河が造られる前は、このようなことはなかったという。

 インドネシアでは泥炭層の深さが3m以上の場所では伐採が規制されているが、現在認可されている産業植林権がこの規制に違反している可能性も指摘されている。会社による調査では最大2mと報告されているが、NGO国際湿地保全連合の調査では、ほとんどの地域が4m以上と報告されている。今回の訪問でも、長さ3.7mの棒を運河の底に打ち込んでみたところ、棒の上端は地面より1m近く下まで打ち込まれた。

リアウの森林は完全に食いつぶされるのか?

 今回、初めて湿地帯の伐採現場を訪れたが、湿地帯における伐採には特有の環境への影響があることがわかった。この地域に限らず、APPとAPRILの工場があるリアウ州では、海岸部の湿地帯のさまざまな場所で紙パルプ用の伐採が行なわれている。川沿いにAPPの工場があるシアク川では、大量の伐採木材を積んだ荷船がひっきりなしに見られる。

 湿地帯の伐採は、地球環境へも影響を与える。泥炭層が乾燥すると、これまで冠水によって分解されていなかったものの腐食が進むため、大量の二酸化炭素を大気に放出する。地球上の炭素の約5%が熱帯地域の泥炭層に蓄積されていることを考えると、地球温暖化への関わりも大きい。

 現地NGOジカラハリの調査によると、APRILグループのRAPP社は今年、海岸部に新しく建設した港と工場を結ぶために、原生林を切り開く道路を建設した。同社はまた、カンパール半島のカンパール川沿いや海岸沿いなど、合計21万ha余りもの土地について産業植林権を政府に申請している。APRILには、リアウ州北部に新しい工場を建設する計画もあるらしい。

 現在、リアウ州では土地利用計画の改訂を検討中である。その案では、現在60万ha認可されている産業植林権の面積を250万haまで拡大しようとしているそうだ。こうした計画が進めば、リアウ州の天然林は、保護規制のある一部地域を除いて完全に失われ、産業植林地だらけになってしまうであろう。

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