小浜崇宏
環境への負荷が少ない製品等の優先的な購入を進める企業、行政、民間団体のネットワークであるグリーン購入ネットワーク(GPN)は10月28日、印刷・情報用紙の改定ガイドラインを発表した。今回の改定で、紙原料に関する項目は古紙の利用のみだったこれまでの同ガイドラインに、バージンパルプの環境配慮に関する項目が新たに加えられた。
紙生産において古紙を利用することは、廃棄物を削減するほか、資源の有効利用になる。しかし、古紙は再利用を重ねるに従って繊維が劣化するため再利用の回数には限界があることなどから、バージンパルプの利用をゼロにすることはできない。
一方、バージンパルプの原料は、適切に管理された森林からのものであれば持続可能であるが、多くは豊かな生態系を育む森林の破壊や天然林の皆伐などの問題があり、紙製品の購入においてもバージンパルプ原料に対する環境配慮が必要である。
今回改定されたガイドラインでは、原料産出地(木材伐採地)の法律・規則を守って生産され、森林認証材や植林材、再・未利用材等からつくられたものを「環境に配慮したバージンパルプ」とした。古紙と環境に配慮したバージンパルプの関係については、それぞれのメリットがあり、優劣をつけられないことから並べて記載することとし、両者の利用率の合計値が高い紙製品を優先して購入することとした。
改定後の印刷・情報用紙ガイドライン1)以下のパルプを多く使用していることA 古紙パルプ B 環境に配慮したバージンパルプ @原料となる全ての木材等は、原料産出地(木材伐採地)の法律・規則を守って生産されたものでなくてはならない A森林環境に配慮した「森林認証材」や「植林材」、資源の有効利用に資する「再・未利用材」等からつくられていること B塩素ガスを使わずに漂白されたものであることが望ましい(ECFパルプ等) 2)製造事業者が、原料調達時に産出地の状況を確認して持続可能な森林管理に配慮していること 3)塗工量ができるだけ少ないこと 4)リサイクルしにくい加工がされていないこと |
今回のガイドライン改定にあたっては、「『パルプ原料についての環境配慮』項目の見直しに関するタスクグループ」として、GPN会員の中から34名のメンバーが集められた。製紙会社、流通会社、印刷会社、一般の紙購入会社、自治体などのほか、環境・消費者団体からも私を含む7名が参加し、昨年11月から今年7月まで9ヵ月にわたって会合が開催された。
今回のタスクグループでは、メンバーのそれぞれの立場からさまざまな意見が出され、熱い議論が交わされた。特に議論となった点は、「環境に配慮したバージンパルプ」をめぐる原料の分類方法や、生産地情報の掲載についてである。
タスクグループおよびその間に開催された改定案作成のための小ワーキンググループ会合で、製紙会社4社のメンバーは「持続可能な管理が行なわれている森林から取得されたもの、および他用途向け原料の残材または再利用材」として、森林認証材、植林材、二次林材*、製材残材等をあげた。これに対してJATANなどのNGOメンバーは、二次林材には環境に悪影響を与えているものが含まれていること、植林材であっても森林管理の状態が問われること、森林管理の状態を確認するために生産地の情報を入手できる方法を提供すべきであること、森林認証についてはさまざまな制度の信頼性を評価する必要があることなどを主張した。
* 天然林は、自然のままで人手が加えられていない原生林と、災害や人為によって破壊された後にその土地本来の自然植生が発達した二次林に分類される。
パルプ原料の生産地の環境や社会に悪影響を与えるものとして、保護価値の高い森林の破壊や、天然林の大規模な皆伐やその後の単一樹種による植林などがある。原生林だけでなく、二次林でも豊かな生態系を形成しているものもある。二次林であっても皆伐や植林に転換すれば、生態系の破壊となる。また、植林材、二次林材といった分類は、あくまで森林管理の状態を判断する「目安」にすぎない。バージンパルプの原料が適切な森林管理の下に伐採されたものであるかどうかについては、生産地の情報を確認する必要がある。NGOメンバーは、製品ごとの生産地情報をデータベースに掲載すること、製紙会社に対する原料問合せフォーム(チェックリスト)を添付すること等を提案した。
しかし、製紙会社のメンバーは、使用するパルプ原料の生産地は時期によって変わること、生産地は多岐にわたるため情報量が多すぎて購入時の判断指針としては不向きである等として、生産地情報の提供については反対した。また、紙を購入する一般の会社からも、生産地がわかってもそれだけでは判断できないという意見が多かった。
バージンパルプに関する環境配慮事項を入れるのは今回が初めてで、その背景や現状についての認識はまだ広がっていない。また、GPNは2,800以上の団体が参加する大きな組織である。多くの会員にわかりやすく実行しやすいガイドラインでなければ、効果も得られない。
以上の判断から、ガイドラインには環境に配慮したバージンパルプとして森林認証材、植林材、再・未利用材等からつくられたものをあげることで合意したが、ガイドラインの背景説明にはこれらが「目安」であることが記載された。二次林材については、「環境への影響等の面において議論が生じている場合もある」との理由で、環境に配慮したバージンパルプからは外された。また、植林材については、背景説明に「天然林の大規模な皆伐を行った後に単一樹種による一斉造林を行った植林地等については、適切な森林管理であるとはいえないことが指摘されている」と記載され、森林認証材については、製品データベースに取得した認証制度名を記載し、購入者が選択できるようにした。原料の生産地については、事業者ごとの情報掲載にとどまり、製品ごとの情報は見送られることになった。
今回、GPNで初めてバージンパルプ原料に関する環境への配慮事項が盛り込まれたことによって、古紙利用だけが注目されバージンパルプ原料に対する配慮がほとんど行われてこなかった日本社会の流れを大きく変えることになったと考えている。合計10回にわたる会合に参加することによって、伐採による環境への影響や森林管理などに関するNGOとしての考え方を示してガイドラインに盛り込み、製紙会社など他のメンバーに知らせることもできた。
環境に配慮したバージンパルプが材の種類にとどまったのは不十分であることは否めないが、これによってパルプ原料に関する基本的な知識が広がり、今後、詳細な情報を確認する必要があるという認識が生まれてくるものと考えている。
GPNデータベースの利用方法の提言以下の利用率(の合計)が最も高いものを優先して選択
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GPNのガイドラインでは古紙と環境に配慮したバージンパルプに優劣をつけないことになったが、GPNのホームページに掲載される製品データベースには、それぞれの原料の利用率が掲載される。そこで最後に、GPNデータベースの利用方法について、私からの提言をしたい。
古紙や製材残材などの再・未利用材は資源の有効利用になる。
森林認証材については、認証基準が低く信頼性に欠ける制度もあることから、データベースに掲載されている制度名を確認する必要がある。JATANではFSC(森林管理協議会)が唯一信頼できる認証制度であると考えている。その他の認証制度については、基準が低く、破壊的な伐採を容認しているなどの問題がある。特に、オーストラリアの森林認証であるAFSや、AFSを承認しているPEFCによるものは、天然林の破壊が問題となっているタスマニアのガンズ社からのものが含まれている可能性があるので、注意する必要がある。
植林材はそれだけでは森林管理の状態がわからない。日本の製紙会社は海外他社からも原料を購入していることから、天然林を皆伐して転換したものや、周辺の生態系に悪影響を及ぼす化学薬品等を使ったものが含まれている可能性がある。こうした問題がないことが確認できない場合は、次善の選択肢として考えた方がいいだろう。
私は、GPNのガイドラインより慎重な態度をもって、古紙、再・未利用材、FSCによる認証材の利用率(の合計)が最も多いものを優先して選択することを提言する。
※ガイドラインの詳細と製品データベースは、http://www.gpn.jp/に掲載されています。
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