小浜崇宏
今年6月、イギリスをはじめとしたヨーロッパにおける木材調達の方針や違法伐採対策の取組み状況について現地調査を行なった。認証材の利用や違法伐採対策の論議においては、世界で最も進んでいるのがヨーロッパであるのは間違いない。今回の調査で、この動きの中心的役割を演じているのがNGOであることがよくわかった。
イギリスには、地球の友、グリーンピース、EIA、グローバルウィットネス、WWFなどのNGOが活躍しており、政府への政策提言や企業への働きかけなどの面で大きな役割を演じている。
今回私たちが訪問した企業はいずれも、グリーンピースや地球の友のキャンペーンや働きかけを受けて、木材調達の取り組みを始めていた。木材輸入業者のティンメット社は、地球の友からの強力なキャンペーンを受け、リスク管理の一環として環境方針を策定した。DIY店のB&Q社は、1990年に地球の友が熱帯木材の購入に反対するキャンペーンを行っていた時、ジャーナリストから「B&Qの商品のどのくらいが熱帯雨林からきているのか」という質問を受け、それに答えられなかったため、1991年に木材購入方針を策定した。百貨店のマークス&スペンサー社は、昨年秋にグリーンピースが訪問して、取り扱っている庭用家具の木材が持続可能な森林から来ていることを担保するための行動を求めたため、FSC取得に向けた取り組みを進めている生産者からの木材購入を進める非営利組織、熱帯林トラスト(TFT)に加盟した。
地球の友は、イギリスの主なスーパーマーケットについて、有機食品、農薬対策など、いくつかの分野の取り組みについて順位付けを示したカードを作成している。これは消費者にとって非常に便利であり、企業も低い順位付けをされないよう、競って取り組みを進めるという結果を生んでいる。もちろん、この順位付けの背景には何百ページにも及ぶ裏づけがあるわけで、そうした調査能力があってはじめてできるものである。
企業の担当者は、NGOやNGOのキャンペーンによって動かされた一般の人々(顧客)による影響が最も大きいと言う。投資家も、NGOの活動に関しては非常に敏感であり、社会的な批判にさらされるリスクを持たないよう、企業に対して強く求めている。これらが、企業が環境への取り組みを進める大きな要因になっており、企業にとっても取り組みを進めることは、「コスト」ではなく、評判や売り上げ・株価を維持したり、リスクを回避するための「投資」であると考えている。
日本のNGOとは桁違いの数の会員に支えられ、やはり桁違いの数のスタッフが働くNGOの存在や、政府や企業がNGOに対して真摯な姿勢で取り組む関係は、民主主義を自らの手で獲得した古い歴史を持つ文化を実感するし、NGO活動の理想的な姿であると思う。未だ「お上意識を持つ文化」から脱していない日本が、同様な活動手法を獲得できるのは、恐らくまだ長い年月が必要だろうが、政府・企業に対してモノを言うことができるNGOを強くしていくには、会員数の拡大や、NGOに対する人々の認識を高めていく必要があると、改めて感じた。■
© 2004 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)