シンポジウムを開催!

森林環境に配慮した木材調達の進め方

 昨年11月、JATANはFoE Japan、地球・人間環境フォーラムとともに、海外の違法伐採や原生林伐採の現状、欧米における違法材や原生林材を使用しない木材調達方針の取り組みを紹介し、日本国内で同様の木材調達方針を推進していくためのシンポジウムを開催しました。インドネシアとロシアのNGOからの招待者に加え、グリーンピースジャパンが招待したパプアニューギニアの住民からは違法伐採などの現状を、同時期に来日したカナダのNGOからは原生林伐採の現状と企業による木材調達方針を、イギリスの木材貿易業界からは違法材を扱わない方針のほか、日本の木材業界とNGOからそれぞれの取り組みについてお話しいただきました。2回のシンポジウムには、企業の担当者や一般の方々をはじめとして、合計約220名の参加が得られました。

 このシンポジウムの講演の中から、カナダとイギリスにおける木材調達方針に関する話題を中心に報告します。(2つのシンポジウムのすべての講演をまとめた報告書は3月頃発行予定)

カナダの原生林における環境的・文化的重要性と企業による取り組み

            ダン・ルイス(カナダ・クラクワットサウンドの友、カヌーイースト)

 私はカナダのNGOである「クラクワットサウンドの友」の一員として参りました。クラクワットサウンドはブリティッシュコロンビア州にありますが、そこの原生林を守ろうというNGOです。

カナダに残る原生温帯雨林

 今では良く知られていることですが、世界の森林が危機に直面しています。かつては、北米、南米、ヨーロッパの広い地域、南アジアの広い地域を原生林が覆っていたのですが、今ではその内の20%しか残っていないので、私たちはそれを守る義務があります。

 カナダの海岸の温帯雨林は珍しいエコシステムでして、もともとは地表の0.2%をカバーしていたシステムです。しかし、このシステムの森林の55%はすでに消失しており、残っているエコシステムの25%がブリティッシュコロンビアにあります。クラクワットサウンドはバンクーバ島の西側にありますが、世界に残っている温帯雨林の中で、最も広く、最も重要な地域です。

 クラクワットサウンドは生態系バイオマスの量が多く、二酸化炭素の吸収源としても非常に大きな生態系となっています。最近、ユネスコの生物圏保護区に指定されました。生えているスギの中には2000年も経っているものもあります。これらはクラクワットサウンドにとってなくてはならない観光資源です。そして3つの先住民の部族が住んでいます。

 ところが、商業伐採で木は失われていきます。すでに、バンクーバ島の75%の原生林がクリアカット、つまり丸坊主になってしまいました。山は非常に険しい地形なので、表土は薄いのです。年に6000ミリの雨が降るので、土地の劣化が問題になっております。土砂が流され、サケが上ってくる川にも土砂が溜まります。

 1995年にブリティッシュコロンビアでは森林行動規制を制定しました。インターフォーという会社が96年にグレートベアレインフォレストで行なった伐採方法は、この規制の中で認められている方法であると言われています。しかし、その木が育っても、80年の内にまた伐採するという計画です。いったん伐採されると、このような温帯林は二度と元の状態には再生されない、というのが私たちの主張です。

 クラクワットサウンドでは規制はさらに厳しくなっております。専門家の諮問委員会の勧告もあります。しかし法的拘束力のない、単なる勧告です。ですから、勧告の大半は実行されないで終わってしまいます。新しいブリティッシュコロンビアの規則では、伐採面積が減っただけで伐採量は減っていないことになっています。森林庁の推定では持続可能な限度を20%としていますが、これを超えた状況にあります。インターフォー社の社長も、この規則がうまくいっていないと認めています。持続可能な林業のモデルではないというのです。

NGOの活動と企業の取り組み

 ブリティッシュコロンビアの住民の77%は原生林の伐採を段階的に止めていくことを支持しております。カナダは民主主義国家ですから、住民の77%が支持すれば伐採はなくなるだろうとお思いになるでしょう。しかし、伐採業者は政治力を持っており、献金による政府への影響力が強いのです。政府は住民には耳を貸しません。1993年には1万人がデモを行ないました。クリアカットを止めろ、というデモです。それで1000人が逮捕されました。これは、最大規模の不服従デモとなりました。それでも、政府は伐採を許しているのです。

 そのため、「クラクワットサウンドの友」はヨーロッパの輸入業者に輸入契約をやめるよう働きかけを始めました。これまでで、企業に対してどう働きかけたらよいかがわかってきました。すなわち、「調達方針を明確にして、原生林からの調達を減らせ」ということです。

 企業には3つのことを要求しております。まず、第一に、原生林もしくは危機に瀕している森林からの調達を止めること。二番目に、害のない糊とか接着剤といった非塩素系のものを選ぶこと。三番目は、紙の消費を減らすことです。

 どういう企業がこれに賛成してくれたかというと、皆さんのご存知のキンコーズ、マイクロソフト、ナイキ、デル、イケア、IBM、そしてパタゴニアなどの企業です。これらの企業は完全に原生林からの製品をなくすということではありません。彼らの意図は、自分たちのマーケットシェアを伸ばし、顧客の定着を図りたいということです。彼らはビジネスにとって都合がよいので、そういう取り組みをしているのです。

 こういった理由から、大企業は原生林からの産物の利用を止めるようにしています。業界リーダーの国際的ムーブメントに参画しているのです。自然、社会に配慮したマーケティングによって、グリーン製品の規模の拡大に努めているのです。つまり、環境に配慮した製品でも十分ビジネスに見合うのです。

 では、自然と社会に配慮したマーケティングというものはどういうものか、考えていきたいと思います。アンケートによると、消費者の86%は環境面・社会面に配慮した製品を購入する傾向があるということがわかっています。全世界で10人に7人は、「環境への被害を軽減する責任を企業が負うべきである」という意見を述べています。また、企業は客の定着度を高め、客との関係をよくするために、この問題に取り組んでいるわけです。

 1950年から90年にかけて企業倫理が高いと評価された企業は、そうでない企業に比べて高い成長率を達成しました。ダウジョーンズの平均の伸び率6.3%に対して、11%の伸び率でした。また、企業はコスト効率、費用対効果を改善するために環境への配慮をしております。

カナダの出版社34社が調達方針を決定

 カナダでのひとつの例として、大手34社の出版社が原生林材から来る紙の利用をしない確約を行なっています。またこの1年間、全部で300万冊以上の本が、環境にやさしい紙で出版されております。5社の印刷会社は、原生林材を使わない紙を在庫として持っております。原生林材を使わない紙は、7種類 開発されております。こういったカナダの成功例により、ヨーロッパ、アメリカでも似たような取り組みが始まっています。

 これは大手出版会社マクリランド・シュトュワート社の副社長の言葉ですが、「私たちは原生林の破壊を止めるために責任を果たしたいと思っております。世界的な森林破壊や気候の変動を食い止めるために、私たちは取り組んでいるのです」と言っています。その環境担当のマネジャーはこう言っております。「木材製品がきちっと管理された森林から調達されることを、長期的な目標にしております。まずは、原生林から木材を調達しないように心がけています」

 イケア社もいい例です。イケア社のコアビジネスの70%は、木材製品です。イケアは、原生林材の利用を積極的に減らしております。第一段階では、18ヵ月にわたり木材で原生林材の利用を止めました。残りの18ヵ月では、紙やその他の木材でない製品でも原生林材を使わないようにしました。そして、わずか3年間で原生林材の使用をゼロにしました。

 こういったことから、私の述べてきたことは十分現実的なことであることがご理解いただけるかと思います。結論ですが、私たち「クラクワットサウンドの友」では市場キャンペーンによって原生林材の消費を減らすことができることを知っています。森林にやさしい調達政策を立てることは、ビジネスにとっても一般住民の環境にとってもいいことなのです。

ヨーロッパにおける違法材不使用に向けた取り組み

        アンディ・ロビー(英国木材貿易連合組合、企業の社会責任対策顧問)

 私たち、イギリス木材貿易連合組合(TTF)は、イギリスを拠点とした業界団体です。350社が加盟していて、木材を輸入している業者の87%が参加しています。

 イギリスは、中国、日本に次ぐ世界第3位の木材純輸入国であり、木材貿易の規模は大きいと言えます。EU全体の熱帯広葉樹材輸入の12%を、イギリスが占めています。イギリスへの熱帯木材の輸入源は、マレーシア、カメルーン、ブラジル、インドネシアが上位4カ国です。

違法伐採とTTF

 違法伐採は世界的な問題です。しかし、イギリスは世界第3位という大きな木材の輸入国であるので、私たちも当然その一端を担っています。私たちがまずやったことは、行動規範づくりでした。

 私たちTTFの会員企業はこの行動規範を遵守するという義務があります。これには環境原則の基本的なものをいくつか含んでいます。そして苦情処理手続きがあり、それには厳しい制裁・罰則が規定されています。しかし嬉しいことに、その手続を試すような事態になったことは今までありません。なぜなら会員企業が全員この規範を守っているからです。調達方針も明確にしています。これもどんどん更新して、政府の調達方針と合致するよう、独立した監査を加えることをやっています。

ビジネスの背景 - イギリス市場を動かすもの

 どういうものがイギリス市場を動かす要因としてあるのでしょうか。まず、イギリス政府の木材調達方針は、最低限合法な木材を調達することを求めています。また、木材を多く使う大企業も政府と同様の方針を採用しています。私たちTTFの行動規範も、市場変革を促す要因となっています。責任ある企業経営という意識、すなわち、評判、従業員や経営陣の良心、NGOの圧力も大きな要因となっています。最新かつ最も重要な要因は、EUの違法伐採に関する行動計画です。

 政府は大口の調達者です。中央政府が、イギリス全体の木材の20%を購入しています。自治体も20%を購入しています。政府の方針は、積極的に合法的で持続可能な木材を探すことです。そして3段階を採用しました。第一に合法的なもの、第二に持続可能の方向に向かっているもの、第三に持続可能であるという認証のあるもの、という3つのステップです。この政府の調達方針は徐々にですが、確実に前進しています。そして市場への効果ははっきりと見て取れます。認証材についての問い合わせが増加していますし、一部の企業では問題のあるところからの木材の調達を控えるようになってきました。

 私たちTTFの行動規範では、会員は違法伐採行為については声を上げて強く非難し、供給者、仕入先、他の利害関係者と協力して徹底的に排除する、とうたっています。また、独立した認証制度は合法でよく管理された森林を保証するための最も有効な手段であると、規範の中でうたっています。

企業の社会的責任(CSR)

 持続的開発のための世界企業評議会(WBCSD)による定義は、「企業の社会的責任(CSR)とは、企業が持続可能な経済成長に貢献する約束」であり、法律的な義務ではなく、自主的に行う取り組みです。

 木材貿易に関して社会的な責任の方針を持った取り組みが企業の収益にどのような影響があるかということについて、Institute of Business Ethicsという研究所が行った調査研究があります。これは、イギリスの一番大きな350社に関する経営データです。この調査によると、社会的な責任のための方針を持っている企業の方がそうでない企業よりも、経済的な価値の付加が高い、ということがわかったのです(右図参照)。調査は4年間にわたって行いましたが、いずれの年も同じ結果でした。社会的な責任の方針を持った企業の方が、経営実績もいいわけです。

イギリスの木材業界の取り組み

 貿易業者は、自分たちだけで違法伐採の問題を解決できませんが、解決に向けた協力はできます。合法で、持続可能森林経営をしている業者から木材を輸入することによって、間接的に違法伐採への対策を講じることができるのです。私たちは、責任ある調達の方針を立てました。合法的な木材を調達するためのガイドラインを作成しました。そしてEUと密接な連携をとりながらヨーロッパ全体の調達方針の統一化にも取り組んでいます。

 調達方針の初版がつくられたのは、10年前です。しかし、それをより厳格で実効性のある方針に改善する必要がありました。政府や顧客企業の調達方針が改善されることによって、この調達方針もより厳しいものになっていきました。

 まずは、TTFの方針を政府調達方針と一致させたいのです。我々の会員企業が直接政府と取引できるようにしたいのです。会員企業のリスクを軽減させる措置を取ろうとしています。

 木材を調達する企業はリスク評価をすること、そのためには段階的改善が義務付けられます。最初は目標を低く設定して、順次高くしていきます。

 基本的に次の図になります。最後の3つのステップは、政府の調達方針に合致するレベルを指します。左下の3つのステップは、木材貿易業界が合法的な木材を提供できるようにするためのステップを表しています。最初の2つのステップは、各企業内でのよりよい木材を調達するためのプロセスを確立するためのものです。第二段階で、そのプロセスに則って実際の調達を改善していくのです。第三段階では報告をつくり、第三者による監査を行うことを義務づけています。

 企業としての様々な利益も得られます。より環境問題に敏感な大企業や政府と取引ができるようになります。企業のリスクの軽減ができ、ブランドを守ることもできます。様々な利害関係者とのより良い関係を構築できます。優れた実績が評価されるようになります。これらによって、ビジネスが改善すると確信しています。

結論

 日本は、市場に大きな影響力を及ぼすことができると思います。今までマレーシアやインドネシアなどいろいろなところに行きましたが、どこの製材所に行っても日本が一番大きい取引先だと言います。今のグローバリゼーションの中で、国際的企業は責任逃れすることができなくなっています。企業の行動に関する情報はすぐ開示され、世界中に知られることになります。しかし、環境面への配慮をするためのビジネス面での根拠・理由も明確になってきています。

 日本の場合、次のような根拠・理由から、環境への取り組みが見合うものではないかと思います。まず、各企業の評判、国としての日本の評判も、今リスクにさらされています。確かに違法材は合法材より安いです。しかし安い木材が入って来ると、国内の生産にも悪く影響します。違法伐採は、木材貿易全体に悪影響を及ぼします。木材そのもののイメージも悪くなります。値段も悪くなります。市場では、良い木と悪い木を区別することはできません。EUと日本が協力すれば、供給者側に大きな影響力を及ぼすことができると思います。市場ベースでのアプローチは、法制化より良いのではないでしょうか。単に官僚主義がはびこっても、ビジネスがやりにくくなるだけではありませんか。企業間の連携で非常に効果が上がることもわかってきています。

 そこで、みなさんに提案したいことがあります。イギリスのTTFは、日本のパートナーの組織と木材調達に関する共同の取り組みをしたいと思います。たとえば、EUの案をつくっているグループに、日本の団体の方も参加されませんか。せめても、これからも対話は続けていきたいと思います。持続可能な木材貿易に向けて、共に取り組んでいければと考えています。

プレスリリース「森林環境に配慮した木材調達方針の始まりとその拡大への要望」

「森林環境に配慮した木材調達の進め方」報告 (Fairwood.jp内)

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