インドネシアからの違法材で利益をあげるマレーシアとシンガポール

 イギリスのNGO、Environmental Investigation Agency (EIA)とインドネシアのNGO、テラパックは、マレーシアとシンガポールがインドネシアで違法に伐採された木材をロンダリング(違法に輸入したものを合法に見せかけて再輸出等をすること)して国際市場に流している実態について調査した報告を発表しました。そのプレスリリースの報告内容を紹介します。

 様々な公約や国際条約による責務があるにもかかわらず、マレーシアとシンガポールはインドネシアで急速に消失し続ける森林を犠牲にして利益をあげ続けている。

 マレーシアは世界で最大の熱帯木材の輸出国である。また、10億ドル規模の木製家具輸出産業を抱えている。シンガポールは自国内に森林がないにもかかわらず、大規模な木材産業を持ち、加工と再輸出を行なっている。EIAとテラパックは、両国から輸出される木材のかなりの割合がインドネシアの違法材であり、違法に伐採されたインドネシアの木材の中継地としての役割を果たしていることを明らかにした。

 国内の森林破壊の原因となっている違法伐採を抑制するため、インドネシア政府は2001年にラミン材のすべての伐採と輸出を禁止し、ワシントン条約(CITES)の付属書IIIに登録した。ワシントン条約にはシンガポールとマレーシアを含む155カ国が加盟している。ラミンはインドネシアとマレーシアにしか見られない樹種で、オランウータンの重要な生息地であるタンジュンプティン国立公園などのいくつかの国立公園で違法伐採の対象となっている。ワシントン条約への登録により、政府の許可書なしにラミン材の国際的な取引きはできなくなった。ラミンの付属書への掲載は、2001年8月に発効した。さらに、違法材の輸出を停止するために、インドネシア政府は2001年11月にすべての丸太の輸出を禁止している。

 こうした違法なビジネスを駆り立てている要因は明らかである。ラミンを例にとると、カリマンタンの違法伐採者は1m3あたり2.2ドル(約260円)しか得ないにもかかわらず、加工された木材は国際市場では1,000ドル(約12万円)前後の値がつけられている。この2者の間には木材ブローカーのネットワークが存在し、マレーシアやシンガポールからの者が多く、莫大な利益をあげている。

マレーシア

 マレーシア国内の森林と国内の木材生産量が減少した一方で、国内の木材加工産業は巨大な生産能力を維持し続けている。熱帯木材の輸出額が年間25億ドル(約3000億円)、木製家具の輸出が10億ドル(約1200億円)以上に上るが、業界はインドネシアで違法に伐採された木材の輸入に依存している。半島マレーシアやサラワク州、サバ州のそれぞれの港やカリマンタンとの国境から、毎年300〜500万m3の違法なインドネシア材がマレーシアに流れ込んでいると推測されている。

 EIAとテラパックが2000年8月にサラワク州で行なった調査では、州営企業であるSarawak Timber Industry Development Corporationの一部門であるハーウッド社が、カリマンタンから入手した違法材を加工している実態を明らかにした。木材は、セマタン、ルボ・アントゥ、テベドゥの3ヶ所に運ばれる。ハーウッド社は、木材を分類して書類を発行するために1m3あたり22リンギ(約700円)を徴収する。セマタンの港では、インドネシア国旗を立てた船から粗く挽かれた製材がハーウッド社の施設に卸されているのが見られた。セマタンからクチンの木材工場に向けて、1日に60台のトラックが出発するのが確認されている。ルボ・アントゥでは、西カリマンタン州との国境近くのハーウッド社の施設に大量の木材が積まれているのが発見された。インドネシア側の情報によると、毎日50台前後のトラックが国境を越えており、この地域にあるたくさんの製材工場はシブ出身のマレーシアの実業家の所有であると言う。

 2002年6月、インドネシア当局は、西カリマンタン州からサラワク州へ国境を越える違法材を積んだ15台のトラックを捕まえた。インドネシア当局は、国境のエンティコンにおいて、1日に100台以上のトラックがマレーシアに向かっていると話している。当局は、毎月50万m3の違法材が西カリマンタン州からサラワク州に入っていると推測している。

 2001年8月6日にラミンのワシントン条約への登録が発効した後、EIAとテラパックはマレー半島西岸の調査を行った。バトゥ・パハ港では、インドネシアの国旗を掲げた小さな木製の船から印の付いていない丸太の荷降ろしが行われているのが見られた。E.S.Ng Holdingsという会社の木材置き場で見られたインドネシア船の乗組員は、木材はカリマンタンからのラミンであることを認めた。北部のメラカでは、いくつもの小さな船がラミンを含む丸太の荷降ろしをしているのが見られた。船の乗組員は、木材はマラッカ海峡をはさんだインドネシアのリアウ州からのものであると話した。

 2001年11月、違法伐採と違法な木材貿易の解決のため、インドネシアの丸太輸出禁止が発効した。11月1日のインドネシア林業相との会合で、マレーシアの一次産業相は輸出禁止を支持し、インドネシアからの丸太を受け入れないことを約束した。その後、メラカの港は閉鎖されたが、2002年5月の調査では、メラカ州とネグリ・スンビラン州の州境にあるクアラリンギに、より大きな新しい木材積み下ろし施設ができていることがわかった。見たところ、クアラリンギでは月間1万5000m3の木材を取り扱っていたと推測される。

 EIAとテラパックがマスコミを通して調査結果を公表したことにより、マレーシアの一次産業相は2002年6月25日、インドネシアからの丸太の即時輸入禁止措置を発表することになった。この措置は、マレーシアの木材産業に対する悪い印象を払拭する狙いもあったと言われている。

 4ヵ月後に再度調査した際にも、クアラリンギでは未だ大々的に操業しており、数多くの小さな木製の船が丸太や角材の荷降ろしをしているのが見られた。現場の人は、すべての木材がインドネシアからのものであると証言している。クアラリンギで丸太が見られたということは、マレーシアの輸入禁止措置が公に無視されていることを示している。

 今年4月の調査では、クアラリンギ港は静かになっていたが、ジョホール州のムアルではスマトラからの違法材を満載したインドネシアの木製の船が32隻見られた。船の多くはインドネシアの国旗を掲げており、すべての船の乗組員がインドネシア人であった。現場の人の話によると、木材はすべてインドネシアからのものであり、10隻に1隻がラミンを積んでいるとのことであった。

 また、バトゥ・パハでは、インドネシアの国旗を掲げた船から丸太が荷降ろされているのが見られた。スマトラから来た船が木材の積み下ろし現場に向かうには、警察と税関を通る必要がある。そこではインドネシアからのラミン材が山積みされている現場や、近くの工場でラミンや他のインドネシア材が輸出用に加工されている様子が見られた。

シンガポール

 シンガポールもまた、違法なビジネスの中枢である。国内には森林がないにもかかわらず、シンガポールでは木材産業が盛んである。隣国からの木材のほとんどはシンガポールを経由して東アジアやヨーロッパ、アメリカなどの巨大市場に向けられる。

 シンガポールでは、国内法においてラミンをワシントン条約の対象とするまでに5ヶ月かかった。登録後数ヶ月経って発効した後も、インドネシアの業界のある人は、インドネシアの違法なラミン材がシンガポールに輸出されて合法化され、再輸出されてインドネシアのラミン工場に運ばれていると記者に語っている。この話は、2001年と2002年にシンガポール向けのラミンや他の違法材がインドネシア当局によって何度も押収されていることによって裏付けられている。

 シンガポールの税関統計からも、シンガポールが違法なラミン材貿易に関わっていることを確認することができる。ラミンがワシントン条約に登録された2001年8月から2002年11月までの16ヶ月間に約1万9000m3のラミン製材が再輸出されたと記録されているが、同じ期間の輸入量は6000m3しかなく、すべてマレーシアからのものとなっている。余分の量については、製材用丸太の入荷はなく、在庫から得られる可能性はない。1万3000m3の差は申告されていない、すなわち違法な輸入以外に説明できない。アメリカの通関書類の分析によっても、2001年9月から2002年7月までの間に300万ドル(約3億6000万円)相当以上のラミン材がワシントン条約の許可書なしに、シンガポールを出航または経由してアメリカに到着していることが示されている。

 2002年10月、シンガポールの税関は秘密情報を得て、スンゲイカドゥ工業地帯にある木材会社を捜査し、インドネシアから違法に輸入した120トンのラミン製材を発見した。

 1度だけの取締りでは、違法な貿易を止めることはできなかった。2003年4月、6ヶ月前に税関が捜査した場所と同じ道沿いにある木材置き場をEIAが調査したところ、インドネシアの違法ラミン材が見つかった。その工場長は、賄賂を払って入手した許可書を使い、さらに許可書に記載されている5倍の量を輸入していると説明した。この工場からは、1ヶ月に3〜4つのコンテナの量の違法なラミン製材を、樹種を偽って中国に向けて再輸出している。ラミンの一部は半加工品としてアメリカにも輸出されている。

(出典:EIA/Telapak, "Timber Traffickers: How Malaysia and Singapore are reaping a profit from the illegal destruction of Indonesia's tropical forests", 2003.5.8)

ニュースレター記事一覧 | 違法材・原生林材不使用キャンペーン | ホームページ

© 1999-2003 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)