家具も以前は、地元の需要は地元でまかなっていて、今から50年前の戦後間もない頃は、リヤカーに家具を積んで得意先を廻ったというほど販路は限られていました(大阪府家具商業組合『創立40周年記念誌』1998年)。ところが、その後、高度経済成長による所得の増大に、生活様式の洋風化、核家族化の進展、住宅着工戸数の増加などが加わって家具の需要は激増し、それに伴い大川(福岡県)、府中(広島県)、静岡、旭川をはじめとする数十の家具産地が台頭して、販路は全国に拡大しました。木製家具の出荷額は年々増加し、家具需要が一巡した後も、そして1970年代のオイルショックも乗り越え、バブル期の1991年に2兆円を超えてピークを迎えます。家具メーカーの成長とともに、材料の調達も国内から海外、特に熱帯の木材へと移行していきました。たとえば、大川の場合、外材の使用は、1950年代末に2〜3割だったのが、60年代半ばに8割以上、90年代には9割以上となっています。
しかし、出荷額が最高額を記録したときから、家具の完成品や部分品の輸入は少しずつ増えていました。すでに1980年代後半には、国内の家具業界は東南アジアからの開発輸入を始めていたといいます(黄完晟『日本の地場産業産地分析』税務経理協会、1997年)。輸入家具(完成品)の状況を見てみると、1990年には国内出荷100に対して輸入が4だったのが、バブル崩壊後も増え続け、1996年には輸入が9、2000年になると14と、増加の傾向が続いています。
ところで国内での家具の製造は、バブル崩壊後、縮小が著しくなっています。2000年の木製家具出荷額は、ピーク時の6割弱にまで減少しているのです。ただし、家具の出荷額が減少に向かっているのには、輸入家具の増加だけではなく、近年の景気後退に加えて婚姻数の減少、住宅着工数の減少などにも原因があるとされています。
[木製家具の国内出荷額と輸入額]
国内出荷額等 (百万円) |
家具(完成品) 輸入額(百万円) |
|
1989(平成元) | 1,959,600 | 65,000 |
1990(平成2) | 2,074,404 | 80,300 |
1991(平成3) | 2,113,235 | 79,100 |
1992(平成4) | 1,993,787 | 77,900 |
1993(平成5) | 1,852,669 | 75,900 |
1994(平成6) | 1,759,529 | 105,800 |
1995(平成7) | 1,742,072 | 125,500 |
1996(平成8) | 1,731,010 | 159,900 |
1997(平成9) | 1,683,281 | 168,200 |
1998(平成10) | 1,442,671 | 141,600 |
1999(平成11) | 1,261,720 | 137,420 |
2000(平成12) | 1,177,097 | 164,700 |
このように、木製家具の市場は全体的に縮小の傾向にあるとはいうものの、家具の輸入量は増えています。木製家具の輸入先を見てみましょう。2001年の木製家具輸入額を調べると、アジア諸国からの輸入が80%、ヨーロッパ諸国が15%となっており、アジア諸国のなかでは、中国が最も多く(全体の27%)、タイ(同18%)、マレーシア、インドネシア、台湾と続いています。中でも中国は、前年の輸入額に比べ46%増加しているのですが、これは、台湾をはじめとする他のアジア諸国の工場が中国に生産拠点を移転した結果とされています(『家具年鑑 平成14年版』経済通信)。インドネシアは寝室用木製家具の日本への輸入でトップ、タイは台所用木製家具でトップとなっています。これらのアジア諸国から輸入が急増したのは1990年代前半のことですが、国別でみると、輸入の増加が特に顕著なのはベトナムです。
原材料である木材の産出国では、違法伐採問題は依然として深刻です。熱帯の木材が直接日本に運ばれて製品化されていたのが、第三国で家具になってそれが日本の店頭に並ぶようになると、木材の流通ルートはますます複雑になってきます。台湾や中国といった新たな製造現場での違法伐採木の使用状況についてはよく分かっていませんが、熱帯材の産出国においては、家具にも使われるチークや紫檀などが違法に伐採されている現状が明らかにされています(EIA・TELAPAK INDONESIA『TIMBER TRAFFICKING』2001年)。
カンボジアでは、1997年の1年間の違法伐採は、公的な統計の10倍に相当する400万立方メートル以上にのぼり、2000年に入っても、ラオス、タイ、ベトナムなど近隣諸国への違法な木材輸出(約13万立方メートル)が報告されています。ベトナムでは、1996年にカンボジアからの木材輸入を禁止したにもかかわらず、1998年までに、カンボジアからの違法材を満載したトラックが毎日70台、国境を超えてベトナムに運ばれました。これらの多くがテラスなどに置かれる家具(ガーデンファニチャー)としてヨーロッパに輸出されていたのです。ベトナム国内でも、保護地域からの違法伐採木が毎年100万立方メートルに達しているとされています。
ラオスの森林被覆率は1940年代には国土の70%だったのが、今日では40%以下にまで低下していますが、その原因の大部分が違法伐採によるものと考えられています。ラオスはチークの輸出を禁止していますが、それにもかかわらず、違法伐採が横行しています。チークそして紫檀の主な輸出先は、ほとんどの場合、タイであるとされています。ラオスの統計によると、タイへの輸出量は、タイ政府が発表しているラオスからの輸入量の半分にすぎないとのことです。
タイでは、ビルマと国境を接している地域で、タイ国内の国立公園などから盗んだ違法伐採木を、ビルマからのものと偽ることがまかり通っています。1998年には、サルウィン国立公園内で伐採された13,000本のチークが、ターク州のある製材所で見つかり、その製材所は操業停止処分を受けました。しかしその後の検査で、没収された丸太のうち4,000本が行方不明となっていたことが明らかになりました。サルウィン国立公園からこれまでに1,500万本のチークが違法に伐採され、2,700万ドル(約32億円)相当の賄賂によって、タイ産のチークをビルマ産材と偽った書類が作成されてきたと推測されています。
遠い国の違法行為やそれに伴う森林減少が、私達の日常生活と無関係ではないという状況は指摘されて久しいですが、生産拠点の第三国への移転が今後も増加していくと、木材の流れをたどることが一層難しくなるでしょう。国産材の家具をリヤカーで配達した時代はほんの数十年前なのに、随分大昔のことに感じられます。この速すぎる変化に、人間の頭はついていけるのでしょうか、森林再生の努力はまだ間に合うのでしょうか。■
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