世界の森林入門コーナー<6>

森林減少と劣化の背景要因

 これまで3回にわたって紹介してきた森林破壊の原因は、森林減少と劣化が起こる直接の原因と言えるものですが、その直接の原因を招く背後にあるものを背景要因(underlying causes)と言います。

 例えば、農民が森林へやってきて焼畑や牧畜を始めたとします。多くの場合、彼らは元々暮らしていた場所では十分な土地がないために移住したのであり、不平等な土地政策に起因しています。また、移住が農地開発のために政府が推進したものである場合、輸出を増やすための対外債務の返済や国際金融機関に押しつけられた政策、豊かな国からの需要の存在などが考えられます。これらが背景要因であり、森林減少と劣化を止めるためには、こうした背景要因を解決することが必要と考えられています。

 森林減少と劣化の背景要因は、国や地域の事情により様々です。各国に見られる主な背景要因を、4つのカテゴリに分けて紹介します。

土地所有権や政策決定への参加が認められていないこと、資源管理制度の欠陥

 多くの国において、先住民や地域の人々の土地の所有権が法的に認められていないことが、森林減少と劣化の背景要因となっています。先住民や地域の人々は、代々受け継いで来た土地で持続可能な方法で森林を利用してきました。しかし、法的に森林を所有している政府が、そこに暮らす人々の意向に関係なく、企業に伐採や開発を許可することによって、結果的に森林を減少・劣化させています。こうした土地権をめぐる問題は熱帯林地域だけでなく、ロシア沿海州やスウェーデンのサミ人の例でも見られます。

 森林に関する法律が制度的に欠陥があることや、十分に施行されていないこと、また、それによってもたらされる貧困や社会的疎外も背景要因としてあげられます。チリ南部では、林業・環境省の権限縮小によって、先住民マプチェの住む森が強大な多国籍企業の手に渡ってしまいました。メキシコやネパールでは、人々の生活や権利を無視した様々な国内・国際政策がとられた結果、失業や薪の需要の増大をもたらし、持続可能でない森林の利用を招きました。大企業や大地主の利益のための森林の私有化も背景要因として多くあげられています。アラスカ海岸部の多雨林地域では、森林減少の多くは、紙パルプ産業と伐採企業のために与えられた50年間の天然林伐採権によって引き起こされました。

 森林に関する政策を決定する際に、地域の人々の権利や参加が認められていないことは、多くの国で指摘される重要な背景要因です。タイでは、国の政策決定や中央政府による天然資源の管理のため、人々は自分たちの天然資源に関する決定権を持つことができません。先進国においても、政策決定の際、産業界などの政治的な圧力団体が代表権を独占しており、環境団体には代表権が与えられていません。

貿易と消費

 先進国社会の過剰消費によってもたらされる木材需要や、森林が他の生産システムに転換されることは重要な背景要因です。木材需要による伐採だけでなく、森林は様々な需要によって、木材チップ工場や植林地、牧畜地、エビの養殖場、農場などへ転換されたり、採油や採鉱事業が行われています。また、天然資源とその輸出に大きく依存した経済は、持続可能でないレベルの採取を招いています。背景要因となっているこうした動きの多くは、現在の貿易自由化のプロセスが直接関係しています。

国際経済関係と資金の流れ

 環境保護や社会正義を犠牲にした、経済成長を過剰に奨励する現在の経済発展モデルや、構造調整等の開発途上国に押し付けられたマクロ経済政策は、多くの国において背景要因として指摘されています。重い対外債務を減らすためにとられた構造調整政策によって、伐採や採鉱業が促進されています。森林開発への民間投資や多国籍企業への規制不足も重要です。外国からの投資の自由化によって、環境面を含めた企業活動に対する規制が防げられる結果となります。

林産物と森林の恵みの評価

 森林には様々な生き物が暮らしている生態系であるという視点に立った森林の定義が行われていないことや、土壌浸食防止機能や洪水防止機能などの森林の多面的価値を認識していないことは、各国における共通の背景要因となっています。森林が単なる木材の供給源や、農業や牧畜、鉱業などの他の土地利用のために転換できる土地としかみなされていないために、経済的に価値のある土地利用への転換が進められ、森林の破壊を引き起こしています。このほか、地域住民による林業や非木材林産物が過小評価されていること伝統的知識の利用や認識が欠けていること森林の宗教的・哲学的価値を認識していないことも、重要な背景要因としてあげられます。■

ニュースレター記事一覧 | 世界の森林の現状 | ホームページ

© 1999-2003 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)