JATANは、インドネシアの違法伐採と紙パルプ用伐採についての現状を調査するため、8月と10月にスマトラ島のリアウ州を訪問しました。調査によって得られた情報について報告します。
これまで、熱帯材の主な用途は合板であった。しかし、1988年に61万トンだったインドネシア国内のパルプ生産能力は、99年に490万トンへと、8倍に増加した。Global Forest WatchとForest Watch Indonesia等の報告書によると、現在のインドネシア国内の木材加工工場の処理能力は、全体の38%をパルプ・チップ工場が占めるまでになっている。
スマトラ島中部に位置するリアウ州には、インドネシア国内でも最も大きな紙パルプ工場が2つ存在している。ひとつは、Asia Pulp&Paper (APP)グループのIndah Kiat Pulp&Paper社、もうひとつは、Asia Pacific Resources International Holding (APRIL)グループのRiau Andalan Pulp&Paper (RAPP)社である。この2社のパルプ生産量を合計すると、インドネシア全体の生産量の60%にも及ぶ。国際林業研究センター(CIFOR)やイギリスのFriends of the Earthは、その報告書の中で、インドネシアの紙パルプ産業の原料の約90%は天然林材を利用しており、さらに、その内の40%が違法な供給源から得られたものと推測している。
私たちは、RAPP社の伐採が行われているテッソ・ニーロとその周辺、Indah Kiat 社の植林による住民との争いが起きている地域、RAPP社とIndah Kiat社の工場とその周辺の村の調査を行った。
リアウ州南部に位置する熱帯低地林地域であるテッソ・ニーロは、世界的にも生物の多様性が非常に高く、ゾウも生息していることから、WWFがゾウの保護区として提唱している地域である。一般に、低地林は生物多様性が高い一方で、経済的に価値のある木材も多い。提案されている保護地区内は、すべて4つの企業に伐採権が認可されており、その周辺は産業植林やアブラヤシのプランテーションの認可地に囲まれている。産業植林やプランテーションは、天然林を皆伐することによって造成されることが多いため、環境に多大な影響を及ぼす。私たちが訪れたシトゥガル村は、RAPP社による産業植林のための伐採の影響を受けている村のひとつであった。
シトゥガル村は、テッソ・ニーロ地域のすぐ外側に位置し、約52世帯が暮らしている。人口のほとんどが伝統的にこの地に暮らしてきた地元民(マラユ人)で占められている。主な生活の糧はゴムの採取や稲作で、伐採に携わっている人々も25%くらいいるという。シトゥガル村の村長は、住民による伐採は小規模なので許可すべきだが、RAPP社の伐採やプランテーションは停止すべきだと言う。伐採による最も大きな影響は河川が枯渇したことで、川の魚も少なくなった。動物も、最近はフクロテナガザルやバク、ゾウが見られなくなったなど、ここ10年間で大きく変化したと言う。
私たちが訪れたRAPP社の産業植林地では、今年4月から伐採が開始されており、予定している600haのうち300haが終了していた。伐採方法は皆伐で、天然林が一面伐採されている。目の当たりにすると衝撃的な風景である。伐採現場でちょうど出会した同社の責任者は、伐採した木材のほとんどは製紙用のチップ向けとなるが、動物を保護するための回廊として森の一部を残したり、直径が30cm以下のものは林地で燃やして灰にし、それが植林時の栄養分になるほか、土壌浸食を抑えることができるなど、環境への配慮をしていると言う。もっとも、動物のための回廊は幅が50〜100mくらいしかないのだが。
RAPP社が伐採した地域の一部は、シトゥガル村の住民が伝統的に利用してきた地域も含まれていたため、村長は認可の権限を持つ県に要請し、RAPP社との交渉を行ってきた。5月には、県の首長から「住民との合意がなされるまでRAPP社は伐採を停止するべき」との手紙の回答を得たが、同社は伐採を止めることはなかった。伐採現場で出会した責任者は、「我々は認可を得ている。住民側には認可がないし、範囲の目印もない」という回答だった。住民側は、伐採されてしまった土地に対して、1世帯あたり2haずつのアブラヤシかゴムの木が植えられた土地を要求し、RAPP社もこれに同意したが、8月の時点ではまだ実現していなかった。
テッソ・ニーロ地域の周辺はほとんどが植林地への転換が認可されていることを考えると、その影響はとても大きい。
APRILグループに属するRiau Andalan Pulp&Paper (RAPP)社は、1995年に操業開始した。2001年に工場のラインを拡大したことにより、パルプの生産力は年間180万トンに達し、世界最大のパルプ工場となった。イギリスのFriends
of the Earthは、RAPP社の原料のほとんどは天然林の皆伐によって得ていると報告している。2000年には原料のすべてが熱帯雨林を皆伐して得られており、2001年も80%であった。APRILグループは、2001年末までに22万haの熱帯雨林を破壊したと、Friends
of the Earthは推測している。また、APRIL自身、2008年までにさらに14.7万haの熱帯雨林を皆伐すると予想している。しかも、RAPP社の伐採権地の多くは、状態のいい天然林で、保護価値が高い。
セリン村は、リアウ州中央部を流れるカンパール川沿いにある約300世帯が暮らす村である。以前はほとんどの村人が漁業を営んでいたが、95年にこの村の近くにRAPP社の工場ができ、工業廃水を川に流すようになってから河川が汚染され、魚の数も減少した。今は、伐採に携わっている人が最も多く、伐採された木材は有力者を通じて製材工場などに売っている。
この村では、1998年にRAPP社に土地を奪われたとして、3つの村による合同の大きなデモが行われた。土地に対する補償は得られず、リーダーが逮捕され、4ヶ月の禁固刑を受けた。その後も毎年のように会社との衝突が起きている。
村人は伝統的に河川の水を利用していたことから、工場廃水による川の汚染によって皮膚病や下痢を患っている人が多く、特に子どもはほとんどが皮膚病を患っていると言う。村の中で皮膚病が最もひどい38歳の男性は、腕や首の周りが赤くただれており、今は何も仕事ができない状態だった。こうした患者に対しては、RAPP社は薬を与えるなどの対応をしている。RAPP社は、人々に知られないよう、廃水を夜や早朝に流していると言う。RAPP社は、水質を改善することを約束したが、未だに実現していない。今年7月には、大量の廃水を流したため、魚が死んだと言う。これに対して村人は抗議したが、対策は行われなかった。
RAPP社による影響について問うと、村から20人が警備員などとして雇用されていたり、伐採した木材を売ることができるなど、いい面もあるが、村人のほとんどは嫌悪感を抱いていると言う。現在、多くの村人が伐採に携わっているが、5年後には森林はなくなるだろうと彼らも予想していた。こう答えた若者に「そうなったら、将来どうするつもりだ?」と尋ねてみたが、彼は「他に仕事がないから何もなくなる」としか答えられなかった。考えてみれば、伝統的な生活様式を奪われ、やむなく他の仕事をしている人々にこのような質問をするのは無茶なことであった。
RAPP社の操業は、天然林の皆伐、住民との争い、排水などによる公害と、問題は多い。しかし、こうした状況はRAPP社だけではなかった。
アンカサ村は、リアウ州の州都パカンバルの南東約80kmに位置している。この地域では、Indah
Kiat社に原料を供給するArara Abadi社によって、アカシア植林のために土地が奪われた。1991年以降、アンカサ村が属するブヌ郡では4万ha、この地域全体では9万haの土地が同社によって奪われ、その中にはゴムなどの耕作地や入会林(共有林)も含まれていたが、住民に対する補償は全くなかった。2年ほど前から井戸水の水位が下がり、河川の水も枯れており、村人はアカシアやアブラヤシによる森林開発のためではないかと推測している。村人の重要な収入源であるハチミツの収穫も減った。住民側は、96年にそれまでの経緯をまとめた記録を作成したり、2000年末には州警察に訴えたりしたが、解決には至っていない。
こうした中、2000年末には、住民側は木材運搬道路を封鎖する抗議行動を15の村で起こした。当初、会社側は植林は1回だけ行い、8年後の伐期には利益を還元するという約束をしていたにも関わらず、その約束を守らなかったために行ったと言う。これに対して、会社側は州警察に訴え、封鎖は解除された。また、2001年2月には、伐期を迎えた264haから得られる利益をめぐって争いが起きた。住民側は、会社側が伐採しているにも関わらず、利益を還元していないことを理由に自らも伐採したところ、会社側は約500人の従業員の他、100人のチンピラを雇って村人を襲い、村人58人が殴られたと言う。この際、隣のベトゥン村でも、道を歩いていただけの村人が5人襲われた。私たちがインタビューしたY氏は、20人に木の棒で殴られ、鼻筋や肩、頭に怪我を負い、5日間入院した。襲われた理由についてY氏は、日頃から会社に対する不平を言っていたが、当時は襲われるようなことは何もしていなかったと言う。
こうした植林をめぐるArara Abadi社と住民との争いが起きているのは、この地域だけではない。リアウ州中北部のミナス郡とその周辺は、先住民族サカイ人が伝統的な移動式焼畑を行っていた地域である。Indah Kiat社のすぐ近くにあるマンディアンギン村は、2000年にArara Abadi社によって土地が奪われ、伐採された後にアカシアが植林されてしまった。この際、サカイ人側に逮捕者が出たが、現在も未解決である。今年7月には、怒ったサカイ人側が会社の事務所を焼く事件も起きている。
州都パカンバルの北約80kmに位置するガル村では、アカシアの収穫が始まった1999年頃から、土地をめぐる争いは頻発している。2001年には、会社側の私兵によって村人5人が襲われる事件が起きた。
サムサム村では、サカイ人は自分たちが利用してきた土地や森を会社や移民に安く売ってしまったため、生活の糧すべてを失ってしまった。政府から与えられた10軒の家に20家族が住み、近くを走る道路で通行する車から金を集めるだけの生活をしている。
Indah Kiat社に供給される原料をめぐっては、こうした影響が及んでいる。
APPグループに属するIndah Kiat Pulp&Paper社は、リアウ州中央部を流れるシアク川沿いに位置している。2000年のIndah
Kiat社のパルプ生産量は178万トンで、インドネシア全体の約40%を占める。木材供給は、ほとんどすべてをArara
Abadi社から得ている。イギリスのFriends of the Earthは、Indah Kiat社の木材供給のうち、植林木の割合は13.4%で、2000年には、原料の約75%は天然林を皆伐して得られたと報告している。
私たちは、Indah Kiat社の工場に近いパラワン村で地域住民による抗議運動のリーダーと面会し、話を聞いた。彼は、Indah Kiat社による影響について、汚染、環境、森林減少、伝統的な天然資源が会社の伐採権によって奪われたことをあげた。1984年に操業開始してから、大気汚染、悪臭、呼吸器異常などが引き起こされ、住民が狩猟の対象としていた動物も森林の皆伐によっていなくなってしまった。災害防止のために残されていた川沿いの森林も、Indah Kiat社は伐採してしまった。会社は利益を住民に還元せず、地域住民は職を失い、生活が苦しくなったと言う。
最大の問題は川の汚染であると彼は言う。1000人以上が川に依存していたが、汚染の状況はこの地域で最悪となった。そのため、たくさんの人が皮膚病を患っているが、会社は自社の診療所で住民を診ることを拒否してる。1997年には、100トン以上の魚が死んだため、環境省に訴えたが解決されなかった。ある住民は、Indah Kiat社が廃水を浄化処理器を通さずに川に流しているのを見たことがあると言う。彼は、河川の汚染は90%が紙パルプ工場が原因であると主張する。また、会社に雇用されている住民は一人もおらず、こうしたことも住民の反発を招いている。
こうした状況に対して、住民側は木材で道路を封鎖するなどの抗議行動を起こしている。2001年11月には3つの村で800人がデモを行い、今年7月にも大量の魚が死んだことに対して約150人がボートに乗って抗議した。また、住民が委員会を作って汚染について話し合ったり、第三者のモニタリング機関の設置を要求したりしていると言う。
Indah Kiat社の排水口近くに位置するピナンスバタン村には、約120世帯が暮らしている。伝統的に川の水を使っていたが、もはや川の水を使うのは「危ない」状態であり、今は飲料水には雨水を、洗濯などには井戸水を使っている。村には会社が提供した井戸が2つあるが、色は茶色で、水質は良くない。昔からの習慣から、お年寄りや子供の中には、今でも川でマンディ(水浴)をしている人もいると言う。この村では、3人が皮膚病に罹っているが、会社から薬の提供はない。住民は教育や健康、電気、交通などの援助を求めているが、政府も会社も何もしてくれないという不満も聞かれる。漁業は今でも続けているが、昔は1日に5kg以上とれた量が、今は多くても1kgにしかならなくなった。また、メディアが川の汚染を伝えているため、この川からとれた魚を売ることは難しくなっていると言う。
このように、APPとAPRILは天然林の破壊や地域住民との土地をめぐる争いを引き起こしているだけでなく、工場周辺への河川の汚染や大気汚染などを引き起こしている。これらの工場で生産された製品は、日本へも輸出され、販売されている。
インドネシア国内で違法伐採が横行している要因のひとつに、伐採された木材が違法に海外に輸出されていることがある。特に、リアウ州はマレー半島とマラッカ海峡を挟んで面した位置にあることから、違法伐採と違法な木材輸出が頻繁に行われている。
私たちは、テッソ・ニーロ周辺とブキ・ティガプルー国立公園の伐採現場と、ドゥマイ近郊とルパット島の村にてマレーシアへの違法輸出について調査した。
生物多様性が高いとしてWWFがゾウの保護区として提案しているテッソ・ニーロの近くでも、小規模な違法伐採が多数行われており、木材を森林から道路沿いへ運び出すための木製のレールが所々に見られた。
私たちは、ちょうど木材を運び出す作業をしていたグループを見つけ、インタビューすることができた。彼らは5〜6人のグループで働いており、年齢は20〜25歳と若く、北スマトラ出身の出稼ぎ労働者であった。道路から約800m奥に入った森林で伐採した木材を約1時間かけて運び出す。木材はマラユ人の仲介人に、1m3あたりクンパスが28万ルピア(約3,700円)、メランティは18万ルピア(約2,400円)で売っている。彼らは高校を卒業したが、地元で仕事は見つからず、この地に来たという。儲けが高いこともあり、いつやめるかはわからないが、しばらく続けるつもりのようだ。彼らが出稼ぎであることから伐採の認可を得ているはずもないため、違法であるという認識があるかどうかを聞こうと「危険はないのか」と間接的に尋ねたところ、「木を倒すときにけがをする危険はある」という答えしか返ってこなかった。違法であるという認識はほとんどないようである。
WWFによると、テッソ・ニーロの周辺には認可を得ていない製材工場が約65あると言う。私たちが訪れたシトゥガル村内のある違法製材工場では、25人が働いており、バラウやメランティを加工していた。原料はこの地域で伐採されたものを購入し、加工した製材は北スマトラの州都メダンなどに、メランティが1m3あたり25万ルピア(約3,300円)、バラウが50万ルピア(約6,700円)で売っていると言う。
リアウ州とその南側に位置するジャンビ州にまたがるブキ・ティガプルー国立公園は、1995年に指定された。12万7198haに及ぶこの地域の生物多様性は豊かで、700種にのぼる植物、59種の哺乳類と192種の鳥類が生息している。この中には、スマトラトラ、スマトラゾウ、ウンピョウ、コツメカワウソ、マレーバクなどの絶滅の危機に瀕している動物も多数含まれている。
公園内の一部は、以前は伐採権が認められていたために伐採道路が残っており、公園内に容易に入り込むことができ、違法な伐採が行われる原因となっている。また、公園の周辺、バッファーゾーン(緩衝地帯)に当たる地域にもたくさんの製材工場があり、公園内からも木材が供給されている。伐採には、地域住民の他、ランプン州、ジャンビ州、メダン、パレンバン(南スマトラの州都)などからの移民、政府役人や中国人などの商売人が関わっている。
私たちは、伐採が行われている公園東外側のバッファーゾーンと、公園北側に位置し、地元の人々が暮らすランタウ・ランサット村を訪問した。
公園東側に位置するケリタン村では、バッファーゾーンにあたる公園の周辺でたくさんの小規模伐採権(HPHH)が発行されており、伐採が進んでいる。しかも、同地域は制限生産林に指定されているため、直径60cm未満の樹木の伐採は禁止されているにも関わらず、直径20cm以上の樹木が伐採されている。
ケリタン村のバッファーゾーンで働く伐採者の話を聞いた。彼は、ランプン州出身で、ランプンでは保護区以外は森林がなくなってしまったために、この地に出稼ぎ労働者としてやってきた。これまで4年間この地域で働いてきており、現在は8人のグループで働いている。伐採した木材は、道路の近くにある製材工場に、クルインは1m3あたり70万ルピア(約9,300円)、クンパス50万ルピア(約6,700円)、メランティ40万ルピア(約5,300円)で売っている。グループのリーダーが月に300万ルピア(約4万円)、他の労働者が100万ルピア(約1万3000円)のそれぞれ給料を得ており、収入はいいと言う。ここで伐採された木材は、川を下ってマレーシアやシンガポールに運ばれる。
公園内中央部に広がるランタウ・ランサット村は、約200世帯のタラム・グママック人が暮らしており、ゴム採取、焼畑、伐採などを営んでいる。村の大部分は公園内にあるが、村人は保護区に指定されたことにより地域住民の資源が守られるため、歓迎している向きもある。周辺では、アチェ州などからの移民による違法伐採が行われていることに彼らは困惑しており、地域住民がブルドーザーを取り押さえるといった対立も発生している。また、公園内にはスマトラトラ が生息していることから、森林を伐採することによって生息地を失ったトラが家畜や人を襲うことがあると言う。
公園管理事務所の話によると、2001年には、警察や県の職員、公園事務所職員などが共同で3つのチームを結成し、公園内で6台の木材運搬トラック、2台のブルドーザーを捕まえたほか、6ヶ所の製材工場を検挙した。没収された木材は10万m3(1,500万ルピア相当)にも及んだと言う。こうした活動によって、公園内の違法伐採は少しずつではあるが減っていると言う。
今回の調査で世話になった現地NGO、HAKIKIの担当者は、これまでの約3年間の調査から、リアウ州の沿岸部や沿岸部の小さな島々の至る所からマレーシアへの違法な木材輸出が行われていることがわかったと言う。また、リアウ州南部を流れるカンパール川やクアンタン川の下流部にはたくさんの無認可の製材工場がある。さらに、この2つの川に挟まれた湿地帯では、禁止されているラミンの伐採が今でも行われており、いずれもマレー半島に輸出されている。これらの木材を運んだ船は、シンガポールに程近いインドネシア側の税関があるカリムン島で一時停泊し、マレー半島のマラッカやジョホールバールに入港する。
こうした違法伐採や違法な木材輸出を取り締まるため、インドネシア政府は2001年10月から丸太の輸出を禁止した。しかし、その後もマレーシアなどへの違法な木材輸出が絶えず、国際的にも非難を浴びたマレーシア政府は、今年7月インドネシアからの丸太の輸入を禁止する措置をとった。
その後の状況について調査するため、私たちはリアウ州北部の都市ドゥマイ周辺とルパット島を訪れた。
ルパット島のA村では、村の住民とメダンやジャワ島などからの移民が共に伐採を行っている。しかし、この村の住民には伐採権がないため、法的には違法である。伐採は太い木だけを対象とした小規模なもので、森林もまだ十分に残っていると、彼らは主張する。
以前は丸太はマレーシアのマラッカに輸出していたが、マレーシアが輸入を禁止した7月以降、丸太の輸出は止まった。両国政府の取締りが厳しくなり、「不可能になった」と言う。そのため、村人は収入が減り、農業や漁業に戻った人もいるが、失業者が増えた。
しかし、角材(丸太の四方を削って角型にしたもの)の輸出は今も行われており、マレーシアのジョホール・バールやクランに運ばれている。クンパスが1トン当たり400リンギ(約1万2000円)、メランティが300リンギ(約9,000円)、ラミンは600リンギ(約1万8000円)で取引されている。伐採も輸出も合法ではないため、海上警察や海軍に1人当たり40万ルピア(約5,300円)と、税関で500万ルピア(約6万7000円)の賄賂を払っていると言う。
ある男性は、木材を輸出した時にマラッカの税関で海軍と海上警察のチームによって捕まったことがあると言う。積まれていた20トンの木材は没収され、船と乗組員を返してもらうために7000万ルピア(約90万円)を払わされた。
同島のB村でも、以前は村の人々が伐採した丸太をマレーシアに輸出していたが、マレーシアが輸入を禁止して以降、輸出は停止し、丸太を運んでいた何隻もの船も港で停泊し続けていた。角材の輸出も、利益が大きくないために行っておらず、村の伐採は完全に停止した。その後は、多くの人は建築資材として売るための海底の砂を採取する仕事を行っているが、1日の収入は2万ルピア(約270円)にしかならず、生活には十分でないと言う。インタビューした男性は、伐採の森林への影響は大きくないと言うが、高値で売れるクンパスがなくなったのが角材が輸出できない理由であるという話から考えると、少なくとも高価な樹種については乱伐が行われたと考えられる。
スマトラ本島側のC村では、約15人の労働者が木材を船積みしている現場が見られた。労働者は地元の人々がほとんどで、移民も少し含まれている。15km離れた所から同じ労働者が伐採した木材だと言う。完全な角材ではないものの、何面かがチェーンソーで削られ、丸太でないことを装っているようであった。この船はマラッカ行きで、マレーシアの輸入禁止後も彼らの仕事に変化はないと言う。輸出認可証は、マレーシア側にいる中国人から入手している。扱っている樹種はディンタングールというメランティの一種で、1トンあたり20万ルピア(約2700円)で売っている。マレーシアの税関で80リンギ(約2,500円)の「通行料」を支払うと言う。伐採の認可を持っていないことについて、この仕事のコーディネーターの男性は、伐採は保護区ではないから問題ない、但し、輸出時に警察や関税に捕まる可能性はあると答えた。
以上の3つの村を調査した限り、マレーシアがインドネシアからの丸太輸入を禁止したことによる効果は、一部で見られた。しかし、チェーンソーで何面かを削っただけの丸太や角材の違法な輸出は続いており、違法伐採は完全には止まっていなかった。もっとも、私たちが調査した事例は主に地域住民によるものであり、政府から認可を得たものではないものの、小規模で、自ら管理を行い得るものとも考えられる。しかし、現実には海外への輸出という需要圧力を受けており、実際に高値で売れる樹種が枯渇している例も見られるなど、必ずしも持続可能な管理が行われているわけではないと言えそうである。
リアウ州内のいくつかの小規模な違法伐採の現場を訪れてみて、地域の住民が関与している事例と、他の州からの移民が行っている事例と、地域によって異なり、状況は複雑である。しかし、移民、特に出稼ぎ労働者による伐採では、持続可能性について配慮しているとは考えにくく、天然林を文字どおりタダで伐採している。森林管理のあり方、取締り方法、貿易措置、消費国による需要圧力の低減など、生産国にも消費国にも課題は多い。
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