森林シンポジウムを開催!「森の民の暮らしと私たちの生活」〜地球サミットから10年、森林問題を検証する〜
|
ロシアからは、ロシア少数民族連合のロディオン・スリャンジガさん、インドネシアからは、インドネシア環境フォーラム(WALHI)のロンゲナ・ギンティンさん、マレーシアのサラワクからは、ウォン・メンチューさんを招き、各国の森林伐採をめぐる状況についてお話いただいたほか、長野県大町市で林業を営む武蔵林業社の八木さんにもお越しいただき、日本の森林の抱える問題とその再生ついて提言をいただきました。
シベリアトラなどが絶滅の危機に瀕し、
|
ウデゲ民族(ウデヘ、ウディエ、ウデヘイなどと発音)は、極東ロシアに暮らし、ツングース・満州語の南部グループに属する言語を有する先住民族・少数民族です。元々は日本海に面したRazdolnaya川からTadusha川の河口に至る広大なウスリータイガ(針葉樹と広葉樹の混交した亜寒帯林)に住み、下流域ではカラフトマスなどサケ・マス類の漁労、上流域ではヘラシカ、アカシカ、ジャコウシカ、クロテンなど毛皮獣(19世紀後半より)の狩猟を生活基盤としてきました。
ロシア人の植民地化により居住地が狭められ、8つあったウデゲ民族のグループのうち、4つ(Imanka、Namunka、Kururmi、Khungari)はいなくなってしまいました。残ったウデゲ民族は移住政策でいくつかの村に集中させられ、プリモリエ(沿海)地方のビキン川流域とサマルガ川流域、そしてハバロフスク地方に居住しています。89年の国勢調査によると、総人口は2011人。ウデゲ語を母語として話すことができるのは、もはや高齢者だけ、全体の26.3%になっています。
ソ連時代は狩猟産業の集約・組織化が進み、国営の狩猟組合ではロシア人猟師が大半を占めるようになったため、狩猟で生活できるウデゲ民族は全体の5分の1、沿海地方ポジャールスキーの狩猟組合で働く人たちだけになりました。その他、多くが農業や林産業などに従事するようになりました。公務員として働く人たちもいます。ソ連崩壊後は狩猟が利益を生まなくなってきましたが、国営の狩猟組合を民営化し、ウデゲ民族の伝統経済を守る「ビキン社」として再出発しようとしています。現在は、個人消費のための漁労、朝鮮人参や山菜・ベリーなどの種の栽培、熊の胆汁やジャコウジカの麝香、毛皮の販売、家庭菜園での野菜の栽培などが生活の糧となっていますが、獲りすぎによる狩猟動物の減少や資源の枯渇も問題となっています。失業率も高く、政府からの食糧支給量も減っており、店舗に品物があっても買える人は少なく、アルコールや麻薬の乱用が問題となっています。肺結核の発生率もロシア人の5〜6倍と高いです。
近年、ウデゲ民族が数箇所に集中して暮らし、教育水準が高まってきたことも手伝って、民族としての団結と自覚が高まり、「文化的ルネッサンス」が起こっています。J.キモンコの著わした「スクパイ川のほとりで」が国内外で好評を博し、ウデゲの芸術家も活躍しています。民族博物館や民族文化センターもでき、ウデゲ語教育への取り組みも始まっていますが、教師不足に悩んでいます。ビキン社を含め、伝統的な自然利用による雇用創出をめざす民族企業もいくつかできています。
プリモリエ地方とハバロフスク地方の行政機関には民族問題省が設けられ、ぞれぞれの地域の北方先住民族協会には一定の自治機能が与えられています。また、先住民族基本法、先住民族の伝統的土地利用保護区の設置、地方議会と先住民族協会の協力関係、森林からの収入の分配などに関する法律や規定も整備されてきています。ただ、「ロシアの法律は世界一だが、法の実施は世界最悪」と皮肉が言われるほど、現実が伴っていない場合が多いです。
森林の商業伐採がウデゲ民族にとって新たな脅威となっています。1990年代前半、プリモリエ地方政府がビキン川上流の森林伐採権をロシアと韓国の合弁企業、スヴェトラーヤ社に与えました。フィンランド式のエコロジカルな伐採方法が使われることになっていましたが、実際は天然更新で回復できるレベルをはるかに超える容赦ない森林破壊が起こりました。それを目の当たりにしたウデゲ民族は反対運動に立ち上がり、その結果、海外からの働きかけもあり、地方議会の決議で伐採許可が取り消されました。
ハバロフスク地方でウデゲ民族が暮らすホル川流域、スクパイ川流域では、1997年に、サラワク州での乱伐や先住民族への酷い扱いで知られるマレーシアのリンブナン・ヒジャウ社に対し、ロシア初のオークション形式による伐採権発行が行われました。同社は10万米ドルで49年間の伐採権を手に入れました。この金は、10台の自動車という形で先住民族に物納される予定でしたが、届けられたのは2台だけで、残り8台は先住民族のいない村に渡されました。リンブナン・ヒジャウ社は、日本海の港に近いウデゲ民族が住むサマルガ川流域の伐採権も取ろうと動いています。日本企業もウデゲ民族の地域で伐採権を取ろうとしているとの情報があります。
タイガの破壊が先住民族の死を意味することは明白です。さらに、先住民族が消えると森林破壊も加速されます。プリモリエ地方では、先住民族が住み、伝統的な生活を守っている場所にだけタイガが残っています。アムールトラも生息するこの森林は野生生物の宝庫で、ウデゲ民族はNGOと協力してユネスコ世界遺産への登録を目指して活動しています。先住民族は伐採に従事する人もおり、経済利用の必要性も認めていますが、持続可能な範囲にとどめる必要があります。このため、以下のような取り組みが必要です。
1. 自然保護運動への先住民族の参加
2. 伐採に先立つ環境影響評価への先住民族の参加
3. 木材加工技術や持続可能な伐採方式の導入、森林の回復のためのプロジェクトの実施
違法伐採が横行し、消滅の危機にあるインドネシアの熱帯雨林
|
インドネシアの熱帯雨林は、ブラジルについで2番目の規模で、そこには4〜6千万人の先住民が生活を営んでいます(インドネシアの総人口は2億人)。また、熱帯雨林は、非常に多様な生物の住処でもあります。インドネシアに生息する生物種は世界の40%にも上り、植物は25%、魚類は15%にも及んでいます。さらに、熱帯雨林は、気候および水資源の安定化にも寄与しているのです。
1940年代には1億3000万haあった熱帯雨林のうち、2000年現在で、フロンティア林(原生林)の72%が消滅してしまいました。1960年代には森林の商業化政策、1980年代は木材加工産業の振興、1990代にはプランテーションなどの森林の転換政策等が原因で、1984〜98年では毎年240万ha、最近は毎年300万haの森林が消失しています。現在の速度で森林が破壊されつづけると、2005年までにスマトラから、2010年までにカリマンタンから、2015年までにスラウェシと西パプアからそれぞれ熱帯雨林が消失すると予測されています。
政府の統計では、1994年から98年にかけて丸太の生産量は年々減少しているにもかかわらず、木材製品(製材、合板、紙パルプ)の生産は年々増加しています。この差が何に起因しているか調べると違法伐採の実態が浮かび上がってきます。
1998年の木材の需給を比較すると、インドネシアの国内木材の消費量は年間5,110万m3で、輸出向けには年間4,890万m3が消費されています。一方、供給面を見てみると、年間2,190万m3の木材が輸入で賄われて、残りの年間7,810万m3が国内で供給されていると言われています。正式な手続きによる伐採はわずか年間2,140万m3でしかなく、上記国内供給量(年間7,810万m3)との差の年間5,670万m3の木材は違法伐採であり、実に供給量の70%が違法伐採であることを物語っているのです。
また、近年は特に紙パルプの生産が急激に伸びており、天然林の皆伐やプランテーションなどへの転換に拍車がかかっています。1998年には森林火災で1,000万haもの森林が消失し、その煙が隣国に健康被害を及ぼすほどになりましたが、その主原因はプランテーション開発のために行われた火入れであると政府も認めています。
インドネシアの森林経営は、もはや環境面でも経済的にも持続可能ではなく、破壊的で、抑制不可能な状態に陥っています。
森林経営の構造的問題の根本原因は、先住民の森林所有権が明確でないこと、及び木材産業が過剰生産能力を抱えていることにあります。このことが、異常なまでの違法伐採、林産業の債務超過、林産物価格の過小評価、森林火災、天然林の転換・皆伐を引き起こし、生物多様性の消失、洪水、土砂崩れ、土壌浸食、土地災害、健康被害、貧困問題を招いているのです。
熱帯林から1haあたり毎年1m3の木材を生産できるという誤った仮定から、膨大な国費も費やして合板工場や製材工場、紙パルプ工場が作られてきましたが、稼働率が低く、債務を負って経営が悪化しています。脆弱な法の執行と蔓延する汚職と癒着のため、林業関係の政府役人に賄賂を払えば簡単に盗伐材を「合法材」にする書類ができることも大きな問題です。また、地域住民にとっては、いつ土地や森林に対する権利を抹消されるかわからない状況では、植林したり森を守ったりする動機も生まれず、生活のための乱伐に手を貸すことが多くなっています。
このように、インドネシアの熱帯林は悲鳴をあげている状態ですが、これはインドネシアだけの問題ではありません。日本をはじめ、インドネシアから木材を輸入している国々にも責任があります。日本が輸入している熱帯木材の約40%がインドネシアからのものであり、日本の姿勢がインドネシアの森林に大きな影響を与えることを自覚して欲しいと思います。
私が日本の消費者に訴えたいことは、まず第一に、森林は木材生産のためだけにあるのではないということです。木材の価格には、生態系の破壊や、木を伐採することによって失われる森に住む人々の生活や文化などの価値が入っていません。木材は本当はもっと高いものであることを認め、木材価格に環境コスト、社会コストを含めることが必要です。日本人も、海外から安い木材を買うことが、どのような影響を与えているかに気付くべきです。
次に、木材製品を買う時、その製品がどこからのものなのか、その国の状態はどうなのかを気にすることが大切です。そしてなにより、消費国は自国の森林資源を活用する努力をすべきだと思います。特に日本は、国土の70%が森林なのですから。
最後に、原生林や違法伐採による木材の使用を停止し、環境面・社会面で持続可能な方法で生産された木材のみを利用するグリーン購入を進める必要があります。「買う」ことは投票と同じで、違法伐採して作った製品を買うことは、違法伐採に関わった企業を応援・賛成しているのと同じことになるのです。
「環境型」支配
|
私は、過去20年間程、サラワクの先住民族の方々と様々な困難を乗り越えて、活動をしてきました。サラワクに住む人々の生活についてお話ししたいと思います。
ボルネオ島の森林は非常に密集したジャングルで、湿度の高い熱帯雨林の地域です。1haの面積に700種以上の木が生えているといわれています。
森林伐採が始まる時は、まず伐採道路が作られます。これによって表土が流出して非常に深刻な被害が発生します。熱帯林地域の伐採は、いわゆる木を皆伐しない一部の木だけを伐採する択伐方式だと言われますが、択伐方式でも深刻な土壌の劣化などの環境破壊が起こっています。
伐採が終わった後に森林が皆伐され、プランテーションになってしまうこともよくあります。皆伐する際にいちばん簡単なやり方は森を燃やしてしまう方法です。しかし、そうすることによって火災から生じた煙が大きく広がって健康被害などを発生させています。また、このようなプランテーション開発というのは地域の住民との土地問題も起こしています。住民に事前に何の通知もなく、いきなりブルドーザーが入ってきて彼らの土地を荒らしていきます。
一方、地元住民が伝統的に行っている焼畑耕作は、土地を掘り起こさない不耕起式の農業のやり方で、焼畑というのはもしかしたらよい言い方ではないかもしれません。むしろローテーションを組んで農業をするといったほうが良いかもしれません。木を切ったあとに火をつけて穴をあけたその中に種を蒔き、育てるのです。要するに掘り起こしていないということです。そのように作付けをしたあとに雨が降ると作物が育ってきます。様々な作物を一緒に植えるようにしています。このような移動耕作・焼畑耕作に関して最近様々な研究がなされていますが、このような自然環境の中では最も合理的で科学的な農法だと認識されつつあります。
プナン民族はサラワクの最も奥地に暮らしている先住民です。一部には定住している人達もいますが、今も定住せずに移動生活を送っている人達がいます。彼らはまったく当てがなく放浪しているわけではなく、決められたサイクルにのっとり住む場所を移し、そこで狩猟や採集を行って暮らしているのです。このプナン民族は、伐採道路を封鎖したりして、伐採に反対する運動をしてきました。プナン民族だけでなく、クニャー民族の人達も伐採道路の封鎖をしています。80年代の後半からこのような反対運動が続いています。
80年代の後半にこのような道路封鎖などの運動が高まって以来、日本も含め国際的に森林破壊の問題やそれに対する人々の生活の問題についての関心が高まりました。ただ、マレーシア政府はこのような世界で叫ばれている声や国際的な関心にあまり目を向けようとしません。
当初は、このような伐採などに反対する住民に対しては、逮捕をして投獄したり村に軍隊や警察を派遣したりといった非常に厳しい弾圧を政府はしていました。しかし、最近はやり方を少し変えて、環境グループが言っている要求や批判というものを表面的に取り入れるような緑の方策をとり始めていて、そのような一見環境にやさしいような内容を新しく森林経営システムに盛り込もうとしている会社も出てきています。南の国の森林が北の国の排出した炭酸ガスの固定源になりうるということを主張して援助を取り付けようとしているのです。また、最近になってマレーシア政府は生産された木材を認証するエコラベリングを開始しようとしています。加えて、地元住民にいろいろな開発プロジェクトなどを提供し始めています。しかし、このようなことは非常に表面的な性格を持っていて住民の問題を実質的に変えるには至っていません。そしてその傍らで従来通りの森林伐採が続いているのです。
90年代の初めに、国際熱帯木材機関(ITTO)という国際機関がサラワク州に招かれてサラワクの森林の様子について調査をしました。その結果、横浜に本拠地のあるITTOは、サラワク州の伐採が持続可能になるためには1年間の伐採量を920万m3以内に抑えるべきとの報告をしました。しかし、マレーシアの木材業界はITTOの勧告を守らずに、それよりもはるかに多い1年間に1300〜1900万m3もの木材をこの10年間にわたって伐採を続けてきたのです。また、ITTOは当初、持続可能な森林経営によって生産されたものでない木材の国際取引を止めるという目標を掲げていたにもかかわらず、その約束を破ってしまったわけです。
違法伐採が世界的に大問題にされてきていますが、実はマレーシアもそのような違法伐採に深く関与しているのです。Environmental Investigation Agency(EIA)という国際的な団体の調査によると、マレーシアで生産されている35%以上の木材が違法伐採によるものだと指摘されています。しかし、同時にインドネシアなどから違法伐採された木材がマレーシアを経由して国際市場に出回っている情報があります。ITTOの報告でも輸出量と輸入量の間に大きな食い違いがあり、これは違法伐採によるものだろうと書かれています。
近頃、国際的に木材認証に関する関心が高まってきていますが、マレーシアも例外ではありません。ただ、あくまでも利益目的でそのような方法をとっているわけで、木材認証・エコラベルを取ることによってビジネスを続けようということなのです。実際、今年の初めからマレーシアでも木材認証制度がスタートしたのですが、この制度では先住民の土地や森林に対する権利が認められていません。そういう意味ではまだ信頼に足る認証だと考えることはできません。
従来の森林伐採は、地域住民が生活の頼りとしている森林資源を劣化させていくという非常に深刻な問題ではありましたが、今はさらに深刻なプランテーションの問題があります。住民の土地を全て奪い去ってしまうような結果を生んでいるのです。現在、150万haの先住民の慣習的な土地が、油やしのプランテーション開発予定地として区画されています。そのような計画の中にはコンセプ・バル(新構想)と呼ばれる土地銀行構想というものがあります。それは先住民が土地を提供する代わりにその会社の株主になるというものなのですが、株主と言っても、会社の経営には一切関与できないのです。
また、非常に広い面積の州有地や先住民の慣習的な土地が、オーストラリアから輸入された外来種であるアカシアなどを植える木材プランテーションにも転換されています。このような木材生産のためのプランテーションが造られると、やはり大きな被害を起こし生態系のバランスを崩すことになります。このような大規模の開発行為は、人々の経済的な生活面や物理的な環境を劣化させ健康への被害をもたらすだけではなく、文化を破壊する影響をもっています。
また、政府は住民の反対運動に対してさまざまな新しい悪法を定めて抑圧をしようとしています。森林法や土地法が改定されており、例としては住民が伐採道路を封鎖する行為自体を違法と定めています。また近年、地域住民が自分の土地の権利を守るために地図を作る活動が盛んになっています。それは、あるパルプ・プランテーションを造っている会社が自分たちの森に侵入してきたときに、その地図を使って裁判に勝訴したことによるものです。しかし、その判決のわずか半年後に、政府は政府が認めた測量士以外の人が地図を作ることを違法とする法律を制定しました。
皆さんはすでにこのような伐採や木材消費によって生産国側で起こっている問題に気づき始めていらっしゃることと思いますし、輸入国である責任も感じていらっしゃると思います。私が皆さんに特に強調したいことは、現在日本の方々は自分の健康や身の回りのことについて関心が非常に高まっていると思いますが、さらに視野を広げ自分たちの木材消費が引き起こしている他の地域の問題にも目を向けていただきたい、ということです。日本の皆さんがこれから現地で苦しんでいる人たちと連帯して、具体的な行動を取って下さることを期待しています。
日本の林業の現状
|
1995年の統計によると、日本の森林率(国土に対する森林の割合)は67%という高水準を維持しています。これに対して世界の平均森林率は26.6%で、50%を超える国は日本以外数カ国にしか過ぎません。日本はまさに森林の国といえます。
日本は海外から「日本には沢山の木があるのに自国の木を大切にとっておき、大量の木を輸入している」と批判を受けています。このことは木材自給率の変遷を見ると良くわかります。昭和30年にはほぼ100%であった木材自給率が徐々に低下し、はじめは30%までで留まると予想されていましたが、現在は20%にまで落ち込み、80%は輸入木材に依存している状況です。
平成11年現在の日本の森林面積は2,500万haで、このうち1,000万ha(40%)が人工林、1,500万ha(60%)が天然林です。木は切らない方がいいのではないかとよく聞かれますが、人工林と天然林とでは森林に対する考え方が全く異なります。白神山地などの天然林は伐採しない方がよいのですが、人の手で植えた人工林については最後まで人の手で管理しなければ、山は崩壊してしまいます。日本の林業は主に人工林で発展してきた歴史があるのです。
昭和41年の森林蓄積は19億m3でしたが、平成11年には38億m3まで増えました。森林が増加しているのは一見良さそうに見えますが、増えているのは人工林の蓄積であり、これは間伐が行われずに放置されたままの細い木が増えていることを表しています。間伐を行わないと蓄積は増えても、有用な太い木は育ちません。
スギ丸太1m3あたりの木材価格は、昭和40年を100とすると、平成11年は73まで下落しています。これに対して賃金は5.62倍に上昇しており、諸物価に比べても木材価格は低く抑えられているのが分かります。実際の取引価格を紹介すると、スギでは4mの長さで末口(木の細い方の直径)が14〜20cmのものが1m3で9,000円、末口22〜30cmのものが12,000円〜17,000円、末口36cmのものは33,000円です。
一方、伐採と市場までの運搬に最低でも1m3で10,000円掛かり、木材の販売価格とほぼ同じになります。伐採現場が林道から離れるに従ってコストが上がり、赤字になることもあります。このため、採算に合わない細い木は「ごみ」扱いにされています。以上の話は、木を育てる40年間にかかるコスト(1haあたり200万円)は含まれておらず、40年間ただ働きと計算した上での話であり、いかに木材の価格が安く抑えられているかが分かります。
森林を支える人々をみると、森林就業者は昭和35年には44万人いましたが、平成11年には7万人と大幅に減少しています。現在、就業者は高齢化しており、65才以上が29%で、50才以上では70%に達しています。日本の森林を維持するには最低でも20万人位就労者数が必要で、今のままでは日本の林業は維持できない所まで来ています。
日本の森は雨が多いため、樹齢が10年になるまでの間は除伐をしなければならず、非常に手間が掛かかります。樹齢が10年を越えるとあまり手は掛からなくなりますが、木が生長する間、間伐は不可欠でこれをやらないと木が大きくならないし、また、地面の土壌流出の原因にもなります。
現在、日本の人工林の樹齢は21〜40年で6割を占め、早急に間伐を行なう必要があります。最近間伐された面積は24万haで、間伐が必要な面積は100〜300万haもあり、必要面積の4分の1以下しか間伐されておらず、4分の3以上の森林は荒廃に向かっているのです。
昭和30年代、ライフスタイルに変化があり、燃料は木材からガス・石油に転換されました。これに伴い安価な外材が輸入され、国産材の価格が低迷、収入が減少したため林業就業者は林業を離れざるを得ませんでした。このため十分な森林の管理が出来なくなり、森林は荒廃の危機に直面しています。
日本の森林は人工林が多く、天然林の多い海外とは状況が根本的に異なっています。先にも述べたように、人の手で作られた人工林は最後まで人の手で管理する必要があります。現在私たちは、日本の森を有効な資産にするか、荒れ果てたゴミとするかの岐路に立たされているのです。
日本の森林には先人たちが守った蓄積があり、今間伐を行えば、森林を守ることが出来ます。森林は保水機能が大きく、緑のダムと呼ばれ水の確保には欠かせません。また、土砂流失を防止し、災害予防に貢献出来ます。
日本のNGOの活動 |
FOE Japanは政策提言型のNGOとして問題の原因を調査・研究し、改善策を社会に提言しています。最近の活動を紹介すると、極東シベリアの森林保護活動の調査団として参加し、違法伐採に対する反対活動を行ないました。調査の結果、違法伐採は現場の違法行為より営林署および輸送段階での書類の偽造により助長されていることがわかりました。違法伐採をなくすには、ユーザーである日本人がこの実態を知って反対の声を上げる必要があります。G8でも違法伐採は取り上げられており、今回のようなシンポジウムを通じて市民の声をあげることが重要だと考えています。
世界の森林、特に熱帯林の問題が世界的に関心が集まったのは1980年代の後半頃からです。当時は東南アジアが熱帯木材を輸出し、日本が輸入するという状況で、日本は熱帯林を破壊している国として世界中から非難を浴びていました。こうしたことから、日本のNGOは国内の熱帯木材消費を改善するために様々な活動を行ってきました。特に、地方自治体に対して公共工事における熱帯材の使用を削減するよう働きかける活動については、170以上の自治体が何らかの対策を行ない、成果を上げましたが、期待されていた民間への波及効果はほとんどありませんでした。建築工事の9割を占めている民間の取り組みは、重要かつ不可欠です。
近年、世界的には、企業が自ら原生林から産出された木材の利用を停止したり、適切な経営が行われている森林から産出された認証木材の利用を進めるなどの取り組みが行われています。こうした取り組みが日本でも推進されるよう、企業に訴えていきたいと考えています。
質疑応答 |
質問者:日本の木材価格を紹介されましたが、外国の木材価格はどの位でしょうか?
ギンティン氏:熱帯材の価格は1m3あたり100〜150ドルで取引されています。この価格には労賃、手間賃だけで、社会的・環境的なコストは含まれておらず、きわめて低いものだといわざるを得ません。違法伐採された木材は、免許、伐採許可費用、取引に係わる諸費用が含まれていないので、さらに安い価格で取引されています。
質問者:理想的な木材追跡システムについて教えてください。
ギンティン氏:木材追跡システムは“Local Audit”と呼ばれています。木材がどこで伐採され、どのように経由して業者に販売され、消費者に届くか追跡します。すべての過程で透明性が確保されれば有効なシステムといえますが、途中で書類を偽造された場合、追跡は出来なくなります。このシステムをうまく働かせるためには、住民、NGOも参画した監視システムが必要です。また、情報は一箇所からだけでは信憑性に疑問があり、何箇所からか集める必要があります。
質問者:荒れた森林は元の天然林に戻るのでしょうか?
八木氏:土壌が流出していなければ、天然林に戻る可能性はありますが、先に土壌が流失していれば木を植えようが広葉樹の種が飛んこようが回復しません。ある程度間伐が進んでいるところでは、種が飛んできてある程度は戻るかもしれません。しかし、まったく手入れがされていなければ、栄養も十分でないので天然林に戻る可能性は少ないと思います。
質問者:公共事業労働者を林業労働者へ転換の可能性はいかがですか?
八木氏:長野県は田中知事が就任し脱ダム宣言が出され、従来の公共事業が減り林業関係の公共事業が増えています。従来、林業組合だけが林業を独占していましたが、現在は一般の建設会社も林業への参入が可能になりました。初めての試みだと思います。
※この記事は、FOE Japan、サラワク・キャンペーン委員会、先住民族の10年市民連絡会のご協力をいただきました。
ニュースレター記事一覧 | JATANの活動 | ホームページ
© 1999-2003 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)