世界の森林問題入門コーナー<5>

森林破壊の原因(その1〜商業伐採)

 森林破壊の原因は、商業伐採、農地や牧草地への転換、鉱業開発など様々で、地域によっても異なります。世界資源研究所(WRI)は、各地域の専門家から集めた情報をまとめた結果、破壊の最大の脅威は商業伐採であり、破壊に脅かされている森林の72%において伐採がその原因であると報告しました。また、森林が最終的に農地や牧草地、植林地などに転換される過程において、商業伐採がその最初の段階における役割を果たしているという意味でも、その重要性は大きいと言えます。 

森林が脅かされている原因

伐採  72%
採鉱、道路等 38%
農地開発  20%
過度な木材採取 14%
その他  13%

(WRI The Last Frontier Forests )

熱帯林の破壊の過程

 通常、すべては道路の建設から始まります。これは、世界銀行などによる「開発」計画の枠組みの中で融資されるのが典型的です。

 道路が造られると、伐採業者、機械類、トラックがやって来ます。伐採業者は、その国の政府から伐採権を得て、何世代にもわたって森林に暮らしてきた人々の土地に侵入します。伐採業者は、森林に暮らす人々の権利がないことを主張しますが、そもそも、伐採業者に権利を与えている国の政府は、先住民族が森林に暮らし始めた時には存在すらしていなかったのです。伐採によって、森林に住む人々は生活の場や資源、文化を奪われて貧困に追い込まれ、最後には残された森林からも追い出されます。伐採業者以外にも、道路によって狩猟や採鉱などを行う外部の人間が侵入し、地域社会から資源を奪い、河川が汚染され、地元住民の基本的な食物である魚の多くが死滅します。

 熱帯林樹種の大部分は、それぞれがまばらにしか存在せず、ほとんどの樹種は商業的価値がないため、多くの場合、森林内の一部の樹木だけを伐採する方法が用いられており、これを「択伐」と言っています。「択伐」は「皆伐」にて比べて被害が小さいと思うかもしれませんが、熱帯地域の平均的な伐採権は数十万ヘクタールであり、国全体ではどの国でも数百万ヘクタールに上り、被害は広範囲に及んでいます。

 実は、森林が受ける被害は伐採作業中に付随的にもたらされるものが多いです。伐採対象の木が切り倒される時、周りの多くの木をもなぎ倒してしまいます。伐採された木材は、森林を切り開いてつくられた道路やすべり板のレールを通って輸送されます。輸送に使われる重いトラックやゴムのタイヤが付いた機械類は、植生を破壊し土壌を固めてしまいます。運んだ木材を一時的に置く広大な集積場は、森林を皆伐してつくられます。こうした伐採作業によってもたらされる被害の大きさは様々ですが、国連食糧農業機関(FAO)は、森林面積の30〜40%程度、大規模なものや配慮に欠けたものの場合は70%にもなると推測しています。

 伐採後の影響も多大です。伐採によって樹冠(枝や葉が集まった部分)が減少するため、降雨時に樹冠に降り注いで受け止められる雨量と、その後樹冠から大気に蒸散する水分が減少することになり、大気と陸地の間の水循環に影響を及ぼします。植生が破壊され、固められた土壌に注がれた降雨は、土壌中に浸透することなく、外部に流出してしまいます。また、土壌侵食によって栄養分が奪われ、河川の汚染や堆積が引き起こされます。そもそも、森林内の栄養分の多くは樹木の内部に蓄えられており、土地はやせているため、樹木が伐採されることによって多くの栄養分が消失すると、森林の再生は困難になります。

 森林火災も起こりやすくなります。林地に残された廃材や成長の速い下草が大量の燃料となり、猛威をふるう森林火災が広がる原因となります。自然な状態では燃料となるものは少なく、干ばつの年でも湿度が高いので、熱帯雨林はそれほど燃えやすいものではありません。

 森林が切り開かれ、森林に暮らしていた人々が移住させられた後に、大規模な農業や牧畜、単一樹種植林などが行われると、ついに森林は完全に消失することになります。これによって、かつて生息していた多様な生物と多様な機能を持っていた生態系が一掃される過程が終了します。

熱帯以外の地域における伐採

 熱帯以外の地域でも、ヨーロッパ、北米、ロシアにおいて、伐採が森林破壊の原因となっている割合は高く、特に、東部シベリアやカナダのブリティッシュコロンビア州などにおいて、伐採が森林破壊の最大の原因となっています。■

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