JATANは、これまでオーストラリアの製紙用伐採の問題に取り組んできましたが、9月にはオーストラリアから2人のNGOメンバーを招き、関係省庁や関係会社を訪問したほか、一般向けの講演会を行いました。2人の来日時の活動と関連ニュースを報告します。
今回の来日は、JATANの招待と、オーストラリアのいくつものNGOから資金の一部を負担してもらうことによって実現した。
来日したのは、ハリアット・スウィフトさんとティム・キャドマンさん。この二人は、オーストラリアのNGO内の投票によって選ばれた。JATANとも頻繁に連絡を取り合っていた方々である。
↓記者会見で木材チップを見せるスウィフト氏
スウィフト氏は、オーストラリア南東部において、木材チップのための伐採に反対するキャンペーンを行う団体「CHIPSTOP」の代表で、現地イーデンで操業するハリス大昭和の木材チップ工場による伐採問題に取り組んでいる。
スウィフト氏は、「オーストラリアは30年以上にわたって天然林木材チップを日本に供給し続けてきており、ハリス大昭和が伐採しているイーデン地域では、コアラが地域的な絶滅の危機に瀕している。しかし、今や初めて解決策が出てきており、これまでに行われた植林によるものだけで、植林木の供給可能な量は数年後には天然林伐採による量をすべて置き換えられるだけの十分な量に達するため、天然林の伐採中止は可能である」と訴えた。
キャドマン氏は、国際的なNGOである「Native Forest Network」の創設メンバーで、長年タスマニアで活動してきた。森林管理協議会(FSC)のメンバーをも務めており、現在は大学で持続可能な森林経営と認証・ラベリングの研究も行っている。
キャドマン氏は、オーストラリアの熱帯地域、亜熱帯地域、温帯地域のそれぞれに広がる森林やそこに住む生物を紹介した後、破壊的な伐採の様子をスライドで紹介したり、天然林の伐採後に撒かれる「1080」という毒物によって、毎年50万頭のワラビーなどの動物がタスマニアで殺されていること、植林のために天然林が伐採されていることなどを話した。そして、適切な植林を進めるために、独立した第三者機関による木材認証が必要であり、オーストラリアのNGOは木材業界と共同でこうした作業を進めていることを紹介した。
各訪問先や講演会でよく聞かれた疑問が2つあった。
まず一つ目は、伐採の規制についてである。
地域森林協定(RFA)は、中央政府と各州政府との間に結ばれる協定で、森林政策に関する主要な法規制である。この地域森林協定の主な問題点は、以下の通りである。
二つ目の疑問は、世論調査では80%の人々が反対しているのに、なぜ伐採が止められないのかということである。この理由については、伐採企業が与野党両党に多額の献金を行っており、業界の力が強力であることをあげた。
今回の2人の来日に合わせて、JATANは在京の製紙会社3社に面会を申し入れた。申し入れは2週間前に行ったが、来日のたった2日前に、しかも3社とも同じ日に面会を断ってきた。その理由は、「昨年面会し、その後状況は変わっていない」(日本製紙、昨年日本人4名が同社を訪問した)、「製紙連合会が対応している」(王子製紙)といった、ほとんど理由になっていないものであった。しかも、「現地の保護団体の話を聞く気はない」(王子製紙)や、「天然林を伐ってもいいと言うなら会ってもいい」(日本製紙)といった発言もあった。三菱製紙はFAXを送ってきただけで、面会を断る理由についての記載はなかった。
静岡で大昭和製紙に面会を申し入れた者に対しても、経営統合した日本製紙に問い合わせるよう返答したり、日本製紙が受け入れないことを伝えると、「きちんと文書で申し入れないから」などと言い訳する有様であった。
来日者の1人であるキャドマン氏は、「我々に会おうとしないのは、彼らがオーストラリアで行っていることが非常に悪いということを知っているからだろう」とコメントした。また、大昭和製紙と経営統合した日本製紙の環境への取り組みに期待していたスウィフト氏は、「昨年は経営統合がまだ行われていないから、あまり答えられないと言った。経営統合が行われた今は、状況は変わっており、去年答えられなかった質問に答えられるはずだ」と、日本製紙の対応に不満を表した。
翌日になって、王子製紙の担当者からは同社が同時期に開催している「環境展」についての知らせが来た。自らの宣伝には熱心だが、外部の話は聞かないということのようだ。
キャドマン氏は、植林事業によって天然林が伐採されていることを明らかにした報告書を、昨年末に発表している。そのひとつの例として、三菱製紙、三菱商事、東京電力がタスマニアで行っている植林事業をあげている。
↓三菱・東京電力の植林予定地。
明らかに天然林を伐採している。(写真:原田公)
この事業(Tamar Tree Farms Project)は、三菱製紙と三菱商事が1996年から始め、2000年から東京電力が資本参加したものである。日本側3社が合計38%、現地のガンズ社が62%を出資している。
3社は、植林対象地が「牧草地、潅木地、荒廃地」としているが、キャドマン氏の報告書では、対象地において天然林の伐採が行われていることを具体的な証拠を挙げて示している(www.nfn.org.au/kyoto/cs1.html)。
こうした現状について情報提供を行い、対応策を求めるために、東京電力に面会を申し入れたが、「3社で行っていることなので、単独で話を聞くことはできない。現地のガンズ社に問い合わせて欲しい」といった、全く誠意のない対応であった。キャドマン氏は、「ガンズ社は植林事業のためにオールドグロス林を伐採しているが、我々の言うことに全く耳を向けない。三菱製紙や東京電力からの忠告がなければ、彼らは行動を起こさない」と、コメントした。
JATAN NEWS No.47でもお知らせした通り、富士通は来年のカレンダー用の紙に、植林木だけを用いた紙を採用した。これは王子製紙がパプア・ニューギニアで行っていたアカシアの植林によるもの。富士通は、普通紙に替わるものを探していたが、再生紙ではカレンダーに使う写真の質が落ちるため、植林木による紙を採用するに至った。値段も普通紙と変わらないという。
スウィフト氏は「植林木は同じ樹種・同じ樹齢の原料が得られるため紙としての質は高く、漂白が必要ないという面でも優れている」として、植林木の利用をさらに進めることを同社に依頼した。電機メーカーの環境への関心は高いことから、富士通をはじめとした企業にこうした取り組みを進めてもらうことが期待される。
2人が来日する直前の8月、三菱製紙は八戸工場でFSC(森林管理協議会)のCoC認証を取得したと発表した。CoC認証とは、生産・流通・加工工程の管理認証で、認証された森林から生産された木材による製品であることを認証するものである。FSCでは、紙の場合、全バージンパルプの30%以上(2005年より50%に引き上げられる)、かつ、すべての原料の17.5%以上がFSC認証木材である場合に認証マークを付けることを認めている。従って、三菱製紙は、認証された森林から生産された原料を購入し、FSCが認める割合で認証木材を用いることにより、製品にFSCのマークを付けることができることになった。現在は、チリと南アフリカからユーカリ木材チップを購入しており、2003年からはチリ、2008年からはエクアドルのそれぞれの自社植林地から認証木材を調達する計画を立てている(詳しくは、同社のホームページを参照)。
製紙会社が木材認証を取得したことは、環境等に配慮した方向に向かっているという意味では歓迎すべきことであろう。しかし、留意すべきことは、バージンパルプの原料のすべてが認証木材ではないという点である。現在の基準では、利用するバージンパルプ原料の70%までもが非認証木材でよいことになっている(2005年以降は50%まで)。三菱製紙は、タスマニア等から天然林木材チップを購入しており、それが非認証材として利用され続ける可能性がある。こうしたことから、今後もタスマニアにおける三菱製紙の動きから目を離すことはできないし、残念ながら、FSCのマークが付いていれば安心ということにはなりそうもない。
製紙業界を所管する経済産業省紙業生活文化用品課への訪問では、製紙用伐採や植林事業のために天然林伐採が行われている実態を画像を用いて紹介した。
森林総合研究所で海外各国の林業実態の調査を行っている担当者との会合では、オーストラリアの現状について強い関心を持ってもらうことができた。
東京と大阪で行われた一般向けの講演会では、合計約50名が参加し、スライドやビデオを用いた講演が行われ、森林に関する法規制や木材チップ産業と政治との関わりなどについての質疑応答が行われた。
今回の来日については、静岡のテレビ局と静岡新聞、毎日新聞で取り上げられた。また、静岡の団体には、この問題に関心を持ってもらい、活動を始めてもらうことができた。何よりも、来日した2人に日本の情報を知ってもらい、また、いくつもの関係を構築・発展させることができたことは大きな収穫であると思っている。■
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